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【N02】父に感謝するシリコンバレー #旅とわたし

昨秋、アメリカ・カリフォルニア州のサンノゼへ旅行しました。

前職を辞めて時間と心の余裕ができた、というのが理由の一つ。前職でお世話になった人たちが勧めてくれた、というのも理由の一つ。今までやったことのないことがしたい、というのも理由の一つ。なにより単純に、世界最先端の知識と技術が集まるシリコンバレーの様子を見てみたいと思いました。

しかし私は、成田空港のロビーから保安検査場に入る直前まで、「行きたくない……やっぱりやめようかな……」とガタガタ震えておりました。

何故なら、海外への一人旅が初めてだったから。

幼いころから両親に、口酸っぱく言われ続けていました。「旅行が好きなのはいいけど、女の子なんだから、安全には気をつけなさい。特に海外へ一人で行ったりしてはいけません」。箱入り娘だったんです。

昨春までは、一人で海外へ行きたいなんて一度たりとも思ったことがなかったので、良かったのですが(友人とのグループ旅行は何度かあります)。

いざ「自分だけでアメリカへ行こう」と決め、飛行機のチケットを取ってホテルを手配して旅程を立てていると、わくわくすると同時に、どうしようもなくざわざわしました。

(↑サンフランシスコからサンノゼへ移動する途中で乗ったカルトレイン)

そもそも私が旅行好きになったのは、両親の影響が大きいです。

はじめて飛行機に乗ったのは、生まれて数か月後、まだ言葉も話せない頃。父の転勤にあわせて引っ越すため、母に抱かれて乗ったと聞いています。

はっきり自分の記憶だと自信を持って言えるのは、4歳の時に地元へ帰るために乗った飛行機で、雲の切れ間から見た富士山が最初です。

小学校に上がってからは、休みのたびにどこかへ連れて行ってもらいました。車で近所の動物園に。バスツアーで隣の県の温泉に。子どもたちだけで瀬戸内海を一周するクルーズ旅行に参加させてもらったこともありました。

夏休みは沖縄、グアム、ハワイ。春休みはシンガポール、イタリア、オーストラリア。色んな国の色んな町へ行きました。

私は本を読んだりゲームをしたり、歌を歌ったりすることも好きです。それらのインドア趣味と、旅行好きという完全にアウトドアな趣味は根っこが同じだと思っています。現実か空想かを問わず「自分の知らない場所へ行って、知らないものを見て、聞いて、考えること」が好きなのです。

しかし、幼いころから繰り返し言い聞かされた教えというものは、なかなかどうして心と身体を縛るものです。

一人でアメリカに行きたいけど行きたくない。

「未開拓の無法地帯へ行くわけじゃないんだから」「今時、女性の一人旅なんて珍しくも何ともないでしょ」と、一生懸命自分に言い聞かせ、這うようにして出国審査を突破しました。

長い間、自分を縛っていた呪縛から、ようやく解き放たれた気がしました。

(↑スタンフォード大学のフーバータワー)

すると今度は、ごくありふれた浮遊感に襲われました。未経験の物事に挑戦するときの、わくわくとドキドキが入り混じった気持ち。飛行機なんて何十回も乗ってきたし、国際線だって誰かとなら何度も乗ったのに、一人だけでのフライトは全然違いました。

10分おきに時計を見てしまう。シートベルトをちゃんと締めているかが気になる。CAさんに機内食の種類を訊かれて「チキン」と答えるだけで心臓バクバク。隣の席のアメリカンなおばさまの素敵な笑顔に救われました。

想像以上の精神的疲労を乗り越えて、いよいよ出入国カードの準備を始めた時、ふと父の横顔を思い出しました。

かつて旅行代理店に勤めていた父は、いつも家族専属ガイドとして私と母を導いてくれました。最もお得な方法で日本円と現地の通貨を両替し、便利で安全な交通機関を使い、美味しいレストランに連れて行ってくれました。

出入国の手続き等も、あらかじめ全部準備して、そつなくこなしてくれました。私と母は言われるがままにパスポートを手に持つくらいで、本を読んだり眠ったり、きゃっきゃと雑談したりしていればよかったのでした。

幼い頃の私は、父に感謝するどころか「海外旅行中のお父さんは神経質で面倒くさいな」と思っていました。10分ごとに時計を確認したり、トイレに立つたびにシートベルトを締めなおしたかどうか聞いてきたり、うるさいなぁとさえ思っていました。

(↑アップル・パークのビジターセンター。本社の縮小模型とiPadがリンク)

太いボールペンで、出入国カードに名前を書く父の横顔。その手続きにどんな意味があるかなんて知らず、隣でのんきに遊んでいた自分。ぼんやり横目で、なんとなく覚えていた彼の顔が、とても頼もしく思い出されました。

一人でふらっと海外に行くだけでこんなに不安になるのです。妻と幼い娘を連れた旅であれば、いかばかりでしょう。あれほど快適な旅をするために、どれだけの責任感を持って動いていてくれたのでしょうか。

父の偉大さ、有難さを、人生で初めて切実に感じた瞬間でした。

無事にサンフランシスコ国際空港へ到着した後は、電車でサンノゼへ移動し、翌日からGoogle本社やアップル本社、スタンフォード大学などを回りました。スマートフォンのマップを見ながら、極力タクシーを使わず、徒歩と公共交通機関で移動することにこだわりました。

アップルのビジターセンターでは色んな公式グッズを買ったのはもちろん、縮小模型にiPadをかざすと実際の本社の映像を見られる展示が面白かったです。タップで屋根を動かすと屋内の様子を見ることが出来、アップル本社を身近に感じることができました。

他にも様々な物を見て、聞いて、考えることができました。私にとっては、単なる観光以上に意味のある、充実した旅となりました。

次はぜひ父と旅行して、サンノゼへの旅で感じたことを伝えてみたいです。

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