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キャリコン映画レビュー『枯れ葉』

引退宣言からひょっこり復活した映画界の二人の巨匠、アキ・カウリスマキと宮崎駿は偶然なのか、復帰作は生きることをテーマにしました。それだけこの世の中の理不尽さに我慢ならなかったのでしょうね。理不尽な世だけど生きるのだというメッセージ、さて本作はどんな映画でしょうか

ヘルシンキのスーパーで働くアンサ、賞味期限切れの廃棄処分のパンを持ち帰ろうとしてクビに、工事現場で働くホラッパは作業中でも酒を飲んでしまいクビに、そんな貧しい生活をする二人が偶然出会い映画を見にいくもすれ違いで出会えなかったり、ラジオからはウクライナ戦争の状況が流れる。二人は小さい一歩を踏み出そうとするが、、、


本作はまず二人の俳優が素晴らしい、監督の意図しない意図を完全に理解し、作品世界に溶け込んでいた。現代において小津の影響を受ける監督は多いけども、技法としてここまで小津調を再現し成功している監督も貴重です。カウリスマキ映画らしく、淡々としてて表情はなく体のアクションもミニマルでしかし小津もカウリスマキも無表情は無感情ではないことを知っているのでしょう。むしろ微かすぎる表情の変化に感情が強く現れるし、観客も見逃すまいとして集中する。本作ではウクライナ戦争を酷いと言った時のアンサ、病院からホラッパの病状についての連絡を受けたアンサ、犬を飼うことを決めたアンサなどの場面では微かに無表情が崩れるのでかえって強くこちらに訴えかけてくる。

小津は大袈裟な演技をさせずに、俳優の表情や動作をミニマルに制限しました。演じている方は戸惑いや窮屈さを感じていたとも言われていますが画面で見る物語世界は絵として独特の印象を与えます。無表情なのですが無感情ではないのですね、むしろ感情に溢れているとも言えます。感情が顔の表情や動作から出てくるのではなく映画の構図全体から溢れ出る感じがします。
カウリスマキはこの小津の演技方法を現代でも忠実に再現しています。むしろ小津のオリジナルよりもわかりやすく意図をすくいとれる。というのも日本映画ですと文脈的に日本人としては理解しちゃうんですよね、、、そこに出てくる人の顔、言葉、背景などが身近なだけに脳内で補完して普通の映画として見てしまいます。だから小津の特別感に気が付かなくても十分楽しめます。
カウリスマキの映画を見ていると、フィンランドにいったこともない自分には馴染みのない世界でありそこで小津調が展開されているのを見てかえって小津っぽさが浮かび上がるように思えました。

主人公二人はミニマルな演技の中でささやかな幸せの感情を出します。なかなかのギリギリな暮らしの二人ですが、小さな生活改善をしてちょっとは前に進めそうでまあ普通の人間が世界に対してできることは少ないんですよねでも気になる人のためにサラダを綺麗に盛り付けたり、ちょっといい服を着たりすることは決して馬鹿にできないでしょう、そんな小さい日常の積み重ねをちゃんとやることで二人と1匹は救われる

アンサ役の人はいい味出しています、特段美人なわけではないが時々見せる表情は美しい。ちょっとミシェル・ウィリアムズを思い出させるところも。男の方はライアン・ゴズリングを思わせるかな

年末に観ていたら2023ベスト10に入れても良かったなと思わせる良作でした

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