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冬眠していた春の夢 第28話 不在の友を想う

 夢の中でおじいちゃんが手に持っていたのは、ウラシマソウの実だとわかった。
 ネットで調べたところ、春から初夏にかけて開花したウラシマソウは、秋が深まるとその雌株には果実(偽果)ができて、赤いトウモロコシといった感じになるそうだ。

 「もう美月の見る夢の信憑性は証明されたから、きっとこの実を付けたウラシマソウが根元に咲いている大きな楠木の近くにお兄さんはいるんだろうね」
 仁美の言葉に異論を唱える者は誰もいなかった。
 賢吾さんの部屋で、橋本さんと4人で集まって、仁美が命名した『美月の家族再生プロジェクト』の会議が行われた。

 「でも、警察に言ったところで、きっと信じてもらえないし、すぐには動いてくれないよ」
 賢吾さんが言った。
 「それに…万が一違ったら、またお父さんお母さんをガッカリさせてしまうことになっちゃうし…」
 「でも、私たちだけで、立ち入り禁止の場所に入るのは危険だよね…」
 仁美の言葉に、皆押し黙った。

 重い沈黙を破って言葉を発したのは、橋本さんだった。
「けどオレは、リョータを誘って、探したい」
 真剣な眼差しだった。
「オレ達3人は、毎日が楽しくて。今日は何しよう。明日はあれがしたいって、ワクワクがいっぱいで、あんなに楽しかった思い出が、こんな風に…思い出しちゃいけないことみたいなままなのが…辛い…」
 いつもクールな橋本さんが、本当に本当に辛そうに言った。
 そうだ!このままじゃいけない!お母さんだけじゃなく、橋本さん達も!

「そうですね! 私の家族だけじゃなく、橋本さんとリョータさんとお兄ちゃんの思い出もちゃんと再生させなきゃ! リョータさんの連絡先はわかるんですか?」
 私の言葉に、橋本さんは小さく笑みを返してくれた。
「中学に行くようになった頃に、引越した先から一回だけ年賀状がきた。今もその住所にいればだけど…」
「それはどこですか?」
「千葉」と言って、橋本さんは自分のリュックから取り出した古い葉書を、皆の前に差し出した。

「千葉なら行かれない距離じゃないな」という賢吾さんの言葉に、
「こういう時は、まずSNSでしょ。今時SNSやっていない若者とかあり得ないし」
 と仁美が言って、皆が確かにと頷いた。
 そして手分けして、Twitter、Instagram、Facebookで、住所と本名を頼りにリョータさんのアカウントを探した。

 すると、Twitterにそれらしき人物がいた。
 【Ryota  千葉市 誕生日4月7日 ユーザー名@haruma0529】
 「春馬?!」
 「でも、確かお兄ちゃんの誕生日は8月だった気が…」
 「…5月29日は、春馬が行方不明になった日だ…」
 「………」
 「リョータも…ずっと抱えてるんだ…あの日を。春馬のことを…」
 橋本さんはそう言って、強く唇を噛み締めた。
 私はウラシマソウの花言葉の一つを思い出した。

 【不在の友を想う】


 第29話に続く。

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