冬眠していた春の夢 最終話 一輪草
それから二年後、私と仁美は元気に同じ高校に通っている。
家のリビングには、兄や家族4人で写っている写真がいくつも飾られ、家族4人、いやいや、祖父母の写真も入れて家族6人、賑やかに過ごしている。
そして、兄の部屋のままだった母の部屋は、大人の女性の、ちょっとお洒落な部屋になっている。
それから…、兄の葬儀から半年後、名古屋の叔父が亡くなった。
肺ガンだった。ガンが発見された時は、既にステージ4だったそうだ。
名古屋での葬儀に、私は参列しなかった。
それは、両親も名古屋の叔母も、納得してくれていた。
母の弟として、叔母の夫として、愛されていた人だとは思う。
でも、私にとっての叔父は、私を憎んでいた人なのだ。
そして、私に向けられていたその憎しみの毒気は、もしかしたら自分自身にはね返っていたのかもしれない。
誰かを攻撃することで楽になれる事なんて、ひとつもないから…。
そして…。
橋本さんは、私の家によく来るようになった。そしてリョータさんも時々。
橋本さん達が家に来ることを、父も母もとても喜んだ。
仁美に言わせると、私と橋本さんの関係は、とてもじれったいらしい。
でも、自然でいいんだ。
私も真剣に進路を考える頃だし、橋本さんも就活が始まっているし。
でも、橋本さんと両親と4人で食事する時間が自然過ぎて、未来予想図かな?なんて思って、キュンとしたりはしている。
それと…リョータさんに彼女ができて、仁美は恋に破れたと思いきや、もう予備校の同じクラスの男子に目をつけている。
そして、もちろん、10年以上見続けていたあの夢は、もう見なくなっていた。
春先に見始めて、秋が深まると見なくなるあの不思議な夢は、兄がいる場所を教えてくれたウラシマソウが、春先に開花し、秋には落葉し、タネができた花茎は赤い味をつけて晩秋のころまで残り、冬には倒れて、球根の状態で休眠するという生育にとても似ていると、後になって仁美が言って、私もそんな気がしたのだった。
しかも花言葉が、「不在の友を想う」「懐古」「回想」なので、「なんか出来過ぎだよね〜」と、2人で話した。
あ!でも、鑑定が終わって兄の遺骨が家に戻ってきた夜に、一度だけ兄の夢を見た。
霧の中、あの神社の白い鳥居をくぐって、兄は1人で、ゆっくりとこっちに向かって歩いて来た。
その手には、小さな一輪草が握られていて、そっとその花を私に差し出した。
「ありがとう、お兄ちゃん」
そう言って受け取ると、兄はニッコリ笑って背中を向け、いつの間にか両隣にいた祖父母に両手を繋がれて、3人で楽しそうに鳥居の向こうに戻っていった。
バイバイ。
おじいちゃん、おばあちゃん、お兄ちゃん、またいつか会おうね!
了
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