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冬眠していた春の夢 第29話 リョータ

 リョータさんは、夢の中のイメージと、そんなに変わらなかった。
 Twitterの投稿がサーフィンの事ばかりだったように、見るからにサーファーそのもので、もう秋も深まっているのに、肌はかなり日に焼けていて、笑うと白い歯が眩しかった。
 一番小さかったハッチの背が伸びて、2人はあまり変わらない身長になっていた。
 橋本さんとリョータさんは会うなりグータッチをしたかと思うと、それからしばらくは互いに無言だった。
 そして、最初は気付かなかった私が、あの時の幼い美月だと知って、驚いていた。
 「紹介されなきゃ絶対わからないな。そうだよな。もう10年だもんな」

 橋本さんの部屋で作戦会議が行われた。
 リョータさんは週末の間、橋本さんの家に泊まり込んで一緒に捜索する事になった。
 「声をかけてくれて、本当にありがとう。ハッチも同じだと思うけど、オレ…あの日から、1日だって春馬のことを思い出さない日はなかった。
 春馬がいない事を受け止められなくて、諦めもつかないし、心の一部分だけ、時が止まっているようで…」
 Twitterの IDだけで、十分にその思いが皆に伝わっていた。

 「ハッチからDMがきた時、ようやく自分の心の中のケリがつけられるかもしれないって、すごく嬉しかった」
 涙目なリョータさんの言葉に、橋本さんはそっとその肩に手を置いて言った。
 「春馬の存在を、オレ達や美月ちゃんのご家族の、大切な思い出に…ちゃんとしよう」
 リョータさんは大きく頷いて、手の甲で強く目をこすった。

 そして、山に入るのは橋本さん、リョータさん、賢吾さんの3人。
 見張りと、何かあった時に外部に連絡する役目が仁美と私。
 そして明るい日中だけ作業する事。絶対に無理はしない事。
 それらを決めて、橋本さん達3人は必要なロープやスコップなどをホームセンターに買い出しに行った。

 「リョータさんカッコイイね」
 3人が部屋を出て行った後、仁美はそう言ってニヤニヤした。
 「え? 仁美ってああいうタイプが好きなの?」
 「うん。ワンピースで一番好きなキャラはエースだもん!なんかちょっとエースっぽい」
 仁美の瞳がハートになっているようだった。
 「へー意外…」
 「美月が奥手過ぎて恋バナなんかできないからね〜」


 第30話に続く。

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