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キミカ特集② キミカのアルギン酸 と SDGs

TIPSが『SDGs・ダイバーシティ』をテーマに自ら取材し、発信するプロジェクト。第二弾は、2020年末に行われた 第4回ジャパンSDGsアワードで、特別賞(SDGsパートナーシップ賞)を受賞した株式会社キミカを取り上げます。国内で唯一「アルギン酸」という物質を製造する同社ですが、一体どのようにSDGsに取り組んでいるのか、そして「アルギン酸」とはなにか… 同社代表取締役社長 笠原文善氏にお話をうかがいました。すると、キミカの努力と節約の歴史、他社とは全く異なるSDGsへの関わり方、そして、アルギン酸がとても身近で、可能性にあふれた物質であることがわかりました!第2回では、ジャパンSDGアワードの受賞理由である “キミカのアルギン酸とSDGsの関係”と、そこに至るまでのキミカの歩みについてまとめます。

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■ キミカのアルギン酸 と SDGs

キミカは、このアルギン酸をつくる過程のなかの様々な取り組みが評価されてジャパンSDGsアワードを受賞しました。キミカのアルギン酸がどのようにつくられるのか、そして、どのようにSDGsに貢献しているのかを見ていきます。

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― Point 1 キミカのアルギン酸は “打ち上げられた漂着海藻” からつくる!

アルギン酸の原料である海藻。世界には、アルギン酸をつくるために船で沖に出て、海中に生えている海藻を刈り取っているメーカーもあるなか、キミカでは、海岸に打ち上げられた海藻のみを使っています。海藻は陸上植物の5倍も効率よく二酸化炭素(CO2)を吸収すると言われていますが、ライフサイクルを終えて海岸に打ち上げられた海藻はすぐに腐り、せっかく吸収した二酸化炭素を大気に放出してしまいます。キミカは、海岸に打ち上げられた海藻を有効活用することで、地球に優しくアルギン酸を製造しています。

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― Point 2 固くて食べられない海藻を “チリの漁民の収入源” に!

キミカは、南極からの海流によって海藻が育ちやすい環境を有しているチリの海藻を利用しています。海藻収集を生業とするチリの漁民は収入が安定せず、かつては海で採れたものを物々交換する不安定な暮らしを送っていました。海産物も海藻も、海の状況によって採れる量は安定せず、エルニーニョ現象によって海藻が採れなくなることは、安定的にアルギン酸を製造・供給したいキミカにとっても悩みの種でした。そこでキミカは、チリの海藻調達会社2社に資本参加して、漁民が海岸から拾い集めた海藻を安定的に買い取るビジネスモデルを確立しました。それまで不安定な暮らしを余儀なくされていた漁民の暮らしは、海藻が豊富に集まった時期に在庫をつくっておくことができるようになり、年間を通して安定した収入を得られるようになりました。キミカにとっても、在庫を持つことで、アルギン酸の原料を安定的に確保することができるようになりました。

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― Point 3 海藻は “砂漠の力で天日乾燥” !

海藻は、海中にあるときはもちろん、海岸に打ち上げられた状態でも、生のままでは湿り気があり、虫が湧いたり腐ったりしてしまうため、輸送や保管のためには、乾燥させる必要があります。通常、湿った海藻を乾燥させるためには化石燃料を消費しますが、キミカは、チリのアタカマ砂漠の乾燥気候を利用した天日乾燥により、化石燃料を一切使わずに海藻を乾燥させています。

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― Point 4 海藻の残渣はチリの農民に “肥料として無償提供” !

アルギン酸は、海藻の粘り気を抽出してつくられるため、アルギン酸の抽出が終わると、それ以外の部分(残渣)が残ってしまいます。キミカは、これをゴミとして捨てるのではなく、肥料としてさらに付加価値を付けてチリの農民に無償で提供し、農業に利活用しています。さらに、工場内の緑地帯では残渣を土壌改良材に使い、ワインに使うブドウの栽培もはじめ、まもなくキミカブランドのワインが完成するそうです。キミカは、海と空気を守るのと同時に、チリの農民と漁民の暮らしに貢献しています。

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■ コスト削減ケチ精神?キミカのアルギン酸の歩み

SDGsの広がりとともに、環境に優しい生活が注目されています。しかし、環境に優しいものや、SDGsに配慮された商品は、ほかのものと比べて高い… そんなイメージはありませんか。キミカのアルギン酸も、海藻を人の手で拾い集め、砂漠で乾かすという手間も時間もかかりそうな製造方法に思えます。そこで、「コスト」にも切り込んでみました。

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▲手で集め、砂漠で乾燥させた海藻を保管する倉庫

― キミカの製造方法はケチ精神の結晶

世界の競合メーカーが採用している、船を使って生きた海藻を刈り取る方法や、化石燃料を使って海藻を乾かす方法は、大規模に行えばコストパフォーマンスが高いそうです。しかし、日本近海では、海藻が豊富な場所には岩場が多かったり、海が浅かったり、そもそも海藻が小さかったりと条件が異なるため船を使うことができず、手作業の危険を伴う作業になってしまうため、世界の競合と同じ方法でやってもコストがかかってしまいます。少ない海藻を乾燥させるために多くの人工エネルギーを使っては、こちらも赤字になってしまいます。そこで、ライバルと勝負するために生み出されたのが、チリの海岸に打ち上げられた海藻を使い、砂漠を利用して乾燥させる方法。コストを削減するための策として生み出されたそうです。実は以前は、国内にもキミカ以外でアルギン酸を製造するメーカーは複数あったのですが、この地味ともいえるコスト削減策によって、キミカは国内唯一のアルギン酸メーカーとして生き残りました。キミカの取り組みは、SDGsを意識してはじめられたものではなく、企業としての競争力を維持するために工夫を重ねるなかで生み出された、究極の製造方法なのです。


■ 第3回へ続く

最終回となる第3回では、海藻がカギを握る『カーボンニュートラル』についてと、キミカからのメッセージをまとめます。

2021年2月24日に公開された記事を一部編集して再公開しています。(Writer:三浦央稀)


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RECTは、2018年に設立し、東洋大学を拠点にSDGsとダイバーシティに取り組む学生団体TIPSが運営する、SDGs & Diversity WEB MAGAZINEです。


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