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山形ビエンナーレ2022『湖ノ狼』プレイレポート

「山形ビエンナーレ2022 現代山形考 ~藻が湖伝説~」のメイン会場でプレイアブル展示されているゲーム『湖ノ狼』(うみのおおかみ)。
私はゲッコーパレードによる演劇『ファウスト』の出演者として山形ビエンナーレに参加していて、その合間に本作をプレイすることが叶った。
今回はその簡単なレポートを書いてみる。

本作は、山形県村山地方に伝わる「藻が湖(うみ)伝説」に着想を得て製作されたゲームで、プレイヤーは一匹の狼を操作し、仲間の狼と群れをなしていきながら、土地の記憶を追想していく。

ゲームの説明に入る前に、「藻が湖伝説」の展示について簡単に説明する。
山形ビエンナーレのプロジェクトのひとつである「現代山形考~藻が湖伝説~」は、先述した「藻が湖伝説」をテーマとした展示だ。
この伝説は、かつて山形盆地の真ん中に大きな湖があったという言い伝えで、湖を隔てた東側の奥羽山脈の麓を東根、対岸の寒河江を西根と呼び、現在もそれらが地名として残っている。
メイン会場である「文翔館・議場ホール」にはさまざまな美術品や文化財が展示されていて、それらは藻が湖伝説に重なっている。『湖ノ狼』もその中に展示されている。

本作の操作は至ってシンプルで、狼を左スティックで動かし、右スティックでカメラを操作するのみ。三次元空間に表現された藻が湖を駆けめぐり、各所に散らばる狼の仲間を集めていく。何匹かの仲間を集めると、湖の中心に道が現れ、対岸へと渡れるようになる。狼たちは東根の貴船神社から、西根の船着観音堂へ渡っていく。

このゲームには山形盆地にまつわる幾層もの記憶やイメージが重ねられている。かつて日本列島に棲息したであろう狼たちを操作し、現在は解体されてしまった船着観音堂へ向かう。絶滅したヤマガタダイカイギュウが空に舞うのは、大きな湖を湛えた山形盆地。現実と物語、時代を超えてそれらが画面上に姿を現し、重なりあっている。
ゲーム中に言葉による説明はなく、雨や木々の音がざわめきわたり、会場には狼たちの遠吠えが響いていた。仲間を見つけた際に発せられる遠吠えはこのゲームの象徴的なシーンだ。狼のモーションは凝っていて、普段はピンと立っている耳を湖を泳ぐ際には下げたり、水に濡れて地上に戻ると身震いしたりと豊かな動きを見せる。群れをなした狼たちの姿は見た目にも楽しく、ふだん私たちが日常で見かける犬のような動きをしている。移動できる空間は広くはないが、狼の移動速度や操作感は良好で、スティック操作のみのゲームとして動かしているだけで気持ちのいいものだと感じた。

ゲーム製作ツールには「UnrealEngine 5」が使用されている。湖の表現や、幻想的な光のグラフィックは十分に美しいと感じた。また、文化財や建築物のモデリングにはニコンの「郷土芸能や民俗芸能の継承や文化保存のための3Dアーカイブ」が使用されている。

シンプルな操作であるがゆえ、おそらくふだんゲームをしないような方々が興味を持って触っている様子が垣間見えた。また、自分で操作せずとも他人のプレイを見ることで、本作のことを話しているギャラリーができあがっているのが印象深かった。プレイしていたのは20代くらいの方が多かったが、小学生や40~50代ほどのプレイヤーもおり、幅広い人々にプレイされていたようだ。

プレイ時間は初プレイならばおそらく10~15分ほどで最後まで到達することができるだろう。プレイヤーが操作していた狼たちは、最後に光の粒となって藻が湖の記憶の中に散っていき、ゲームは終了する。

『湖ノ狼』はプレイを終えて周りを見渡した時に、いま自分が実際にいる会場の展示物たちの記憶や、人々によって語られてきた物語の一端に触れたような気になる、そんなゲームだった。

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