「サターンでしか観られないエヴァ」それはエヴァの分水嶺か『新世紀エヴァンゲリオン2nd Impression』
『新世紀エヴァンゲリオン2nd Impression』は1997年にセガより発売されたセガサターン用アドベンチャーゲーム。
本作はTVアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』を題材としたゲームで、アニメ動画を使用したゲームオリジナルのストーリーが展開される。
『新世紀エヴァンゲリオン 2nd Impression』とは
『2nd Impression』というタイトルが示す通り、本作の前身としてゲーム版『新世紀エヴァンゲリオン』(セガサターン)が前年にリリースされている。このことから逆説的に第一作を『1st Impression』と呼称することもある。なお、本作はアニメ版の番外編であると同時に、前作の直接的続編でもあり、一部の設定が引き継がれている。
ゲームの構成は基本的に前作と同様で、動画シーンをメインに進行し、途中に戦闘パートが挿入、合間に選択肢が挟まってシナリオが分岐する。1プレイは約1時間弱。一度見たシナリオは30~40分程度の動画として再生可能となっておりアニメを観る感覚に近い。『エヴァンゲリオン』のゲームは現在までに数多くリリースされてきたが、本作は当時の動画をメインとしたゲームのなかでもストーリーに複数の幅があることや、リアルタイムポリゴンで描画されたエヴァによる戦闘シーンが繰り広げられるといった部分が特徴だ。
戦闘シーンはターン性バトルで攻撃・防御フェイズに分かれる。エヴァと相対する使徒に対し、距離に応じて適切な武装を選択し、回転するサークルが一周する前に決定ボタンを押すことで攻撃成功となる。逆に使徒の攻撃を受ける際は、サークル回転中にガードアイコンを選択もしくは相手の攻撃方向に合わせて方向キーと決定ボタンを押すことで防御か回避が成功する。
戦闘自体は難しくはなく特段戦略性もないものの、ソニックグレイブやバズーカといったややマイナーどころの武装が取り揃えられており、キャラクターとしてのエヴァの魅力が表現されている。前作は戦闘シーンもアニメ動画だったが、ポリゴンで表現されたエヴァが登場するのは本作が初めての試みとなった。
原作のあるゲームとして
原作付きの作品でオリジナルストーリーが描かれる場合、原作とどの程度距離を取るかが重要だと私は思う。よほど意図されたものでない限り、原作はそれ単体で完結するように作られている。周縁の作品群が原作と整合性を取ってひとつの世界をかたち作ろうとすれば、多くの部分で制約が発生する。その結果、それぞれが互いに及ぼしあう影響は薄くなる。かといって原作からかけ離れすぎてしまった場合、それはもはや自律した別作品として成立し、影響を与えることから遠ざかる。
こうした点で本作は『新世紀エヴァンゲリオン』というアニメ作品を補完するような強固な繋がりはなく、また基本的に原作の設定を踏襲している。アニメ中盤のどこかに入っても違和感のない距離感を保った、挿話的な雰囲気のゲームとなっている。
本作オリジナルの要素について
前述の通りストーリーは分岐し、場合によっては本作の主軸であるはずのオリジナルキャラクター・山岸マユミがほとんど関わらないシナリオすら存在する。ストーリーの最後にマユミがシンジたちの住む「第3新東京市」から転校していくという結末は同様だが、彼女がシンジにとってどんな存在となったか、またそこに至るまでの過程と別れ方に差異が生じる。
オリジナルキャラクターである山岸マユミは、シンジたちの通う第壱中学校に転校してきた物静かな性格の少女だ。彼女は他人から自身の内面を覗かれることをひどく嫌っている。読書をすることを好むが、そこには本の世界の中であれば自分に対して勝手なイメージを押し付けてくる人間がいないから、という理由がある。マユミは本作に登場するゲームオリジナルの使徒に関連し、ストーリー上のキーパーソンにあたる。彼女に対してシンジは「僕に似ているのかもしれない」という印象を抱いている。
TV版『エヴァ』の空気を共有するゲーム
『エヴァ』のゲームは数多いが、その中でも本作はTVシリーズの『エヴァンゲリオン』の空気感を色濃く残している。本作のリリース時期である1997年3月7日は、前年にTVシリーズが終了し、劇場版第一作『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 シト新生』の公開直前という『エヴァ』ブームの只中にあった。本作の開発時期はTVアニメ放映中、ある程度原作に対して抱かれるイメージや理解の基礎が出来上がり、参照できる資料が出揃ったタイミングと重なる。メーカーと世間の『エヴァ』に対するパブリックイメージが定着した時期に開発された本作は、TV版『エヴァ』に限っていえば最も同時代的なゲームといえる。これは原作の映像を流用しつつ、ゲーム用のカットを追加して製作されているということとも無関係ではないだろう。
なお、前作のサターン版『新世紀エヴァンゲリオン』はTVアニメ放映中の終盤にリリースされたが、こちらはアニメの放映前から企画が開始されていたらしく、アニメ版とは若干異なる描写も見られる。こうしたことから前作はプレ『エヴァンゲリオン』的な趣が強いゲームだといえるだろう。
同時代の『エヴァ』ゲームとの比較––『鋼鉄のガールフレンド』
同時期にリリースされた立ち位置が似ているゲームとして『新世紀エヴァンゲリオン 鋼鉄のガールフレンド』が挙げられる。共通点としては、TV版の設定をベースとした挿話的なストーリー、主軸となるのが転校生の少女で、かつシンジたちの相対する脅威と深く繋がっている点が挙げられる。ただしそのストーリーとゲーム内容は対照的である。ストーリー面では転校生・霧島マナの性格、脅威の襲来が意図されたものか、結末の方向性など、真逆といっていい内容といえる。
ゲーム面に目を移すと、終盤までほぼ分岐の無い一本道の進行で、基本的には止め絵を使用したアドベンチャーで、1プレイが2時間以上掛かるという部分が異なる。止め絵ということもあるが、TV版のフィルムを流用をしていた『2nd Impression』と比較しても作画は美麗で、どちらかといえば劇場版に近い雰囲気の映像表現となっている。
『2nd Impression』はセガからリリースされたが、『鋼鉄のガールフレンド』はアニメを制作したガイナックスから発売されている。かねてからPCゲームをリリースしてきた経緯を持つ同社は、セクシャルな要素を含んだゲームも数多く手がけおり、本作にもそういった面は微かながら残存している。
『鋼鉄のガールフレンド』はその後もMac・SS・PSなど、数多くの移植がなされたうえ、続編や漫画といった派生作も多い。これに対して『2nd Impression』は一度も移植されていない(なお、前作はDVD-PGとして移植されている)。
『エヴァ』イメージの分水嶺としての『2nd Impression』
『2nd Impression』の存在は、『エヴァンゲリオン』に対する劇場版公開前後のイメージを分ける分水嶺とも捉えられる。TV版において陰惨な物語展開の放映回がなかったわけではないが、全体を通して見た場合、『エヴァ』は陰鬱なアニメ作品であるとは一様にはいえない。むしろ劇場版公開後に『エヴァ』の陰鬱な側面が加速し、世間に膾炙するイメージとなったのではないか(そしてそれは俗に「鬱」などと呼ばれることになった)。
山岸マユミのキャラクター造形を見ると、過去に親族同士の殺人があったことが仄めかされるなど、その背景は決して明るいものではない。こうした背景を見ると一見陰鬱としたゲームのように思われる。しかし実際のところそうはなっておらず、使徒に敗北するといった明らかなバッドエンドを除けば、爽やかな終わり方をみせるシナリオが大半である。これは本作の持つ一話完結型のTVアニメ的なフォーマットに起因し、プレイヤーには清々しい読後感を、登場人物たちには救いをもたらす。劇場アニメ程度のボリュームを持っていた『鋼鉄のガールフレンド』とはこうした点も対照的に映り、両者は原作を異なる視点から捉えた鏡のような関係だといえる。
本作は、原作を追体験するタイプのゲーム(例:N64版『新世紀エヴァンゲリオン』『シークレット・オブ・エヴァンゲリオン』)や、原作から逸脱していくゲーム(例:『新世紀エヴァンゲリオン2』)、あるいは完全な別世界を舞台としたゲーム(例:『名探偵エヴァンゲリオン』)とも異なる位置に属している。当時の通俗的な『エヴァ』観を用いつつもオリジナルストーリーを描いた本作は、図らずして現在も「サターンでしか観られないエヴァ」*として、多様な『エヴァ』へのイメージを構成するうちの一作として人々に記憶される。
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(2023/08/07)
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