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「かつてアメリカにアイスコーヒーはなかった」の巻

 1983年、大学3年生の夏休みにアメリカを1周した。初めての一人旅はこのアメリカ旅行だった。サンフランシスコ→ニューオーリンズ→サンアントニオ→ニューヨーク→ワシントンDC→ポートランド→モアブ(ユタ州)。点と点を直線で結ぶ、支那事変の帝国陸軍のような旅だったが、それなりに面白かった。何も知らなかった。そして今以上に英語は不得意だった。よくもまぁ、あんな状態でアメリカ一人旅ができたものだと、我ながら感心する。若いというのは、恐ろしいことだ。まさかその20年後に移住して、その11年後に日本に戻ってくるとは夢にも思わなかった。
 それはさておき、最初のアメリカ旅行では、無知ゆえに学ぶことも多かった。そのひとつが、「アメリカにはアイスコーヒーはない」ということだった。
 詳細は忘れたが、ホストファミリーと外食に出た際に、飲み物はどうすると尋ねられて、ごくごく当たり前のように「アイスコーヒー」と言った。
 すると一瞬沈黙があって、諭すようにこう言われた。
 「コーヒーはホット。ティーがアイス」。そして、笑われた。
 当時アメリカには、少なくとも筆者が見た十数箇所の街(ほとんどは大都会)には、アイスコーヒーは存在しなかった。しかし今はどうだ。スターバックスを筆頭に、そこらでアイスコーヒーを売っている。笑ったことを謝ってほしいもんだ。
 この記事を最初に書いた時、マクドナルドがアイスコーヒーを売り出したことをネタに書いた。冒頭の写真は高速沿いのビルボード。撮影は2007年11月28日。そう、冬になってからの新発売だった。それほど、スタバの勃興以来、アイスコーヒーの需要が増えていたということなのだろう。だからマクドナルドのコーヒーへの拘りは、マックカフェにつながる、ちゃんとした経営戦略だということだったが…。
 一方スタバは、クリスマスギフト用のセットやコーヒー豆をウォルマートやカスコ(COSTCO)、その他のスーパーに卸したり、豆を仕入れているコーヒーショップに、「スタバ豆使用」の看板を出させたり、当時ちょっとしたコーヒー戦争になっていた。
 大阪ではかつてアイスコーヒーをレーコーと呼んだ。筆者が子供のころは、「冷やしコーヒー」と呼んでいた。これは「ひやしあめ」(ショウガ風味の甘い飲み物。飴湯のアイスバージョン)の流れだろう。それはさておき、レーコーという言葉は東京では通じなかった。国鉄からJRになったときに、大阪駅で一時コーヒーショップに勤めさせられていた電車運転士のK は、店ではアイスコーヒーをアイコと呼んでいた。これはきっと大阪でも通じなかっただろう。
 甘ったるいシロップとほのかなミルクが、苦い目に出したコーヒーを和らげてくれる。それをすすりながら、タバコをくゆらすのは、夏の午後の至福でもあった。ところがアメリカには、スターバックスがポピュラーにするまでは、アイスコーヒーはなかったのだ。
 日本人に先見の明があったのか、それともこれは、ベトナム・アイスコーヒーの方が先だったのか? いずれにしろ、アメリカが決してすべての面で文化的に進んでいるわけではないということを、このエピソードは物語っている、のか?
 
拙ブログ『無闇にアメリカに来てはいけない』より「笑ったくせに」(2008年01月17日 15:30付)に加筆修正した。

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