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教室から消えた沖縄の歴史・仲原善忠原著『琉球の歴史』(上・下)を読む~第10章 羽地朝秀と蔡温⑤

5.蔡温の改革

【解説】
 蔡温の改革の中心は、首里・那覇とそれ以外の地域を分断することにあったようだ。その一文は、文章中から抜き出して末尾に持ってきた。
 もちろんその政策は、仲原が言う「都会」に住む人々(下級士族と農民ではない平民)を保護し、都市産業を育成することと、離農を防ぐためであっただろう。もちろん、狭い沖縄のこと、ちゃんとした封建制度を行うことが難しかったとも考えられるが、他に手立てはなかったのだろうか。筆者は専門家ではないので、検討は必要だが、18世紀のやり方としては、いささか短絡的な気がする。
 
【本文】
 具志頭文若(ぐしかみ ぶんじゃく)は、漢名で蔡温とよばれることが多いです。その理由は、彼の先祖が漢人で、久米三十六姓の学者の家に生れ、青年時代に清に留学したからでもありますが、この人の政策を見ればその理由がわかるかも知れません。羽地朝秀も向象賢という漢名がありながら日本名で知られているのと対照的です。    ’
 蔡温は、自伝によれば15、6歳までは勉強ぎらいの怠け者でしたが、ある時、同年代の者から馬鹿にされたので、悔しくなってそれから一生懸命に勉強したということです。
 清には1708年に渡り、実学という、今の科学に近い新しい学問を修め、天文、気象、林学、経済など、実生活に直接役に立つことを学んだようです。
 蔡温は1710年に清から帰国してしばらくすると、若い尚敬王の学問の師となり、国師として敬われるようになり、1728年には三司官になって、その後25年もの長きにわたり、政治の中心となりました。
 改革を急いだ羽地と異なり、蔡温は極めてゆっくりと、自分の考えを実行に移していきました。蔡温は以下のようなことを行いました。
1.士族に細工職人、船乗り、絵師などになることを許した。
 これは蔡温がまだ三司官になる前、国師の時のことですが、おそらく国師として相談をうけてのことだと思われます。貧しい士族にはむしろ勧めています。
2.貧村の者は政府の仕事場(畳、皮細工、鼓、すだれ、鞍、編物、鉄工、俵、裁縫、彫り物等)の職につくことを禁止し、都会の者にだけこれを許した。
 その結果、むしろ打ち、織物以外に、農村の手工業はなくなってしまいました。 
3.豚の屠殺、豆腐、そうめん、酒をつくることを自由にした。
 このおかげで、農村の貧民が都会に売るため豚を飼うようになり、蔡温によれば米、麦、豆も「五万石ほど多くに出るようになった」と自賛しています。
4.都会では無税にした。
 以上です。
 このように、都会と地方(農民)を分離するのが蔡温の政策の基礎でした。首里の役所の下働きや駕籠かきなども、地方の人は雇わないようにしました。地方から都会に引っ越してくることはそれ前に禁じてありましたが、首里での就職を禁じることで、農民を農村に釘付けにしたのです。

【原文】
三、蔡温の政治 
 蔡温は久米村の学者の家に生れ青年時代に中国に留学し、勉強して来た学者です。    ’
 蔡温は十五・六までは勉強ぎらいのなまけ者であったが、ある時おなじ年ごろの者からあざけられたので、くやしくなりそれから一生けんめいに勉強したといっています。中国では実学という、今の科学に近い新らしい(ママ)学問をまなび天文・気象・林学・経済など実際の役に立つ学問をしたと見えます。
 蔡温は中国からかえり、しばらくして若い尚敬王の学問の師となり、国師として一ぱんからもうやまわれ、三司官になって(一七二八)から二十五年のながい間政治の中心となりました。
 羽地とちがって彼はきわめてゆっくりと、自分の考えを実行にうつしています。蔡温のやったことは次のようなことです。
一、士族に諸細工・船頭その他の船乗り、絵師などになることをゆるし、貧しい士族にはむしろすゝめています。(これは彼が三司官になる前、国師の時のことですが、おそらく国師として相談をうけたことでしょう)。
二、貧村の者は政府の仕事場(たゝみ、皮細工、つゞみ、すだれ、くら、編物、鉄工、俵、さいほう、彫り物等)の職につくことを禁止し、都会の人にだけこれをゆるします。その結果、むしろ打ち・織物の外農村には手工業はなくなります。
又首里の役所の小使とかかごかきなども地方の人はやとわないようにしました。地方人が都会にうつることは前にきんじてあるが今度は首里での就職をきんじ農民は農村に釘付けにします。
三、豚のとさつ、とうふ、そうめん、酒をつくることもつよい統制があったがすべて自由にしました。そのため貧民が都会に売るため豚を飼い、米・麦・豆も「五万石ほどよけいに出るようになった」と蔡温はいいます。
 これらの商売を自由にした上に都会では税金は一さい取らないことにしました。

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