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あふれでたのはやさしさだった

#あふれでたのはやさしさだった
#寮美千子
#西日本出版社

奈良少年刑務所で行われていた、作家・寮美千子の「物語の教室」。
絵本を読み、演じる。
詩を作り、声を掛け合う。
それだけのことで、凶悪な犯罪を犯し、世間とコミュニケーションを取れなかった少年たちが、身を守るためにつけていた「心の鎧」を脱ぎ始める。
「空が青いから白をえらんだのです」が生まれた場所で起こった数々の奇跡を描いた、渾身のノンフィクション。

ーーmemoーーーーーーーーーーーーーーー

わたしは確信した。「生まれつきの犯罪者」などいないのだと。人間は本来、やさしくていい生き物だ。それが成長の過程でさまざまな傷を受け、その傷をうまく癒せず、傷跡が引きつったり歪んだりして、結果的に犯罪へと追い込まれてしまう。そんな子でも、癒され、変われることがあるのだと、心から信じられるようになった。教室を通してもう一つわかったことは、彼らがみな、加害者である前に被害者であったということだ。困難な背景もないままに、持って生まれた性質だけで犯罪に至った子など、一人もいなかった。


犯罪にまで至ってしまった人に共通しているのは、彼らを取り巻いていた環境のすべてから『正しい愛情を受けたことがない』ということではないでしょうか。だから、心が育っていないのかもしれません。本来の自分を否定され続けているので、自己肯定感が育たない。その結果、自尊感情も育たない。自分を大切にできない人に、他人を大切にすることはできません。


統括のやりたかったことは、「彼らの物語を書き換えてあげたかった」ということ。苦しみに満ちた悲惨な記憶のなかにも、きっと美しい記憶、愛された記憶があるはずだと。ほんのかけらのような小さな記憶でもいい、そこに光を当て、「愛された経験」を取り戻すことで、「悲しみを悲しみとして受けとめる感性」や「人間らしい気持ち」を取り戻してほしい。


人間、ビクついたり怯えていると、委縮してしまって充分に力を発揮できない。「叱られはしないか」そんなことが気になって仕方ない。だから、ちょっとした不手際や、人から注意されただけでパニックになり、わけのわからなくなってしまう。相手が何を言っているのすら理解できなくなってしまう。当然、会話は成立しない。通じないので、相手はますますイラつく。それを見て、ますます恐縮する。その悪循環だ。これを解消するために必要なのが「安心・安全な場」だ。これに尽きる。この教室では、彼らにとって「すぐに答えられなくても、ちゃんと待ってもらえる」「評価されない」「叱られない」「安心・安全な場」なのだ。だから、リラックスできる。リラックスすれば、充分に力を発揮できる。上から目線で「指導」「善導」をしようとすると、彼らは敏感にその匂いを嗅ぎわけて、反発心を抱く。だから、わたしもみるみる「指導」しなくなった。何よりも教室を「安心・安全な場にすること」に専念した。そんな場を作れば、受講生たちは、自分で勝手に伸びていってくれるのだ。


自分の気持ちを表現すること。それをだれかに受けとめてもらうこと。人はそれだけでここまで癒され、人とつながれるのか。


言葉の本来の目的は、人と人をつなげることだ。言葉を介して、互いに理解しあい、心を受けとめあうことだ。どんなに稚拙なものでも、そのとき、その言葉が、その場にいる人々の心に届き、響きあうのであれば、言葉としての役割を充分に果たしていることになる。それこそが、言葉のいちばん重要な使命であり、大切なことなのだ。


固く閉ざされた心の扉が開かれたら、あふれでてきたのはやさしさだった。生まれつきの悪者やサイコパスなんていないと、信じられるようになった。人間ってきっと、本来「いい生き物」なんだ。


「共感だけが『受けとめ』ではない」と知った。違う意見でも、構わないのだ。相手を否定せず、きちんと自分の気持ちを述べれば、それはりっぱな「受けとめ」になる。人と人として対等に向き合うことこそが、大切なことなのだ。


このときも、だれ一人として、彼をからかう子も、揶揄したりバカにする子もいなかった。みんなが自然に受けとめてくれた。そのことに、わたしは感動した。なぜ彼らは、こんなふうにさりげなく受けとめられるのだろうか。世間の「普通」からはみだして刑務所へ来てしまった子たちだから、同じような境遇の友に寛容なのか。心が狭いのは「普通」を求める世間の人の方なのかもしれない。


竹下教官はこう語る。「生まれつき真っ黒い心を持って生まれてくる赤ちゃんなんていないんです。みんな真っ白な心を持って生まれてくる。それが、生育の過程で傷ついてしまう。その傷をうまく癒せないと、心が引きつれて歪んでしまい、犯罪に至ってしまうのです」

少年院勤務時代、竹下教官はある少年に「先生、変わらなくていいんですよ。元に戻ればいいんです」と言われて、目から鱗が落ちたという。


教室にやってきた彼らは、変わったのではなかったのだ。本来の自分に回帰していったのだ。だから、あんなに芯から輝いて見えたのだろう。「愛されたい」という気持ちが、彼らの本質だった。自分のその気持ちにすなおになるほどに、仲間を思いやるやさしさが自然とあふれてきた。


ーー感想ーーーーーーーーーーー

人間本来の優しさに触れたような温かい気持ちになりました🌿

「どうしても頑張れない人たち」を読んだ後に読んだからこそ、

また響くものが大きくて。

刑務所ということばから想像できないくらい純粋な素敵な優しさに触れた。

人間本来は、純粋で愛情深くて優しいんだと気付かされた。

「愛されたい」という気持ちを誰だって持っていること。


詩を発表した彼らの作品も素敵だけど、

仲間たちの言葉掛けもまた素敵で。

私なんて思いつかないような優しい言葉がでてきていて。

仲間を受けとめるような姿勢。

みんなで作り上げたその教室の空気感。

その空間だからこそ紡ぎ出される言葉が素敵で。

こんなに優しい空間だとみんな自分を解放できて、

心が癒されていくんだと知った。


言葉の本を今までも読んできたけど、この本は響いたな〜🥹

詩の奥の背景を知るとこんなにもいろんな感情があるだなんて。

「空が青いから白をえらんだのです」

もうこの言葉見るだけで泣けます🥹

まさに「あふれでたのはやさしさだった」

この言葉がぴったりでした🥹💕

出会えてよかったと思える本にまた出会いました📖


#読書記録 #萌本棚

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