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日本政府はソウル高裁判決を受け止め、日本軍「慰安婦」被害者に謝罪と賠償を行え

 2023年11月23日、ソウル高等裁判所は日本政府に対して、日本軍「慰安婦」被害者に一人当たり2億ウォン、日本円にして約2300万円の賠償を支払うように命じました。これは日本軍「慰安婦」被害者と遺族 16 人が日本政府に対して損害賠償を求めて、2016年に韓国の裁判所に訴えを起こしていた事件に対する判決です。

 韓国の被害者が韓国の裁判所で日本を訴えるなんて?!
 みなさん、そんなふうに思っていませんか? でもそんなことはありません。
 この問題を紐解くキーワードが「主権免除」です。

1.日本軍「慰安婦」問題は明らかな犯罪行為なのだから、日本国の主権免除は適用されない

 「主権免除」とは、主権国家は他国の裁判権に従うことを免除されるという、慣習国際法上の規則のことです。お互い対等な主権国家なのだから、相手の国を裁くことはできないということです。この「原則」からいけば、日本軍「慰安婦」被害者からの訴えであっても、韓国の裁判所が日本国を裁くことはできないということになります。
 現在もなお「主権免除」という考えかたが国際法の基本となることには変わりはありません。しかし国際法の原則は、年々変化してきています。主権国とはいえ、なんでもかんでも主権免除が認められるわけではない。明らかな不法行為には主権免除は認められない。近年、そのように国際法の考えかたが変化してきたのです。
 今回のソウル高等裁判所の判決も、その流れを受けて出されました。

 もちろん裁判とは結論ありきではありません。今回の判決においても、日本国の主権免除が認められるかどうか、主権免除が認められなかった過去の判例を綿密に検討しています。

 主権免除を認めなかったいくつかの判決のうち代表的なもののひとつに、2004年のフェリーニ判決があります。
 イタリアはドイツと同盟国でしたが、連合国に降伏した後の1944年、ドイツに占領されました。そのときフェリーニさんはドイツ軍によって拘禁され、ドイツに移送され、強制労働を強いられました。フェリーニさんはドイツに損害賠償を求めて1998年にイタリアの裁判所に訴え出ました。2004年イタリア最高裁は、第2次世界大戦中にドイツに移送され強制労働を強いられたフェリーニさんに対して、ドイツの損害賠償責任を認めました。「ドイツがやったことはあきらかな不法行為なのだから、ドイツの主権免除を認めることはできない」――それがその理由です。

 実は戦争中の不法行為に対しては主権免除が認められるという考え方が、現在もあります。戦争とは国家の主権行為の最たるものだからです。
 フェリーニ判決も、そのあと別の展開をたどります。フェリーニ判決を認めなかったドイツは国際司法裁判所(ICJ)に提訴しました。国際司法裁判所はフェリーニ判決を退け、ドイツの主権免除を認めました。理由は一言で言ってしまえば「戦争中だから」ということです。

 では、日本軍「慰安婦」問題についても、主権免除が認められていいのか? 日本国の主権免除を認めて、韓国の裁判所は日本の人道上の罪を裁くことはできないのか?
 このことに対し、ソウル高裁判決は以下のような明快な論理で、日本国の主権免除を否定しました。
 女性が連れて行かれたのは韓国国内であって、戦場ではない。戦争中に起こった不法犯罪ではないよね。
 だから日本国の主権免除は認められない。

 韓国国内で起こった、過去日本が起こした明らかな犯罪行為を、どうして韓国の裁判所が裁くことができないなんてことがありましょうか。
 裁判で原告となった被害者たちは、当時日本が支配していた植民地朝鮮に暮らしていました。そこで業者がやってきて、「いい仕事がある」などと甘言を弄して日本軍のいる占領地や戦地に連れて行き、性行為を強要されました。業者は日本軍に選定された業者、慰安所は日本軍の規則にのっとって日本軍が作った施設、女性たちを慰安所まで運んだのは軍用列車や軍用トラック、慰安所の規則を作ったのも日本軍。「戦争だから仕方がない」と言い逃れできるような条件はどこにもありません
 ましてや「被害国に裁く権限はない」と、加害国が強弁できるような、そんな事件なのでしょうか?!

2.日本政府の無視は許されない
  日本政府はきちんと日本軍「慰安婦」問題に向き合うべき

 この裁判に対して日本政府はどのような態度を取っているのでしょうか?
 全無視です。徹底的に無視しています。
 訴状さえ受け取ろうとしませんでした。そのため訴状は公示送達といって、裁判所の掲示板に貼り出されることで、「被告に訴えの内容を知らせる」という効力を発揮しました。自分を訴える書面が街頭の掲示板に張り出されるなんて、常識的に考えればすごく恥ずかしいことなのですけれど、恥知らずな国家にとってそんなことはどうでもいいようです。
 そして今回の判決が出ても、日本政府は無視。判決が認められないのであれば上告すればいいのものを、それさえしませんでした。判決の内容を認めたからではありません。裁判そのものを認めていないからです。上川外務大臣は、「国際法上の主権免除の原則から、日本政府が韓国の裁判権に服することは認められない」とコメントするだけでした。

 日本国の主権免除を主張するのであれば、韓国の裁判所でそう主張すればいい。けれどもしない。なぜか?!  韓国を見下しているからです。日本軍「慰安婦」被害者の存在そのものを、本音では認めていないからです。
 これは本当に、許し難い行為です。
 引用するのも腹立たしいのですが、安倍政権のときに決められた2015年日韓合意で、日本政府はこのように言っています。
 「慰安婦問題は,当時の軍の関与の下に,多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり,かかる観点から,日本政府は責任を痛感している」
 責任を痛感しているのであれば、全無視はないでしょう。日本政府が過去行ってきた「謝罪」はすべて口先だけのものであったと表明したも同然です

 日本が上告しないことで、判決は確定しました。日本は賠償金を払う義務が生じますし、日本政府が判決に従わなければ韓国政府は日本の資産を差し押さえることができます。理屈上では。けれども日本政府はそんな事態を全く恐れていません。なぜなら、韓国政府がそんなことをしないことを知っているからです。
 現在の韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)政権は、悪い意味で「親日的」です。裁判の判決に対しても、日本の対応に合わせるかのように、判決に対してなんのコメントもしていません。
 水曜デモに参加した李容洙ハルモニは「大統領になったのに何もしていない」と尹錫悦政権を批判しました。

 もちろん尹錫悦政権がどのような態度を取ろうとも、日本軍「慰安婦」問題とは日本政府と被害者との問題であり、韓国の政権は関係ありません。
 日本の歴代政権が「悪いことをした」と思っていないから問題なのです。
 岸田政権がこの問題に向き合おうとしないから問題なのです。

 軍の施設として慰安所を作り、そこに女性たちを閉じ込めて性行為を強要する。それも遠い植民地から、何も知らない女性たちを騙すようにつれてきて。こんな非人道的な犯罪行為に対して「悪いことをした」と思えないのであれば、日本には人権もモラルもないということにほかなりません。私たちの人権感覚と常識が問われています。

 日本軍「慰安婦」被害者は日本国による明らかな犯罪行為による被害者です。「主権国家だから」という理由で日本国は罪を逃れることはできません。今回のソウル高等裁判所判決が示すように、きちんと賠償に応じるべきなのです。

[2023年12月20日 第179回神戸水曜デモアピール原稿]

 


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