見出し画像

美しい娘を利用する母「ヴィオレッタ」

「ヴィオレッタ」(原題「My Little Princess」)は2011年公開のフランス映画です。
ただこの映画、第64回カンヌ国際映画祭に出品された際には、本作が児童ポルノにあたるかどうかが議論され、その後各国での公開に際してもレイティングに関する議論を巻き起こしたそうです。日本では修正なしで公開されたものの、R15+(15歳未満鑑賞禁止)のレイティングにて公開されました。
ちなみに、映画の中では直接的な描写などはないので、その点は安心してご覧ください。


物語のあらすじ(ネタバレなし)

舞台は1970年代のフランス。芸術家のアンナの娘、12歳のヴィオレッタが主人公です。母と曾祖母と3人で暮らしていましたが、母は滅多に家に帰らず、寂しい気持ちを抱えていました。
一方母アンナは画家を目指していましたがうまくいかず悩んでおり、ある時芸術家仲間にカメラをもらいます。そのカメラで今度は写真家を目指すこととし、被写体として選んだのは自分の娘ヴィオレッタでした。

ヴィオレッタにドレスを着せ化粧をし、自宅に作ったスタジオで写真を撮るアンナ。ヴィオレッタは母に構ってもらえるのが嬉しく、母の言う通りにポーズをとってモデルをします。
アンナもアンナで、撮った写真を芸術家仲間に褒められ、更に写真を撮り続けます。
しかし初めは普通に撮っていた写真も、衣装はドレスから黒のガーターベルトに、スタジオには写真の小物として髑髏や十字架を使用したりと徐々に退廃的でポーズも過激なものになっていきます。
徐々にエスカレートしていく母の指示に、さすがのヴィオレッタも嫌悪しますが、それとは裏腹にアンナの写真は芸術として世間で話題になり高く評価されるようになりました。
ヴィオレッタも最初は年相応の子供らしい服装をしていたのですが、モデルを始めた影響で派手で肌の露出が多い服装で化粧をして学校に行くようになり、写真の存在を知っている子たちから「ヌードモデル」といじめを受けるようになっていました。
曾祖母がシンプルなワンピースなどをヴィオレッタに着せても、「こんなダサい服は、2度とヴィオレッタに着せないで!」とアンナは怒ります。
学校では教師からも指摘を受けるものの、アンナは「芸術を理解しない凡庸な人々からの嫉妬」と言い全く気にしません。

そんなある時、シド・ヴィシャスから招待され、ロンドンで撮影をすることになりました。シドにはお姫様のような扱いを受け、大麻をすすめられるなどして仲良くなるヴィオレッタでしたが、アンナに撮影でついにヌードになることを求められます。そこでヴィオレッタは「もうやりたくない!」と我慢できず撮影から逃げ出しました。
その後さらに追い打ちをかけるように、ヴィオレッタを愛し育ててくれた曾祖母が亡くなってしまいます。
自分の写真が世の中に出回りもはや自分の居場所はなく、唯一の心のよりどころだった曾祖母もいない。
ヴィオレッタは精神的に追い詰められていき、心は壊れていきます・・・。


エヴァ・イオネスコ監督について

実はこの映画、母親の写真家イリナ・イオネスコが娘のエヴァ・イオネスコのヌードを撮った、1977年に発売され世界中で物議を醸した写真集『エヴァ』。その被写体として、エヴァ監督自身の当時の経験をもとに脚本・監督を手掛けたものです。
映画ではどこまでが事実でフィクションなのかは分かりませんが、自分を利用する母と、逃れたい娘の関係性がとてもリアルな描写で、この映画は当事者だったエヴァ監督でしか制作できなかっただろうと私は思いました。


美少女ヴィオレッタ(演アナマリア・ヴァルトロメイ)

本作は母と娘の葛藤・芸術か虐待か、という重いテーマの映画ですが、ロリータ的でアーティスティックな、辛いだけではない映画に仕上がっています。その理由としては、闇に咲く花のような美しさを持つ主人公ヴィオレッタ(演アナマリア・ヴァルトロメイ)の存在です。

ヴィオレッタ2

純粋でかわいい12歳のヴィオレッタが、どんどん大人の色気と退廃的な雰囲気をまとうようになっていく様が美しくもあり、痛々しくもあります。
しかし本当に恐ろしいほど美少女で、とにかく魅力的でした。
カールした金髪をなびかせ、いろんな服を着てポーズをとる彼女はまるで生きているフランス人形のよう。

またファッションの視点から見ると、ジバンシィやシャネルなどのスタイリングも担当するスタイリストのキャサリン・ババのセンスが光っており、フランスらしいエレガントな衣装を親子とも着ています。
ヴィオレッタの私の一番のお気に入りの衣装は、ビビッドなピンクのドレスです。金髪にピンクのドレス、そして赤のネイルと口紅がとてもよく似合っていました。(イラスト左下)

そしてヴィオレッタを演じたのは1999年生まれ、ルーマニア出身のアナマリア・ヴァルトロメイ。撮影当時は10歳で、オーディションで選ばれ初の映画デビューだったそうです。
大人になった現在はモデル業で活躍しているようです。


母と娘、そして芸術とは

母アンナは自分が写真家として成功するために、娘を利用します。
幼いヴィオレッタは母から愛されようと頑張ってモデルをしますが、成長していくうちにこれはおかしいと気づきます。
ですがその時既に遅し、自分の写真は世に出回り、学校にもどこにも自分の居場所がなくなっているのです。これは母を憎むのも当然です。

一方母アンナは、娘ヴィオレッタを愛していなかったわけではありません。ただ映画後半でアンナの過去が判明し、彼女の家庭環境も母に愛されて育ったものではありませんでした。つまり愛された経験がないゆえに、彼女自身も娘を愛する方法が分からなかったと言えます。

最近「毒親」という言葉を聞くことが多々ありますが、親だからといって子供に何をしてもいいわけではない。子供は一人の人間であって、自分が産んだからといって自分の所有物ではない。ということを分かっていない親がそれだけいるということなのでしょう。

またヴィオレッタの写真は芸術として世間で評価されますが、少女をヌードモデルとして撮られた写真は、本当に芸術なのでしょうか
時代で評価や常識は変化していくものですが、少なくとも今現代ではこれは立派な児童ポルノであり、虐待です。
芸術というものは本来自由なものなので線引きが難しいですが、「これは芸術だから」といって何をしてもいいわけではないのです。


この映画を撮った後、監督のエヴァ・イオネスコさんは子供の頃(4~12歳時)に児童ポルノ写真を撮影されたとして、母親を訴えました。
最終的にパリの裁判所は、写真家のイリナ・イオネスコ被告に1万ユーロ(約111万円)の損害賠償支払いと、写真のネガフィルムの引き渡しを命じる判決を言い渡し、これで母娘の問題は一応は収まったことになります。
ですがエヴァさんの心の傷は一生治ることはないでしょうし、一度出回ってしまった写真は、完全に世の中から消すことはできないでしょう。

ヴィオレッタの美しさに惹かれ見始めた映画でしたが、親子の問題、芸術とはなにか、様々なものが込められた作品でした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?