【姉枕】むわむわと、しのびよる。
お母さんがいなくなると、家の中にまたあの匂いがし始めた。
すすけた畳や、色あせた柱、雨漏りの染みが広がる天井、しめきった押し入れのわずかな隙間からも、磯に似たあの匂いが、むわむわとしのびよる。近親相姦という犬畜生にも劣る性臭が、幸せな生活の中に、少しずつこびりついていくような不安。
お母さんの言い残した言葉が死神のように、僕の背後にまとわりついていた。
十八時を過ぎても七月の空はまだにわかに明るい。蛍光灯はまだついておらず、小さな窓から差し込む日差しのなか、僕はしばら