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物事の習得には「量」が大切であること

こんにちは。塾講師のあさだです。

 今回は学業だけでなく、スポーツ、音楽などのスキルを身に着ける際に大切なことについてお話しようと思います。

 結論から申し上げますと、物事の習得には、それに取り組んだ量が重要であるということです。勉強であれば「勉強量」、スポーツであれば「練習量」などがこれに当たります。

 「そんなの当たり前だ」と思う方が多いかもしれません。ですが、ここで使っている「物事の習得」というのは、「漢字は書けば書くほど覚えられる」や「素振りをすればするほどフォームが安定する」というようなことではありません。身につけた知識を応用して深い思考をしたり、それをもとに新しい仮説を立てたり、誰も思いつかないアイディアを思いついたりできるような状態を指しています。いわゆる"Expert"な状態です。

 なぜ物事の習得に量が大切なのかを、初学者と熟達者の思考の違いから説明したいと思います。

 人間の脳には「ワーキングメモリ」という思考をする場所と、「長期記憶」という記憶を保持して置く場所があります。長期記憶には知識の事実的な記憶のほかに、手続き的な記憶を保存することができます。手続き的な記憶とは、機械の操作の仕方や、友達の家までの生き方など、物事の手順に関する記憶です。この観点から、初学者と熟達者の違いを見ていきます。

 研究者や熟練した医師のような、物事を習得している人は、物事をあらゆる側面から見て、深い思考をすることができます。

 このように学問に精通した人たちは、一般的な人よりも知能指数が高いと思われがちですが、研究によると、これらの間に大きな差は見られないようです。では、どうして熟達者が深い思考ができるかというと、それは「長期記憶」の量に違いがあります。

 熟達者は初学者と比べ、専門分野に関する長期記憶(事実的な記憶、手続き的な記憶)の量が圧倒的に多いのです。長期記憶が多いことは、単に物事をたくさん覚えていて詳しいというわけではなく、ワーキングメモリの使用量を抑えられるというメリットがあります。

 このワーキングメモリの働きについて簡単に説明するために、初めてディズニーランドに行ったときと、10回目に行った時の脳の働きの違いを考えます。初めてディズニーランドに行ったときは、行き方を知らないので、どのように行くかを考えることに思考のほとんどを使ってしまいます。ですが、10回目になると、乗り換えの駅の名前や、行き方自体を覚えてしまいますので、「今日は何に乗ろうか」など、ほかのことを考えながら向かうことができます。これは、長期記憶に知識や手続き的な記憶が保持され、ワーキングメモリの使用量が抑えられ、ほかのことに頭を使うことができるようになったためです。

 熟達者は、圧倒的な知識と手続き的な記憶を持っており、そこには背景となる知識や、膨大な数の成功、失敗パターンが記憶されています。そのような状態だと、熟達者はワーキングメモリのほとんどの部分を、その問題の本質について考えることに使うことができます。これが、一般の人ととの思考の違いなのです。

  偉大な科学者の知能は一般の人とほとんど変わりませんが、「作業を長時間続ける能力」が圧倒的に高いということがわかっています。つまり、(一部の天才は除いて)熟達者は一般人よりも圧倒的に量をこなしており、それによって長期記憶にたくさんの情報が記録されており、そのためワーキングメモリをフルに使って物事を考えられる、ということが言えます。

 お読みいただきありがとうございました!

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