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数年前に中国に進出している日系企業で働く中国人の現地社員向けに、日本人や日本企業の文化を理解していただくための研修を行ったことがありました。(もちろん中国語で)

国内で働く日本人同士でもわかり合えないことがあるのに、海外で日本人と中国人がわかり合うのは更に難しいため、まずは相互理解のために相手の文化を知ることが大事です。
(日本人を対象に中国人や中国文化についての研修も行いました)

参考までに、現地の中国人からよく出てくる日本人に対しての疑問は次のようなものです。

・仕事をするわけでもないのに、なぜか遅くまで残っている
・飲み会は、2次会、3次会まである(宴会をやるなら1回で済ませばいいのに)
・「Yes」「No」をはっきり言わない(日本語の「いいよ」がYesにもNoにもなる)
・会社は大事にするのに、家族を大事にしない
・必要以上に社内調整を行う(いわゆる根回し)

さて、このような疑問に対して、よく「日本人は和を重んじる」「日本企業はチームで仕事をする」「日本人は他人に迷惑をかけないようにしている」といった説明がされますが、これだけでは中国人の疑問は解消されません。

なぜなら程度の違いはあっても、中国にも他の国にも同様の概念はあるため、彼らが知りたいのは「なぜ日本人がそこまでするのか?」ということです。

私も研修の中で色々な話をしましたが、結局のところ中国人が最も腑に落ちたキーワードが「世間様」と「村八分」の2つでした。

「神様」「主席様」より偉い「世間様」

中国本土にいる中国人に「この国では何がもっとも権威のある存在か?」と質問すると、優等生的な模範解答として「人民」と答える人もいれば、大胆にも「共産党」「習主席」と答える人もおり、中には「銭」と答える人もいました。

様々な考えはありますが、私の考えは中国には絶対的な権威はなく、今はたまたま共産党が支配しているが、歴史上革命は頻繁に起きるので数百年後はまた別の支配者が君臨している可能性もあり、結局のところ何を権威を感じるか人によって異なる。だから孫文は中国人をまとまらない「砂」と例えた

一方で西洋で何がもっとも権威のある存在か?と尋ねると、キリスト教でいう「神」という答えもありました。

では「日本では何がもっとも権威のある存在と思いますか?」と尋ねると、「天皇・・・、安倍総理大臣(当時)・・・、うーん」という感じで誰もピンと来なかったので、「日本で一番偉いのは天皇でも安倍総理でもなく、“世間様”です」と教え、芸能人が不倫がバレて謝罪会見するときに「このたびは世間をお騒がせして申し訳ございません・・・」ということを説明すると、皆さん一様に「なるほど~」という顔をしていました。

というもの、「世間をお騒がせする」という概念自体が中国人にとっては新鮮なものでした。

中国人がよく「日本人は行列に割り込まない」「日本人はゴミのポイ捨てをしない」と感心していますが、これらも「世間様」の概念で説明することができ、ある意味「世間様」による監視は中国政府の監視カメラよりも強力だったりします。

「世間様」に逆らうと「村八分」

ではなぜ「世間様」がそんなに偉いかというと、逆らったときの罰が「村八分」ということを伝え、村八分とは何ぞやを説明すると、今後は一様に「おお、怖え~」という顔をしていました。

もちろん中国にも集団から排除することはよくありますが、中国は広いのでいくらでも逃げることができます。それこそ共産党に逆らって国内に居場所がなくても、たくましい人は海外に逃げればいいと考えます。

しかし、日本は村社会と言われるように、ある集団から排除されてしまうとなかなか居場所を見つけるのが困難であるため、日本人にとって「村八分」は恐ろしい罰になり、村八分にならないように行動することになります。

根底にある行動原理を知ると、相手を許せるようになる

研修では他にも日本に関する様々なことを伝えましたが、受講者がもっとも印象に残ったのは「世間様」と「村八分」の2つのキーワードでした。

興味深いことに研修前は日本人の上司や同僚に対する不平不満が聞こえましたが(研修の場には中国人しかいないので)、研修を終えるとなぜか「(上司の)〇〇さんも大変だな」と相手に対する理解の気持ちが言葉に表れていました。

ここまでの話は日本人と中国人という文化の異なる人同士が「わかり合えない」を乗り越える事例の一つですが、自分たちの行動の根底にあるものを言葉にすることが相互に理解するためのカギであると思いました。

ただ自分たちの行動は普段意識することが少ないため、言葉にするのは難しいのかもしれません。「あたりまえ」「常識」と思っていることに対して「何でこれがあたりまえなの?」と疑問に思うことで初めて見えてくることもあると思います。

そういう意味では、自分たちの世界の外に出て外部から自分たちの世界を見ることが今後重要になってくるかもしれません。

最後までお読みいただきありがとうございます。


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