あいつは○○だから不適切発言は許されない。俺は○○じゃない。

まずはこちらの乙武さんの動画を見て頂きたい。

動画を見て、皆さんは何か思い出さなかっただろうか?
僕が真っ先に思い出したのは以前の記事で引用させて頂いた乙武さんの発言だ。

【件の“人権軽視”発言を擁護するつもりは毛頭ありませんが、だからと言って集団リンチによる“私刑”が、他者に社会的な死をもたらす社会が健全だとは思えません。 失敗から学び、再出発できるチャンスを奪うことは、それこそが人を死に追いやりかねない構造をつくり出してしまうのではないでしょうか。】

今回のプロゲーマーの不適切発言とそれに対するレッドカードに関して動画で言われていることにも通じる内容だと僕は思う。

また、スマイリーキクチさんはこうツイートしている。

不適切発言を許してはならないが、同時に私刑をやれば自分自身も加害者となり得るのだということを理解しておかなければならない。

僕は今回のプロゲーマーの不適切発言に関しては乙武さんやキクチさんの言う通りだなと思っている所もある。
だけどその一方で彼等とは全く異なることも考えているので、ここからはそれを書いていきたい。

動画で乙武さんが言っていたように有名人の台詞は若い世代や子供に……否、時には大人にも、さらには社会全体にも影響を与えることがある。

通称“ちか友”と呼ばれるバイリンガールちかさんのファンの皆さんの中には「Will you marry me?」(「結婚して下さい」の英訳)という言葉を聞くと「それで合ってるんだけど何故か違和感が……と思ってしまう」と言われていた方がいた。

その理由はこちらの2つの動画を見て頂ければお分かり頂けるだろう。

そう。“ちか友”の皆さんはちかさんの夫のお猿さんがちかさんにプロポーズした時の「Are you marry me?」(←これ本当は「Will you marry me?」が正解)が超絶印象に残っていたので「Will you marry me?」に違和感を覚えてしまっていたらしいのだ。

また、こちらは実在する人間ではなく創作物に登場するキャラクターの台詞ではあるが、アニメ『「鬼滅の刃」無限列車編』での煉獄さんの名台詞(迷台詞?)である「うまい!」や『遊郭編』での宇髄さんの「ド派手」を口真似する人もいるのではなかろうか?

……ということを考えてみると、有名人の台詞が多くの人に影響を与えるということは間違いないだろう。

だが、その一方でこうも言える。

今回のプロゲーマーの発言を受けて△△な男性や□□な女性を差別したり中傷したりする人間が実際に出たとして、そいつが「俺は例のプロゲーマーの影響を受けた」等という言い訳をしたらどうだろう?
その時に一番重い責任を問われるのは「俺は例のプロゲーマーの影響を受けた」等という言い訳をしたそいつだということは明白だろう。

それに乙武さんはどういった立場で「『あいつには人権ないよ』みたいな言葉を若い子だったり子供達が平気で言うようになってしまうと社会的に良くない」と言っているだろうか?

乙武さんは『五体不満足』の著者として、最近だと『ヒゲとナプキン』の作者として知られる有名人だし、過去にレストランに対する誤解を招いてしまったことがあったから自戒の念としても言っておられるように僕には思えるのだ。
これは以前の記事で触れたカズレーザーさんの指摘にも通じる所がある。

では僕等はどういった立場かと言われれば?
……有名人の逆だから無名人といった所だろうか?

ここで先程紹介したバイリンガールちかさんの動画の2つめ、『スペシャルゲスト登場?! ちか友 Hangout #5』をもう1度見て頂けるだろうか?

この動画に映っているのはちかさんがちか友の皆さんと交流する様子だ。従ってYouTuberさんがこういった形式の動画を投稿すれば僕等のような無名人の発言でも多くの人に影響を与える可能性はあるということが言えるだろう。
また、僕等が多くの人に影響を与えるのはこういったYouTuberとファンの交流動画の中だけでではない。

テレビ局のスタッフや職業YouTuberといった立場の方はコンテンツを供給する側だ。従って番組や動画に需要がなければ彼等は食えなくなる。……ということは確実に彼等は需要のあるコンテンツを僕等に提供しなければならないわけだ。
そして需要のあるコンテンツを作らなければならないとなれば当然彼等は僕等が何を見たいと思っているかを調べることになるだろう。では、彼等はどうやってそれを調べるだろうか?

“視聴率”や“Page View”数等、ものさしで測ることが容易なものは確実に調べられるだろう。そうなってくると……?

芸能スキャンダルばかり報道したり面白おかしさを狙ったような煽り報道をしてしまう質の悪いワイドショーがなくならなかったり迷惑系や炎上系の連中がネット上にはびこったりするのはもちろんそれをやる側も悪いと言えるだろう。
「“視聴率”が取れるから」等と言い訳をするのなら先程述べた「俺は例のプロゲーマーの影響を受けた」等という言い訳をする奴と同じく身勝手で無責任だ。

しかし、本当に「“視聴率”が取れる」のなら視聴者である僕等のような無名人の責任もまた重い。
質の悪いワイドショーや迷惑系や炎上系の連中に対して需要があるかのような振る舞いをしてしまう僕等にも責任はあるのだ。

1つ例を挙げてみよう。

WHOは『自殺報道ガイドライン』の中で報道機関が「やるべきでないこと」と「やるべきこと」について以下のように定めている。

「やるべきでないこと」
×報道を過度に繰り返さないこと
×自殺に用いた手段について明確に表現しないこと
×自殺が発生した現場や場所の詳細を伝えないこと
×センセーショナルな見出しを使わないこと
×写真、ビデオ映像、デジタルメディアへのリンクなどは用いないこと

「やるべきこと」
○有名人の自殺を報道する際には、特に注意すること
○支援策や相談先について、正しい情報を提供すること
○日常生活のストレス要因または自殺念慮への対処法や支援を受ける方法について報道すること
○自殺と自殺対策についての正しい情報を報道すること

昨年末、ある女優さんが亡くなっているがその原因は自殺である可能性があるようだ。
しかしその際の報道はWHOのガイドラインを守ったものではなかったように思う。
それ以前にもWHOのガイドラインを守らない芸能人の自殺の報道は相次いでいた。
ガイドラインを守らずに人の命をネタにして“視聴率”や“Page View”を稼ぎたいのだろうか?恥ずかしい行為だと言える。

だが、その一方で無名人である僕等1人1人のSNSを省みてみよう。
2014年6月29日に新宿で焼身自殺未遂事件が発生した際、集団的自衛権行使容認への反対が動機だったらしいことから右に行っている連中の中には「自爆テロ」等と自殺者を中傷した者もいたし、左に行っている連中の中には「◇◇(国名だが、伏字にしたのはその国に対する偏見や中傷を煽らないため)では政治的主張の手段として認められる」等と言い出す者もいた。
もちろんそういった煽りをやっていたのは極一部のマナー違反者だけだろうとは思うが、「大きく報道されないのは何かの圧力だろうか?」というようなことを言ってしまったりはしていないだろうか?

また、こんなこともあった。
たまたま見かけた自殺の様子を撮影し、それを自らのSNSに投稿した人がいたのだそうだ。
その人には批判が寄せられたらしい。
しかしその批判に対して「戦場カメラマンがやっていることとの違いを説明してみろ。感情論で自由を制限するな」などというとんでもないことを言い出す者がいたのだ。

自殺の様子を撮影してSNSに投稿した人はもしかしたらWHOのガイドラインを知らなかったのかも知れないし、批判の中に攻撃的なものや誹謗中傷があったのであればそれを問題視して「行き過ぎた批判は良くない」と言うのならそれは理解できる。
だが「自由を制限するな」などというのは完全に履き違えている。
戦場カメラマンを例に出すのであれば、当然WHOのガイドラインを守らなくてはならないということが分かるはずだからだ。
もちろん私刑はよくないからこの場合は自殺の様子を撮影してSNSに投稿した人にはWHOのガイドラインのことを伝え、その人に対する批判の中で誹謗中傷を含んだ発言をした者や「自由を制限するな」と言った者に対しては違反報告するのがベターだろうか?

報道機関は僕等1人1人の鏡だ。
僕は先程「ガイドラインを守らずに人の命をネタにして視聴率やPage Viewを稼ぎたいのだろうか?恥ずかしい行為だと言える」と書いたが、“視聴率”や“Page View”の所を“自らのSNSの閲覧者数”や“いいね数”に置き換えてみれば特大のブーメランだし、僕等1人1人が気をつけておかなければそれが“視聴率”や“Page View”によって食えるかどうかが決まる報道機関に反映されてしまうのだ。

乙武さんは『五体不満足』や『ヒゲとナプキン』を提供する側として「『あいつには人権ないよ』みたいな言葉を若い子だったり子供達が平気で言うようになってしまうと社会的に良くない」と言っている。
ならば僕等は買う側の責任として質の良い物を買い、テレビ局のスタッフやYouTuberが良い物を提供しやすくする環境を整えていかなければならないだろう。

今回問題視されたプロゲーマーはコンテンツを提供する側なのでテレビ局のスタッフやYouTuberに近い立場だと言える。
それを踏まえた時、無名人である僕等はこう考えなければならないはずだ。

もちろん不適切発言は良くないが、それを咎めている僕等は自分達のSNSで不適切発言を煽るようなことをしてはいないと言い切れるだろうか?
有名人は影響力があるとか発信力があるとよく言われるが、有名人もまた無名人の影響を受けるものなのだ。

この際なので有名人の所にいろいろな職業を当てはめてみよう。
ライター、ジャーナリスト、政治家、タレント、YouTuber、そして今回のようなプロゲーマー。他にも当てはめられる職業はたくさんあるだろう。
彼等は僕等の影響をもろに受ける立場だから、僕等は彼等が間違った方向に行かないようにまず自分が気をつけておこうと考えておきたい。

ところでもし彼等が間違いを犯した時にこんなことを言い出す者がいたら……?

“あいつは○○だから不適切発言は許されない。俺は○○じゃない。”

僕なら速攻でその人物は信用に値しないと考えて、その人物がマナー違反をしているようなら違反報告した上で距離を置きたいが、皆さんはどうだろうか?

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