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ソール•ライター展

ソール•ライターというカメラマンの存在を数年前に知った。

彼に限らず好きな音楽ジャンルでさえ僕の知識は偏っている上に貧弱で、ましてやアートとなると何も知らないと同じ。井の中の蛙でここまで生きてこられたことに逆に感動すらしてしまう。

カメラを手にしてからというもの、ようやく様々な展覧会に足繁く通う癖が身に付きこんなにも世界には素敵な芸術が有ったのかと驚いたまま数年を過ごしてきた。

水俣を撮り映画化もされたユージン•スミスを知った時も鈍い衝撃を受けたが、ソール•ライターもまた重めの印象を与えてくれた。

都会の片隅の情景はそれ自体は何も特別な事では無いが、目に飛び込んでくる鮮烈な色と独特な視点はシーンを超えて何処かへ連れ去ってくれる。可愛らしい描写にクスリと笑うとか切ない光景に涙ぐむなどの「情感」みたいなものは殆ど感じられない。其処に在るのは溜め息とシャッターの音だけ。

しかし、何故か心地良い。余計な感情が動かないから心がはためいて疲れることもない。

今回の展覧会で僕が心惹かれたのは彼の写真が掲載された実際のファッションマガジンの展示と、本当は画家を目指すもカメラマンとして生きた彼の残した絵画の二つ。

肝心のファッションが殆ど写っていない思い切ったアングルやトーンの低い写真からは生きるために撮るが心は売らないという強い意思を感じ、ナビ派の影響が濃く現れた絵画からは彼の純粋に楽しんで描いている気持ちを感じた。

画家ではなく写真家としての道を選んだ彼の選択は結果として今日の名声に繋がったけれども、もしも画家を目指していたらどうなったのだろう?

温度の低い写真と暖かみのある絵を交互に見比べていたら居た堪れなくなって会場をそそくさと後にした。

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