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シティズンシップシティ(まちの不思議 おもしろ探究日記 #12)

(本記事は雑誌『社会教育』2023年6月号に掲載された記事を転載しています)

4月23日、市議会議員選挙の投開票日、国分寺駅北口の広場で「選挙マルシェ」を開催した。
「国分寺の投票率を1位にプロジェクト」が開いたもので、キッチンカーや屋台の他に、投票を促す大きなパネルを掲示し、国分寺の投票率の推移、候補者のデータベースが見られるQRコードなども掲示した。

駅を行き交う人たちが、パネルから候補者情報を見たり、コーヒーやクッキー、地元産の野菜を使ったジェラートなどを食べながら、選挙や政治について語る座談会に参加したり、お気に入りの野菜に投票したりと、それぞれの形で選挙を楽しんでいた。
特定の候補者の応援はしないというルールの上で、前日まで同じ場所で名前や政策をアピールしていた候補者たちも一市民として遊びに来てくれて、マルシェは大賑わいとなった。
さながら、スウェーデンの選挙小屋やオーストラリアの選挙屋台を思わせるような場で、残念ながら国分寺の投票率は一位にはなれなかったが、まちの中にこういった場があるということで、「このまちをもっと好きになった」という声もいただいた。

選挙マルシェの様子

これまで二年間、選挙のたびにこういった活動を重ねてきて、最近では「自分のまちでもこういうことをやってみたい」「どうやって運営しているのか教えてほしい」と言ってもらえることも増えてきた。

プロジェクトには数人のコアメンバーと、ゆるくつながるメンバーや仲間たちがいて、基本的には選挙のたびに、その時集まった人たちで活動している。国政選挙なのか地方選挙なのか、仕事や子育ての忙しさなど、それぞれの興味や事情に合わせて、都度参加したり参加しなかったりしている。誰がメンバーだということは特に固定せず、基本的にはグループウェアでやりとりをして、メンバーの友人やまちの人たちにも協力してもらいながら進めている。
定期的なミーティングで進捗を確認しながら、その時動ける動きたい人が動いていて、その積み重ねで活動は行われている。その細かい連絡やスケジュールの管理、バランス調整や、外との連絡を取っているのはコアメンバーであるが、それも流動的な役割分担の中で動いている。

メンバーは普段はまちで暮らしている。
仕事をしたり、子育てをしたり、イベントを開催したり、イベントに参加したり、まちの新聞を発行したり、パブコメを出したり、議会に傍聴に行ったりと、それぞれの在り方で、まちやまちの政治に関わっている。
選挙の時以外は、その様子を時々報告し合うといった関係性である。

選挙に向けた活動は、大体選挙の三ヶ月前くらいから始まる。
今回は、一月にキックオフイベント「公開作戦会議」を開催し、今回の選挙でやってみたいことを持ち寄り合い、投票率を上げるためのアイディアを出し合った。そこから、「国政選挙には行くけど市政選挙には行かない人」にターゲットをあてて、その層に届く活動をやってみよう、ということになった。

公開作戦会議では、やってみたいことがいつも二十個くらいは出てくるが、実際に動いてみる中で、いくつかの案はボツになっていく。メンバーの特性ややりたいこと、実現性や全体のバランスなどから案が絞られていき、最終的なプロジェクトの形が浮かび上がってくる。
前回の選挙でやったからといって今回やると決まっているわけでもなく、「やりたい」「どうしてもやってみたい」と思っているメンバーがいる活動が残っていくことがほとんどだ。

そのため、その時集まったのが誰なのかによって、プロジェクトの形は毎回大きく変わるのである。

例えば、候補者インタビューはメンバーの「候補者全員に会ってみたい」という気持ちから始まっている。候補者の事を何も知らないから、まずは会いに行ってみて普通の会話をしてみたい。そう思うメンバーが毎回いるからこそ、候補者インタビューは行われている。

また、今回やってみた市議会の一般質問のデータベース化は、私が市議会の一般質問を見るのが好きで、そこを基準に議員それぞれの特徴を知りたいという気持ちから始まっている。

選挙マルシェは、日本にも選挙小屋があったら、選挙屋台があったら、それはどんな形でどんな場になるのだろう。それを試してみたい、と強く思うメンバーがいたからこそ実現した。

まちなか野菜選挙は、野菜を使ってまちを盛り上げたいというグループと協力して企画が進んでいった。そこに、市議会を政局で見る、というおもしろさにワクワクしているメンバーの思いが重なり、やさい市という架空の市の、市議会の政局争いのストーリーができあがり、擬人化された野菜たちによる選挙となった。

結局のところは、自分たちがほしい情報や場を、自分たちでつくっているのである。ただ、どの活動もメンバーだけでは完成しない。手伝ってくれる仲間たちがいるからプロジェクトは成立している。
だからこそ、プロジェクトで大事にしていることは、「やった方がいい」ことではなく、「やりたい」ことをやるということだ。
「やりたい」という気持ちがあるからこそ、一緒につくりたいと思えるし、お互いに協力し合える関係性も広がっていく。

それぞれが市民として、自分なりのまちやまちの政治との関わり方を見つけて、それを実現するための場として、このプロジェクトがある。
「投票率を上げたい」ということを中心に置いて、やってみたいことをやってみることができる社会実験の場なのである。

以前、「国分寺はシティズンシップシティだね」だと言ってもらったことがある。
選挙のたびに、市民がまちとつながり直し、自分たちなりの活動をつくっていくことができているなら、それはなんて素晴らしいことなのだろう。
そして、そんなまちに住んでいるということがとても誇らしく感じられて、嬉しく思う。

▼ 雑誌『社会教育』


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