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父と冷蔵庫と

忘れられないうしろ姿がある。
もう、20年くらい前ーー

実家を出ることを決めた

反対されることは分かっていたので、
勝手に部屋を決めて報告した。


案の定、父は大反対をして、
引っ越す前の週まで、あーだこーだ、言っていたのだが。

何をどう吹っ切ったのか、
「引越しは、父さんがやるから」と。


家から持ち出すものは、そんなに無くて、なんとかなるだろうと思っていたのだが、友人からもらった小さな洗濯機があった。

引越し先の古い二階建てのアパートは、
無論エレベーターなど無く、
父は背中に洗濯機を背負って、階段を上がり、
キッキンとお風呂場の間に置いてくれた。

誰の手も借りず、ひとりで。


父と母が帰り、片付いていない部屋のタイル貼りのキッチンにひとり立って、珈琲を淹れようと、鍋の中のぼこりぼこりと泡立つお湯を見ていたら、
なぜだか急に、わあわあと声を上げて泣いた。


あれから、何度か引越しをしたけれど、
わたしの部屋に父が来たのは、
最初の古い二階建てのアパートしか、ない。

その理由を未だに聞いたこともない。

#父との思い出 #絵のない絵本 #エッセイ

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