フェミニズムにまつわる典型的な疑問

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このところ『北欧に学ぶ小さなフェミニストの本』の読書会やイベントをしてきた私は、いくつかの疑問を抱くようになった。その疑問とは以下のようなものだ。

1.男と女の性差をなくすことが、フェミニズムの目指すところなのか?

野中モモさんとのイベントで土木女子の話が出て、男性と身体的に異なる女性が男性と同じように働くことが男女平等なのか? という疑問が浮かんだ)


2.女性達が男女平等を勝ち取ろうとすることで犠牲になるのは子ども達なのではないか?

3.フェミニストは結婚生活や家族制度を崩壊させようとしているの? フェミニストが攻撃的で男性を嫌悪しているように見えることも。
参考:

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 私が北欧に興味を持つきっかけとなった『マリアからの手紙』(徳間書店、デンマーク)の著者グレーテリース・ホルムもフェミニストで『フェミニストのためのハンドブック』という本を出している。彼女は民間、公共の両方が男女平等について知識を求めていた特に80年代、男女平等について講演をしてくれと引っ張りだこだったそう。

 グレーテリース・ホルムは私が抱いた「1.男と女の性差をなくすことがフェミニズムの目指すところなのか?」という疑問を以下のような言葉で解消してくれた。

 フェミニストが男性と女性の性差をなくそうとしているというのは大きな誤解です。
 女性解放運動についての議論でしばしば論じられてきたのは、サッカーにたとえて言うなら、女性選手が男性選手のフィールドで男性のルールに従ってプレイするべきなのか、男性が女性のフィールドで女性のルールに従ってプレイするべきか? ということでした。
 私個人はそのフィールド自体を男女両方に合うようゆっくり作り変えていくべきと考えます。つまり職場も家庭も男女がともに考え、両方に合うよう作り変えていくべきということです。男性も育児休暇をとれるようにし、また女性が子どもを産むからといって職場で不利な立場に追いやられないようにする必要があります。また家庭で男女が家事や育児に対し同等の責任を負うようにするべきです。それには法整備が必要です。
 女性が『女性らしく』いようとする余り、男性のフィールドにいつまでも上がらなければ、既存のフィールドに変化はもたらされません。
 女性が男性と同じ権利を求めるのであれば、義務も同じだけ負うべきだ、女性も兵役の義務を負うべきという主張に私は同意しかねます。戦場は男性のフィールドであり、私はできればそのフィールドに上がりたくありません。ただ上がりたいという女性がいるなら、もちろん反対しません。
「子どもを産むのは女性。それは生物学的に変えられない事実だ」と言う人がいます。ですが、出産にかかる時間は平均5~6時間。その5~6時間のために、残りの人生、賃金も年金の額を引き下げられ、社会的影響力も奪われるのはおかしなことです。子どもを育てる責任は両親だけでなく、社会にもあります。社会が子どもの養育の責任を負うことで出生率も上がり、国の経済にもプラスの影響を及ぼします。子孫を残し、人口を減らさず労働力を確保するのは社会全体の関心事です。なので子どもを育てるのは個人でなく社会全体の問題で、それを女性だけが担わなくてはならないのは理不尽です。
 フェミニストは男女の生物学上の違いを認めないわけではありません。ただ生物学上の違いがあることが、政治的、経済的、またその他様々な形の女性差別を正当化する理由にはならないと言っているのです。

2.女性達が男女平等を勝ち取ろうとすることで、子ども達が犠牲になるのではないか?

 フェミニストは「女達が男女平等を求めるのは、冷酷で自己中心的。犠牲になるのは何より子ども達だ。それに夫も」という声に常に苦しめられてきました。そうしてフェミニストの多くは罪悪感を覚え、また男女平等が自分達にとってよいことかどうかも時に迷いました。確かに女性達が無賃労働を放棄することで、子ども達や家庭、社会全体に影響が及びます。今の若いデンマークの女性達も、罪悪感を抱き、抑圧されながらも、何もかも上手にこなせているふりをしようとしています。
 ですが急進派の政治家Lone Dybkjærのこの言葉を忘れてはなりません。「女性が職業を持つことで子ども達にしわ寄せがいくという言葉を嫌になる程聞いてきましたが、それは正しくありません。正しくは、男性が女性と子ども達と連帯しようとしないことのしわ寄せが、子ども達にいっているのです」 

3.フェミニストはどうしてそんなに攻撃的なの? どうして男性を嫌悪するの? フェミニストは結婚生活や家族制度を崩壊させようとしているの?

 私は80年代に講演会をよく行っていたのですが、その際、男女の賃金格差についてなど様々な統計を用い、男女平等について客観的に話してきました。なのに「あなたはどうしてそんなに攻撃的なのですか?」と聞かれて面食らいました。「統計を見せているだけなのに、なぜ攻撃的と思われるんだろう?」
 徐々に分かってきたのは、どんなに客観的なデータであろうと、男女不平等を指摘すること自体が、男性に喧嘩を売っている、不愉快だ、と受け取られてしまうということでした。
 男女平等を求める女性は、男嫌いとかヒステリックだとかフラストレーションを抱えているとか、社会不適合者などと形容されるのが常でした。
 なので上の批判は、黒人差別がいけないと言う人に、あなたは白人を敵視しているのですね、と言うのに近いよう私には思えます。
 フェミニストは男性を嫌悪していません。私達は様々な面で男性を愛します。私達の批判の矛先は不公正さ、民主主義に反する伝統、文化、社会の構造であって、個人ではありません。
 私は男性が責められていると感じないように、できるだけ個人批判はせず、「男性支配の文化」とか「男性社会」といった表現を使うようにしています。またこのような文化により苦しんでいる男性もいること、また女性の中には男性支配の文化であることを自然なことと捉えている人もいることを強調するようにしています。また『女性の隷属』を著したジョン・スチュアート・ミルのように女性解放のために積極的に働きかけた男性もいることを言うようにしています。
 フェミニストはまたいわゆる「普通の」女性から、結婚生活や家族制度を崩壊させようとしているのではないかと注意されることもよくありました。
 でも私は44年間同じ男性と連れ添ってきましたよ。
 人間があらゆる規範に縛られず、完全に自由に選択ができるようにし、代わりに個人の人生、ウェルビーイング、幸福に責任を負うようにするべきという極端な自由主義思想は、もちろん現実的ではありません。
 デンマークの女性/家族は実際問題、完全に自由な選択肢を持っているわけではありません。今でも職業生活で女性の方が男性よりも不利です。なので結婚する、しないは、経済、政治状況を鑑みた上で選択せざるをえません。また男性が育児休暇をとるかとらないかも、経済状況に左右されます。女性が無賃労働を多く担うのは、女性の賃金が男性よりも低いことが影響しています。人間の行動は経済に大きく左右されるのです。
 1953年、北欧で、女性は家にいるか職場にいるか自由に選べるようにするべき、という議論が盛んに行われました。ですが女性が経済状況に左右されず完全に自由な選択肢を持ったことなど、これまでの歴史で一度だってないのです。貧しい女性は常に働かねばなりません。シングルマザーは子どもを養わなくてはならないので、主婦になんてなれません。
 専業主婦というのは、社会全体がお金にゆとりがあった恵まれた時代にしか成り立ちえません。そのような経済状況は長くは続きませんでした。

参考:『自分で考えよう』より

喧嘩せずに議論するには?

 哲学の議論をとおして、人は真実をさぐろうとする。ソクラテスは好奇心が強く、議論や討論を愛した。問いを立て、それに答えることで、不変の答えや真実にたどり着けると考えた。真実にたどり着くには、忍耐力と寛容さと正直さがひつようだ。
 哲学者は理性的な議論を積極的に行う。また哲学者にとっての勝者は、最良の議論だ。相手の提案のほうが正しければ、自らの考えを変えることもありうる。哲学者はあたらしいものごとを学びたいという意欲にあふれている。またある問いに対し相手の論のほうが筋が通っていれば、よろこんで自分の意見を変えるだろう。
 哲学者にとってたいせつなのは、「だれが正しいか」じゃない。「なにが正しいか」だ! よい哲学者は自分の考えを批判されても怒らない。また哲学的議論をするとき、うそをつかず、本当のことを言う。
つぎにきみが友だちとけんかすることがあれば、いまのことを思いだしてみるといいかもしれないね。

 Readin' Writin’イベントでご一緒したもりこさんに教えていただいた記事を最後にご紹介します。スウェーデンの男性危機センターについて。


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追記:私のとりとめもないこのNOTEを読んで、女性史研究家の方がこんなことを書いてくださいました。ずばーん。そう、その通り。もやもやがすっきりしました。



  

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北欧と日本のフェミニズム

日本の女性史を織り込んだ日本版『小さなフェミニストの本』出版に向けて北欧と日本のフェミニズムについて書いていきます。
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