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ほつれ

お気に入りの白いワンピースがある。
以前から気になっていた、エシカルな原材料を使っているお洋服のブランドのもので、店舗で買うととても高くて手が出ないけど、ある日フリマアプリで格安で売られていたのを見て衝動買いしてしまったものだ。
格安のワケは、もともと、腕の部分がほつれていたからである。
それをわかっていた上で、「自分で直せばいーや」と思って購入したのだが、いざ買ってそのほつれを直し着用しはじめたはいいが、なかなかこの子は手強いぞ、ということに気がついた。
異常に生地が弱い。うっかり洗濯物の竿に服が当たったり、洗濯をするたびくらいの確率でほつれてしまう。
そんなこんなでそのうちほつれをそのうち直さなくなり、着用頻度も減りそのまま放ったらかしにしていた。

4月、私は引っ越しをした。
4.5畳の個室で収納も限られていると言うこともあり、引っ越しまでにある程度荷物を整理して不要なものは断捨離した。
その際、新居に連れていくか迷ったもののひとつが、例のワンピースである。
取り扱うのはちょっとめんどう。だけど、ナチュラルで華やかな気分にさせてくれるこの子のデザインは、私は気に入っている。
ううん、と一瞬迷ったが、「新居に連れていく段ボール」の中にぽいっと放り込んだ。

それから2週間。
お洋服はかなり厳選した。その中に彼女(白ワンピちゃん)はいる。
ハンガーラックにかかっている洋服は厳選された使用頻度の高いものばかりで、その中で着用する機会のない白ワンピちゃんの存在が、ふと気になった。
ずうっと、ほつれを直していなかったのだ。
気になるけどめんどくさい、またほつれそうだし、なんて面倒くさがりやの私がつべこべ脳内で言い訳を始める。そんなこんなで、やっぱりしばらく放置していたのであった。

ある日ふと午前3時に目が覚めた。

色々やらないといけないことは溜まっているのでなにか作業でもしよう、と起きたはいいが、早朝すぎて音を立てる作業をするのは憚られる(お隣さんとは壁が薄いため)。
そんな時、目に止まったのはやっぱりあの子。
スマホに書き溜めている、いつかやるぞメモの中に、「ワンピのほつれを直す」と書いておきながらずっとやっていなかった。思い切って、私はハンガーラックからワンピを取り出し、ほつれを治し始めた。
こういう、こまごまとした生活の作業が私は苦手だ。だけど、それは「時間に追われている」ような感覚の中でやるから苦手と感じるのであって、朝ゆったりと作業していくうち、白ワンピでお出かけした時のことやライブに着て行ったなぁ、なんとことを思い出し、この子への感謝のようなものがふと芽生えてきた。
いちいちほつれを直すのは面倒くさい。だけど、その面倒くささの中にも何かプラスの側面があるのではないかと思った。それはなんだろう?と自分に問うたら、「手間をかけるだけ白ワンピちゃんのことが大切に思えるよ」と内なる私から答えが来た。

ぶきっちょながらもほつれをどうにか治した。満足げにワンピを見ていると、「もうちょっとなにかアレンジしたい」という気持ちになった。
そしてふと、以前吉祥寺で買った、チェコの職人さんが作ったガラスボタンの存在を思い出した。繊細で職人さんの手作り感を感じられる。とってもお気に入りのものだったけど、やっぱり私はものぐさなのでどこかにつけるでもなく、部屋のインテリアとして飾っていただけであった。
そのガラスボタンを、白ワンピにつけてみることにした。無事に完成し、白ワンピの首元にはちっちゃなお花柄とトンボのモチーフのガラスボタンがなんとなく、嬉しそうに留まっていた。
完成したワンピースはほつれの跡がきれいに治せていないけど、世界に一つだけのものになった。
自分の手を加えることで、この子とより親密な存在になれたような気がする。
もっと自分の周りにあるものと丁寧に接して、仲良くなっていけたらな、と感じたとある早朝(夜中?)の出来事でした◎


こんな感じになりました。首元(?)にふたつあるのが例のボタン。心なしか、ワンピースがほんのりと嬉しそうではないですか。

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