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2024/03/30の日記:Remember Mr. Lawrence オッペンハイマーにおける役者トム・コンティの位置付け

オッペンハイマーを観てきた。映画全体の感想は多くの人が、より鋭敏な人が物語や演出の構造における気付き、感嘆を現してくれるだろうから、自分の視点で最も驚き印象に残った一点について書く。

スタッフロールでトム・コンティの名前を見つけたとき、声を上げてしまった。アルベルト・アインシュタイン役が彼であったのだ。

トム・コンティ。

大島渚監督「戦場のメリークリスマス/Merry Cristmas Mr. Lawrence」でジョン・ローレンスを演じた役者であるが、
その柔和で温かな顔立ちと確かな演技力に反し、日本ではこの「当たり役」以外ではほとんど活躍の知られない役者である。
そしてアインシュタインは映画「オッペンハイマー」の中で極めて重要な人物ではあるが、決して登場する時間は多くない。世界の誰もが知るアイコニックな白髪、白髭をつければ極論(年齢や背格好が合えば)誰が演じても「彼」と分かり、そのラインは満たせてしまう、という役どころだ。

故にこの起用に、殊更の意味を探ってしまうのだ。
共に全く戦闘、戦地を描かずに戦争を描いた特異な映画で、日本が重要な意味を持つにも関わらずその地を映すことの無い映画で、実に40年を跨ぎ2つのエンディング・シーケンスをトム・コンティが担ったことの意味を。

一方で、戦場のメリークリスマス。
奇妙な友情に結ばれた敵国の一軍曹の、処刑前夜の贖罪、死を待つ者の罪咎への思いを分かち合う。悲哀を噛み締め隠し、笑顔で去り際に呼び止めに振り返る。

一方で、オッペンハイマー。
緩やな尊敬で結ばれた亡命先の科学者に、世界滅亡の共犯であると告げられ、分かち合わされる。不快と当惑、悲嘆を入り交じえてしかめた顔で、呼び止めを無視してその場を去る。

ニュース記事などをみるに、トム・コンティは過去クリストファー・ノーラン作品「ダークナイト・ライジング」に出演した縁があり、キャスト選出もスタッフによるものであるから、起用には殊更の意図はなかったと思われる。
しかしクリストファー・ノーランは確かに、「戦場のメリークリスマス」を高く評価し、推薦する映画を語る際には度々上位として推しているようなのだ。

この対称性や相似に、「戦場のメリークリスマス」へのささやかな返歌やトリビュート、あるいは挑戦を込めたと捉えて夢想しても、良いじゃないかと思う。


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