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読書回 (ある神の話の感想文)

神社、お寺などをお参りして、御朱印を貰う方が増えてきました。その事と関係しているのかわかりませんが、日本古来の民間信仰や妖怪、もののけなどを取り上げた小説、特にラノベ系が増えてきました。

日本の神話として継承されてきた古の書物は古事記や日本書紀と言われています。その中の神様は人間的な行動をしており、我々は親近感を持ちます。
しかし神様の力は人とは比べ物にならないほど強大ですから、人間の騒動とは違って後始末が大変ですよね。私はそんなことに考えをめぐらせてしまいます。

さて最近読んだ小説にも神様が登場しました。話の主人公は神様の使い、「死神」の話です。神様ではなく、死神か?と思われた方にごめんなさい。
しかし普通の死神とは違うのです。説明していきますね。

『優しい死神の飼い方』 知念実希人著

まずこの死神は見た目が犬です。犬種はゴールデンリトリバーで、名前はレオ。
派遣先はホスピス。入院中のガン末期患者の現世への未練を絶ち、地縛霊にならないように来世に送るのが使命です。

この話の舞台は丘の上の屋敷で、今はホスピスとして使われています。レオがこのホスピスに来る遥か前へと歴史を遡り、過去に起きた事件からミステリーが始まります。
入院患者は皆この建物や昔の住人と少なからず縁があるのです。
レオは真面目にその事件との繋がりを解き明かしながら、死神の能力で患者たちの未練を断ちますが、次に新たな危機が迫ります。

レオと看護師の菜穂との交流の場面が良いですね。
言葉通りに聞くレオには菜穂の本心が読めず、またレオからは話しかけられないもどかしさ。
そしてお互いの考えがすれ違うところが面白くて、読み進めたくなります。

では死神レオと菜穂のコミユニケーションについて少し書きます。

レオは菜穂たち人間の非合理な(感情的な)行動を、菜穂はレオの不可解な(犬らしくない)行動をお互いに理解出来ません。

レオは高貴な霊的存在であり、そもそも死神とは人間がつけた呼び名だというのです。だから犬らしく振舞えないのは当然ですが、我々が想像する非情な死神らしさはほとんどありません。特にレオは素直で天然な性格です。
また頑固な面もあり、初めは人間と関わることを極力避けますが、菜穂の優しさから少しずつ人間の感情を知り、レオは人間を受け容れていきます。

菜穂にも秘密があり、そのため人生が思うようにいかないことを不安に思っています。でも日頃はそんな事を口にも顔にも一切出さない、優しく明るい看護師です。

次第に両者の理解が深まり、お互いの長所を尊重しながら、良い友達になります。それは死神の持つある能力の助けもあるのですが、読んで確かめてください。

2人(と言っていいのか?)がどのように友達となり、迫り来る危機をどう乗り越えるのかが後半のテーマです。

死神が主人公という話は他に伊坂幸太郎の「死神の精度」「死神の浮力」があります。
どちらも話の筋は人間の人生ですが、死神の視点で人間を見るという所で共通しています。
伊坂幸太郎の作品との違いは、死神が人間ではなく犬になったという点で、この設定が話を心温まる優しいものになっています。

■死神の存在とは?
■菜穂の秘密とは?
■死神と菜穂に迫る危機とは?

是非とも読んで確かめてください。
おすすめします。

文庫 441ページ
ISBN-10 4334772897
ISBN-13 978-4334772895
出版社 光文社 (2016/5/12)

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