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命の恩人と推しを天秤にかけた話

明確に推し活と呼べるものを始めたのは、2021年だったと思う。
lynch. というバンドのボーカル・葉月のインタビューを読んだことがきっかけだった。

読んだのなんて「ついで」だった。
インタビュー冒頭に掲載された写真の顔があまりに綺麗だった、というのは白状するところだけど。

もともと、目的はその前のページに掲載されているTHE BACK HORN(以下、バクホン)のボーカル、山田将司のインタビューだった。
『音楽と人』2021年2月号 のことだ。



「わたし」に当てはめる推し方


山田将司はコロナ禍直前に喉のポリープで手術し、歌えるくらいには回復したけれど歌い方が変わった。
雑誌を手にした頃のわたしは、嬉しさと寂しさがごちゃごちゃになっていた。

活動は続く。けれど、わたしが愛したあのヒリつく声が聞けない。健康でいてほしい。でも前のような身を削ったステージを見ていたい。
相反する気持ちをどこに持って行けばいいのか、答えを乞う気持ちで雑誌を手に取った。

一部の人はご存知の通り、わたしはかれこれ20年もの間、バクホンの音楽に救われ続けている。でもそれは「推し感情」というものとは別物だと思っていて、もっとずっと身勝手で信仰のような類の感覚だった。

身勝手で信仰のような類とはつまり、
相手がどうであるかに興味がないってことだ。神社で神頼みをするとき神の近況を気にする人はあまり居ないじゃない?そんな感じ。

彼らが日常の中で何を考え感じ取っているかは、曲とライブ中のMC、あとはインタビューから伺い知れたら充分だった。
本人が何を愛用しているとか、休日はどんなことをしているかとか、酒の飲み方がやばいとかは、エピソード的に知るのは面白かったが興味の軸にはならなかった。

そもそもライブや楽曲自体が彼らの日常を凝縮して濾しだされたものだし、濃度が最も高いものを味わうことにこそ意味がある。
しんどい時を思い出してライブで泣き、越えてきた夜のつらさと今日の尊さでじぶんを褒め称える。MCで「また生きて会おう」と言われ、各々が勝手に生き延びる約束をする。

つまり、勝手にわたしの日常に当てはめて、わたしの感情が昇華されることに価値を見出しているんだと思う。

それに、
いちファンがどう在ろうが、本人の活動に大きく影響することはない
というのも、アーティストに近さを感じない大きな理由だった。

バクホンは結成から今年で25年、所属事務所を牽引するベテランバンドだ。
もうファン一人ひとりの意見を拾い上げる段階ではないし、最初からファンとの交流も少なかった。

だから、「誰かを推す」という感覚は見聞きする範囲ではいまいちピンと来ていなかった。

たとえば、オリコンのランキングを伸ばしたいからCDを何枚も買う、アイドルに自分のことを憶えてほしくて握手会やチェキ撮影を周回する、プレゼントを贈る、私物が気になる、配信中にスパチャ課金して名前を呼んでもらう…

ここに書いた以外にも当然いろんな推し方があると思うんだけど、聞いたことがある推し活の種類はこんな感じで、相手の一挙手一投足が自分の一喜一憂に繋がっていることが多いようだった。

そんなわたしが「推し」を見つけたという冒頭へ話は戻る。


「その人」が目的の推し方

目的のインタビューを読み終わり、あんまり気持ちが晴れないままにページをめくり続けていたら、その人に出会ってしまった。
漆黒の衣装をまとった不遜な立ち姿。
lynch. 葉月の扉写真。

lynch. は2021年2月に武道館公演が控えていて、それを盛り上げるために収録された記事だった。インタビュータイトルは「叶わぬ夢のその先へ」。ビジュアルもさることながら記事のリード文に惹かれてつい、読む。

lynch. はバンド結成当初から武道館公演を掲げて15年(当時)、近道やショートカットを使って成功できない実直さが魅力のバンドであるという。

彼らはメジャーデビューやブレイクにも苦労してきた過去があり、トラブルで武道館公演が立ち消えになった経歴もあって、メンバーとファンにとって今回は悲願のライブだった。

そんなお祝いムード溢れるだろうインタビューの中で
「嬉しいという現実味より先に、平日開催かぁって思って(意訳)」
というシビアさを率直に返してて、
「あったぶんこの人、好き…!」となったわたし。
え、ツボそこ?とはじぶんでも思う。

武道館に向けて作られた曲について話が展開したので、聴きながら読み進めようと思いすぐに検索する。

検索結果の最初に出たのは、武道館公演中止のアナウンスだった。

またも彼らの武道館は遠ざかったことを知った。なんの思い入れも無かったのに、気づいたら頬が濡れていた。

「おんなじだ」
と思った。もちろん同じわけはないんだけど、そう思ってしまうくらい、じぶんのタイミングの悪さを呪っている時期だった。
2020年に渾身の著書を世に出したものの、世はコロナ禍初期で混乱を極めていた。

出版記念にと予定していたイベントは、企画さえ叶わなかったし、エージェントがメディア機会をたくさん作ってくれたが、どうにも噛み合わず拡散しない。接客の予約数も、感染症への不安から減る一方だった。

華々しい成功はお前には不相応なのだと、この世の管理者が嘲笑っているような気がしていた。世の中にはどうしてか、スッと階段を駆け上がらせてもらえる人と、上っては足元を崩されてを繰り返す人が居るらしい。

「この泥臭さは、見届けねば。夢を掴むまで心折れずにどうやって継続するのか、この人についていったら何かわかるかもしれない」

これが、作品だけでなく行動や言葉にも興味を持つスタイルの応援がじぶんの中で始まった瞬間だった。
その後のわたしは、ソロ活動を始めた葉月さんのHAZUKI名義を中心に追っている。

月額制のファンクラブに所属し、
日記を読んだり、オフショットを楽しんだり、お料理動画を見たり、配信を待機したりと、ファンらしくコンテンツを楽しんでいるが、
一番の変化は
本人の考えを聞いたりファンとしての意見を伝えたい」と感じたことだった。

たとえば、日記や配信はコメント機能がついており、本人がそれを読み上げて答えてくれることがある。
作品作りについての考えや、歌い方の調整について、活動方針をどう立てているかや、ライブ・グッズ制作の裏話まで、質問が拾われれば直接本人の言葉で聞くことができる。
しかも、ファンからの言葉を読んだ上でそれらが検討され、進んでいく。
それがたまらなく新鮮で、面白かった。

でもこれは、「推しに作用する自分」を引き受けてるからこそ、面白く思えることなのだろうとも思う。(この辺の話は、後の方で詳しく書きたい)

ライブへの想いも熱く・厚く語られるから、都合の許す範囲で行ける公演には足を運ぼうという気持ちにもさせられ、東京公演にしか参戦しないバクホンとは違って、近県のライブにも足を伸ばすようになった。

ちなみに lynch. は2022年11月23日(祝日!)に無事に初武道館を終えた。にわかファンながらわたしも端の方で感動の瞬間に立ち会い、
「祝日の良いお日柄になるまで待つことが運命だったのかな」
なんて思いながら感極まるメンバーを眺め、わたしはソロ活動の応援に集中することにした。


命の恩人なのに課金できない

さて、ここからは避けては通れないおカネの話。
音楽アーティストの応援はアイドル現場ほどではないにせよ、コミット度合いでかかる額が変わってくる。

バクホンでの課金タイミングは以下の通り。
・ライブチケット(¥6,000~)
・ライブグッズ(¥2,000~)
・新譜 限定盤(~¥7,200)
・関連作品(書籍、アートワーク図録など)
・ファンクラブ会員費(¥5,500/年)
※ ライブ参戦は原則 東京ワンマン公演のみ
※ 新譜は1~2年に1~3枚ペース、
購入基準は原則アルバムか映像付きのみ

これだけなら、特に財布を圧迫することもなかった。
コロナ前まではライブ料金も¥5,000以内だったし、お金が無くてもCDの時代では貸し借りも含めて文化だったから、お金の使い方も調整しやすかったように思う。

一方でHAZUKI の方は、これの比較にならない金額が出ていきやすい。
HAZUKI を推している理由は上に書いたように、本人の行動・言葉・考えなどに興味とヒントがありそうだからだ。
当然、多くの機会に参加していた方が、より多くの情報に触れることができる。

さらに楽曲作品の特典でサイン会が抱き合わせになることもあり、ライブ以外で本人と直接の関わりを持てる機会がバクホンと比較して格段に多いし、先に挙げたようなコンテンツを通したやり取りには月額課金が欠かせない。

ライブ本数を検討したり、グッズ購入を控えるなどしてなんとかやりくりをする中で、ついにその日はやってきた。

バクホン 山田将司が、ファンコミュニティを立ち上げた。月額 ¥1,000。

考えた。
バクホンのファンクラブにはチケット先行のメリットがあるから既に入っている。
そちらでまともに発信活動はされてこなかったし、追加で加入して何が得られるのかピンと来なかった。

しかし、新しい活動を始めたり、歌い方が変わった今の考えを知りたい気持ちはあった。
わたしの命を延ばした人に、何よりも救われてきた音楽の源泉に、触れなくていいのか?
と何回も問うた。

結果、課金しなかった。
HAZUKI のライブと、受注生産盤の支払いがあることが見えていたからだった。

さらに天秤にかける日々は続いた。
バクホンは今年25周年で、わたしは応援し始めて20年。
節目の年に決まったライブツアーはどれも東京冷遇と言ってもいいような様相だった。
キャパが明らかに小さくてチケットが争奪戦になっていたり、ファイナルを見越して最初から東京が含まれていなかったりした。

「え、潮時かな」

と感じたじぶんに焦った。
けど、バクホンが「じぶんの物語」から外れたということでもあるのかもしれない。

もうバクホンに救われる段階ではなくて、
勢いを持ってファンを連れて大きな舞台を目指して進んでいくHAZUKI が、今のじぶんには合っているってだけなのかもしれない。

25周年記念の円盤は、まだ申し込みをしていない。今の状態ではなんとなく買う気になれなかった。


月額 550円の価値

こんな感じで「応援する側」をやっているわたしの中では、バクホンとHAZUKI それぞれの位置付け方には違いがあるわけだけど、
この感覚って「応援される側」の橘みつ自身の活動方針を考える上でも重要なんじゃないかと思っている。

2023年末で長年経営してきた対話型レズ風俗リリーヴを閉店することを決めたので、最近は今後の活動の軸を考えている。
実はこの推し活についての記事を書こうと思ったのは、
今とっている「活動ご意見アンケート」の文章に切実なメッセージが届いているからだったりする。

アンケート結果を見てみると、ここまで書いてきた以上に多様な「推し方」の期待があった。

たとえば、「課金制コミュニティは月額いくらなら入会したいと思えますか」という質問は、
〜¥500まで 25%
¥700〜¥1,000まで 25%
興味はあるが課金は厳しい 25%
課金コンテンツは不要* 25%
という結果を得た(2% ほどの誤差はある)
* 顧客アンケートではなく、橘みつを知る全ての人たちへSNS上で呼びかけた

特に興味深かったのは、課金コンテンツに期待する内容についての意見欄だ。これは一例だけど、

・全体向けに記事の公開等をしてくれるなら課金したいが、本人や参加者との交流を促進するような内容なら不要

という意見もあれば、

・積極的に交流の機会を作ってもらえるならぜひ課金したい

という意見もあり、価値の感じ方は人それぞれであることが改めてはっきりと見えた。
特に前者は、わたしで言うところの「バクホン的な推し方」に近いような気がしている。
橘みつから発信されたものを、その人がその人の文脈に当てはめて理解していくようなスタイルの楽しみ方を求めているのだろう。

さらに、意見の中には
推しを金銭面で支えられない自分に傷つくから、他の人の課金状況がわからないほうがいい」
「課金すると推す責任が発生するようでしんどい」
「課金したコンテンツは一方的に有り難がらせてもらえるもの(≒推しからのレスポンスが無いもの)が助かるが、感想は送りたい」
という回答* もあった。

これはHAZUKI の推し方に新鮮な面白さを感じているわたしとは逆で、「自分が推しに作用しない気楽さが重要」ということのようだった。
* 意見は全て要約しています

言うまでもないことだけど
もともと橘みつに会いに来る人はそれぞれ理由が異なっていて、
その多様な要望に対して個別に・具体的に対応してきた(はず)。

だからこそ、上のようにいろんな考えや要望を持った人が回答してくれ、時には真逆の要望が存在するような結果にもなっている。

この多様性はすごく嬉しい。
その人が率直に要望を教えてくれたことも、
じぶんの今までしてきたことがきっと間違ってなかったのだなぁと思えることにも、
ありがたい気持ちしかない。

一方で、こんなに多様なわけだから
どんな人も課金に納得大満足◎という月額コンテンツは作れないことは、やる前から確定してる。
それは先に伝えないとなぁとは思ってて、
正直なところ、だからこの記事を書いた。

まず考えなきゃならないのは、月額課金になった途端に発生する
「550円で何してくれんの?」
というシビアな目線である。

つまり
世の中一般の大手アーティストが月額でやってるコンテンツと同じ土俵で比較されてしまう
とか
550円分の他の使い道と天秤にかけられてしまう
ということだった。

下手すると、
120分 ¥33,000 よりも月額 ¥550 の方がずっと見られ方はシビアかもしれないと感じてる。

当然わたしは芸能系でもなく事務所にも所属しておらず、専属で担当してくれるスタッフも居ないので、圧倒的に人手と時間が足りない。

それに、
登録者の母数が少ない=コンテンツに再投資するお金も少ない
ってことも忘れてはいけない。

提供できるコンテンツはプロのソレと比較したら寂しいものにはなるだろう。

価格設定については、
ファンコンテンツを提供するシステムの利用料20〜30% が差し引かれることを考えると
550円は最低金額設定と言ってもいい。

しかし安いからハードルが下がるというものでもなく、しんどかった日のご褒美代や、足りなくなった通信量の課金や、他のサブスクとコスパを比較されるのが550円/月 でやる厳しさなのだと思う。

こうなってくると、月額課金はどんな人向けのコンテンツにすべきか明らかになってくる。

…と、今後についてこのまま続けたいところだけど、長くなってきたので今回はここまで!
どういう活動軸にするかは、もう少しアンケート結果を絡めつつ、また別の機会にまとめさせてほしい。
興味のある人は続きもまた読んでね!

「橘みつ」今後の活動についてのアンケート
次回のnote 執筆と今後の参考にさせていただきます。ぜひお力をお貸しください!
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