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自分の心に正直に生きる"キャロル"

6年ほど前に放映された、同性愛を描く映画を見た。その2人の真っ直ぐさに、心を奪われてしまった。

この映画は、ケイトブランシェット演じる夫との関係に冷め娘を持つキャロルと、ルーニーマーラ演じるデパートで働く恋人のリチャードがいるテレーズが、デパートの売り場で運命的な出会いをし、2人の関係性について描いた恋愛映画だ。

映画の舞台である1950年代のアメリカでは法律で同性愛は禁じられていた。そして自然に2人惹かれ合うほどに、夫と離婚協議中のキャロルの立場は悪くなっていく。キャロルはテレーズの元を離れるが、自分と向き合った上でとった行動、テレーズとの再会とラストシーンだ。

終始私が心を奪われたのは、ケイトブランシェットの所作であり、ルーニーマーラの所作であり、2人の関係性、ファッション、音楽、街並みの全てだ。そして自分を知り、自分がどうすべきかを選択していく姿があまりに美しく、自分も考えさせられる、そんな映画だ。

特に心を打つこの映画のポイントは、

1.ケイト・ブランシェットが映画を通じて伝えたいメッセージ

彼女はこの映画でプロデューサーも務めた。脚本は6,7年前から知っていたという。そもそも原作は映画が作られるより60数年前に発表されたパトリシア・ハイスミスの「the price of solt」という小説だ。女性2人が主役という設定の映画になかなか資金が集まらなかったそうだ。監督はトッドヘインズ、自身も同性愛者であるが、内面的な心の揺れ動きが彼によって美しく描かれている。そして男女格差の是正を訴えるケイトブランシェットは、この映画を通じて、女性同士が惹かれ合うことも、主役が女性2人であることも特別なことでなく、その思いが真実か、表現されたもののクオリティがどうかを世に問うている。また自分に正直に生きることの大切さを訴えている。映画の中で"But what use am I to her..to us,if I'm living against my own grain?"「自分の心に従わなければ人生は無意味よ」と言う。役の彼女はもちろん、ケイトブランシェットの生き様にも通ずるものがあり、そのカッコよさに誰もがひれ伏してしまう。

2.2人に生まれる儚い愛情とリンクする情景描写

1950年代のニューヨーク、キャロルが娘のクリスマスプレゼントを買いにデパートを訪れ、店員であるテレーズに出会う。その後2人がランチをするレストラン、ニュージャージー州にあるキャロルの家に向かう車内から見える景色、2人が旅先で宿泊するモーテル。景色全体がグレー味がかっていてどこか儚い。これは2人が惹かれ合いながらも、家族との関係性に思い悩むキャロル、自分の意思をはっきりさせられないテレーズの脆さや先行きの見えない2人の心情がその情景により、さらに色濃く映し出される。

3.テレーズ(ルーニーマーラ)の視線の変化が凄まじい

ケイトブランシェットが美しいことは言うまでもないが、テレーズを演じるルーニーマーラがまたすごい。最初デパートで会ったシーンでは、大勢の客の中でキャロルを見つけ釘づけになる。その後、突発的にキャロルの誘いに乗り続けながらも、少しずつ自分の意思を表現する場面でははにかんだりする。しかしながら、キャロルに振り回されて距離を置き、再会する場面では、自分の気持ちも整理出来ずキャロルの言葉に対して鋭い姿勢を向ける。自分の人生も決められず、キャロルに誘われるがままに行った旅の序盤のキョトンとした表情から、キャロルと別れテレーズ自身が徐々に成長し、後半は意思を持った目つきになっている。そして最後はキャロルではなくテレーズ自身が自分で行動を起こす。

全てが見どころだが、強く美しいキャロルがテレーズを誘う、何度か発せられる"would you?"が、テレーズが応えてくれるか不安な心情も含ませた言い方が何とも絶妙だ。

同性愛に限らず、惹かれる人やことが有ればそれに向かって真っ直ぐ進みたいな、この映画を見て思う。

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