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ユーモアと探究心に触れる"東京TDC展 ギンザ・グラフィック・ギャラリー"

グラフィックは建築やアートと比べて、展示会で見る機会がこれまであまりなかった。
仕事でグラフィックデザインに触れる機会が増えたこともあり、少し気になっていた。グラフィックは建築よりも制約は少ないが、一定の情報量を伝えなくてはいけないという点でアートとも異なる。日常にグラフィックが溢れているが故にその中で、ふと惹きつけられるものがあったりする。何がそうさせるのか、埋もれてしまうその他大勢と何が違うのか、また世に認められるグラフィックとはどんなものか。


そのヒントを探るため、東京タイプディレクターズクラブが主催する文字の視覚表現を軸としたグラフィックデザインの国際賞である、「東京TDC賞」の受賞展へ足を運んだ。
一つ一つの作品が興味深かったが、特にピッと自分のセンサーが働いた3つの作品を紹介する。

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1.プロダクトとグラフィックの連動"KIKOF"

グラフィックからブランディングまで器用にこなす"KIGIキギ"が手がけるプロダクトブランド「KIKOF」。滋賀県の職人たちが集まる組織「マザーレイクプロダクツ」と共に立ち上げられた。第一弾となる陶器のプロダクトは、厚みが抑えられ多角形をモチーフとした食器やカトラリー。多角形を構成する一部にアクセントカラーが用いられている。そのアクセント部分がパッケージにも起用されている。KIKOFのロゴデザインも含めてプロダクトとの一貫性が感じられる。


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2.音楽の視覚化に共感"レクイエムの映像インスタレーション"

音楽の構造や音の質感をアニメーションで表現する大西景太氏。私が彼を初めて知ったのは名曲アルバム+で登場したパッヘルベルのカノンの映像インスタレーション。ヴァイオリンの演奏を知り合いがしていたことからステイホーム期間中ずっとハマっていた。バッハが多用してことで知られるポリフォニー(多声音楽)の様式は音楽で聴くと次々と旋律が異なる高さで奏でられ、その重なりが美しいハーモニーを生み出す。
今回東京TDC賞でグランプリを受賞した彼の作品はマヌエル・カルドーゾの合唱曲「レクイエム」の映像化である。レクイエムは多くの作曲家が作曲しているが、この映像にあるkyrieは歌詞がざっくり言うと「キリエエレイソン、クリステエレイソン」だ。それをひたすら4声でスタート地点の異なるリレーのように次々とメロディを走らせる。油断すると自分のパートの出番を見失ってしまう。その為、こうやって視覚化してもらえるのはありがたい。さらに「エレイソン」の歌詞を伸ばして歌う場合、大抵合唱団では「イ」を入れるタイミングがバラバラになる。楽譜にこの映像があればタイミングを合わせられるだろう。話が逸れてしまったが、合唱曲の視覚化は映像として楽しいだけでなく実用性が高いのでないかと思う。


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3.集合体がもらたすデザイン"徒箱"

私は細かいデザインの集合体が好きだ。デザインする側の終わりのない探究心を見ることができる。徒箱はグラフィックデザイナー佐藤豊氏の作品でマッチ箱に手書きのデザインが描かれていて、箱の中には日記のような、つぶやきのような、意味がないようなあるような不思議な文章が綴られてる。マッチ箱のデザインは場末のスナックにあるようなレトロな感じのものからポップなもの、抽象的なデザインまである。気付くと手が動いてしまうのだろうとデザイナーのデザインへの想いを推測してしまう。

グラフィックデザインは単に文字情報を伝える手段だけでなく、それをいかにユーモアを持って見る側にストーリーやそこに流れる時間を想像させるかが大切なのではないかと思った。

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