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指先のお喋り"上原ひろみ×矢野顕子 SAVE LIVE MUSIC FINAL"

いつか行きたい、はいつになっても行かないのと同じ。
ついに先日、いつか行きたいを叶えてしまった。

上原ひろみのライヴ、しかも矢野顕子との2台ピアノ。
さらに後半は弦とのピアノ・クインテット。

上原ひろみは6歳からピアノをヤマハ音楽教室で学ぶ。10代でNHKの「ピアノで名曲を」という番組の生徒役で出演。当時の教本が実家にあるが、初々しい頃の彼女の様子が載っている。17歳にチック・コリアとの共演も果たしている。
その後日本の大学を中退し、バークリー音楽院に進学。2003年の世界デビュー後の活躍は言うまでもない。
そんな彼女が2020年からコロナ禍で苦境に立ったライブ業界の救済を目的にブルーノート東京でスタートさせたのが「SAVE LIVE MUSIC」シリーズだ。
今回はそのシリーズのFINALとして、大阪や名古屋、国際フォーラムを周り、ブルーノート東京がラストとなるツアーだった。

5000人入る国際フォーラムは12月にも関わらずほぼ満席。
会場では、ビックコミックの連載だった「BLUE GIANT」が2月から映画上映されることとなり、彼女が音楽と劇中演奏を手掛けることから、所々にその名前が見られた。

会場の様子

もはやライブ界を背負って立つような存在となった、上原ひろみ。自身だけでなく、未来の有望な演奏家たちが、活動できる場を残し続けなければならない、という彼女の真面目で強い信念が演奏から滲み出ていた。

今回のSAVE THE MUSICでのトピックスを紹介したい。

1.緻密でエモーショナル


彼女のライブを観に来る人たちはやはりその日のその時にしか聴けないアドリブを楽しみにしている。そしてそのアドリブは、彼女の音楽人生の幅や経験値、努力によるところが大きい。どんな速さでも、大きさや音域も関係なくクリアな音で迷いがない。流れに緩急があり、コード進行の中での遊びは緻密で迷いがない。
それでいてエモーショナルで心揺さぶられる音楽となっているのは、彼女の音楽へ対する信念や内なる思いが音に宿っているからだろう。
そして彼女はドリカムやレキシなどアーティストとのコラボレーションもあり、「オシャレキシ」は国内のフェスで見たりもできる。私はこの「オシャレキシ」が大好きで、この日もアドリブの中にレキシの曲と思われる一部が使われていた。
そんなアドリブに忍ばせた曲探しをするのも楽しい。

2.2人の指先のお喋りが止まらない

矢野顕子×上原ひろみ

高校時代は友達といつまでもお喋りをする事ができた。ネタは次から次へと変わり、ちょっとした身の回りの出来事にケタケタ笑うことができた。
2人の演奏を聴くとそんな終わりのないお喋りを思い出した。会話をするように2台のピアノが呼応する。
そしてそこには矢野顕子の独創的な歌声が響く。「ラーメン食べたい」というセリフをあんなにキュートに自然に音楽性を持って歌う人がいるだろうか。
さらにラーメン食べたい、をオシャレにアレンジする上原ひろみ。
何て最強な二人なんだろう。
二人のお喋りのような音楽をいつまでも聴いていたかった。

3.引き出されるアドリブの嵐

クインテット

2部はピアノと弦楽四重奏。クインテットのメンバーはいずれも交響楽団の首席奏者を務める実力者たち。チェリストの向井航氏は関西フィルの特別首席奏者であり、自ら日本最重量チェリストと名乗る、クマさんのような大柄な人だ。
その風貌から予想されるダイナミックな音や低音の響きと、繊細なピッチカートや細かい弓の動きまでチェロ からあらゆる音が出てくるのがとにかく凄い。
第1ヴァイオリンもこれまたいつ終わるんだろうかというアドリブが、第2ヴァイオリン、ヴィオラへと連鎖していく。
思ったのは、元々実力がある人たちだがここまでの弦でのアドリブは、やはり上原ひろみによって引き出されているんだということ。
彼女のピアノを起点に4つの弦が伸び伸びとアドリブを楽しんでいるように見えた。


国際フォーラムホールAからの眺め

スマホやCDでなく、ライブに行きたいと思わせるのが彼女の音楽だ。
ライブ後に次こそはブルーノート東京で聴きたいと心に誓った。

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