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ユー・メイ・ドリーム~2023.7.15『中嶋勝彦vs宮原健斗』~


はじめに

試合が決した瞬間、私は思わず会場で快哉を叫んでしまった。


2023.7.15プロレスリング・ノア後楽園ホール大会で組まれた『中嶋勝彦vs宮原健斗』。

佐々木健介の愛弟子である2人は、健介オフィス退団後、宮原は全日本プロレス、中嶋はプロレスリング・ノアを主戦場に活躍。
その後、因縁がありながらも絡みの無かった両者が再び交わったのは、武藤敬司引退興行の行われた2023.2.21だった。


あれから約5ヶ月後に決まった、実に10年振りという両者のシングルマッチ。
しかし、決定したのは会場スクリーンでも記者会見でもなく、6.17名古屋国際会議場大会でのバックステージコメントだった。


かつて中嶋が在籍していたユニット・『金剛』の拳王&征矢学が全日本プロレスの世界タッグ王座から陥落した際の振る舞い(拳王自主興行宣伝)を批判した上で、自ら面白い仕掛けとして発表したのが、今回の『中嶋vs宮原』が組まれた経緯だった。

その場にいた記者ですら「何故そんな急に…」と困惑するほど、因縁があるにもかかわらず唐突に決まったカードではあったものの、カードが正式決定するや否や、数日後には全席完売が発表。
急遽設けられた立見席も早々に完売する様は、私がプロレスリング・ノアを本格的に見始めた2019年以降に限っても本当に久しぶりの事だったように思う。
(2020.1.4後楽園ホール大会・1,539人)


戦前のABEMA公式Twitterで行われた勝者予想投票では、ノア主催の興行にもかかわらず、全日本プロレス所属の宮原健斗が54.1%の票を集める異例の展開。


禁断の対決が、一夜の夢として幕を開けたのだった…。


最高にして至上の夢

超満員の後楽園ホールが地鳴りのように沸き立つメインイベント。

個人的には、2019.8.24に大日本プロレスで行われた『関本大介vsマイケル・エルガン』を思い起こさせる盛り上がりだった。
普段の興行とは明らかに違う、奥底から地鳴りを上げるような歓声とテンションの高さ。


メインの煽りVTRを終えた直後の宮原健斗による入場シーンで、そのテンションの高鳴りに圧倒された。
プロレスリング・ノア主催興行にも関わらず、アウェーの地に乗り込んだ宮原に対して大ケントコールが巻き起こったのである。


そのケントコールは、試合が終わる瞬間まで途切れる気配すらなかった。

戦前、ノアの会場でケントコールをするよう堂々と会場のファンに向けて指示していた宮原だったが、その指示が杞憂に終わるほどの圧倒的な声援。


試合が始まって私も勝彦コールを叫んだものの、たちまちケントコールにかき消されてしまった。
完全に宮原がノアの会場をホームジャックしていたのである。


合同興行でもない場所で、単身アウェーに乗り込んで磁場を形成してしまう姿に、宮原健斗の凄みを改めて思い知らされた。

昨今は実力だけでなく、SNS等による選手個人の発信力も求められる時代になった。
しかし、どれだけ発信力に優れている選手であっても、単騎でホームジャックに成功できる選手なんて、きっと少ないだろう。その高難易度ミッションを難無く達成してしまう宮原は、全日本プロレスにとって替えの効かない財産だ。


私は、健介オフィス時代の中嶋勝彦も宮原健斗も、見ていないし知らない。
それでも、この一戦の一挙手一投足に会場中が注目し、声援を浴びせる様に、今大会のタイトルにも用いられた『OneNightDream』を感じずにはいられなかった。


エルボー合戦からの終盤は、宮原がシャットダウンスープレックスホールドの体勢で勝負を決めにかかるも、これは中嶋も寸前で回避。


この試合、中嶋の張り手と四つん這い状態の相手に放つキック(通称:ぶった斬りキック)を見ていなかった為、まだこれ無しには終われないと思いながら見ていた。
しかし、宮原のフィニッシャーを回避した直後にこの2つが決まった瞬間、中嶋が戦況を引っくりかえした事を確信したのであった。


最後はバーティカル・スパイクが決まると、宮原も立ち上がれず勝負あり。

中嶋が現世界タッグ王者・宮原を下す衝撃的な結末に、どよめく会場。
しかし、その結末以上に衝撃的だったのは、試合後の様子である。


倒れている宮原を起き上がらせた中嶋であったが、宮原は中嶋を突き飛ばすと、双方激しいエルボー合戦へと移行。


今回記事を書くにあたって試合中に撮った写真を選定していたのだが、試合後のエルボー合戦で撮った写真の躍動感は、思わず試合中の出来事であったと勘違いしてしまうほどの説得力があった。


このシーンを見て、私はある種の確信めいたことを感じたのである。

「この2人のバトルは、まだ終わりじゃないのだ」と。


まとめ

中嶋「健斗と今夜こうやって久しぶりに会話が出来たってことは、これから、もしかしたらあるかもしれない。でも、もうワンナイトドリームで今日、今夜限りかもしれない。それは分からない。でも、こうやって来てくれたファンの皆、見てくれたファンの皆、プロレスは何が起こるか分からないぜ!」


試合後、中嶋が言い放ったマイクには、『OneNightDream』に留まらぬプロレスファンの夢を感じさせてくれる思いが詰まっていた。


個人的には、中嶋が宮原に対して言った 「俺は譲れねえよ」というマイクも、かつて中嶋が決め台詞にしていた「俺は止まらねえ」に通じる部分も(勝手に)感じたり…。


中嶋「プロレスは何が起こるか分からないから、楽しいよな。俺も、見届けてくれたファンと一緒に、その何が起こるか分からないその時を楽しみにしているよ」


今回時間無制限で行われた完全決着戦も、今日限りで終わりという雰囲気が無かったのは、ネクストに向けた言葉が当事者の口から発せられたことも大きいだろう。

この一戦がまた何処かで実現してくれるかなんて今は分からないし、正直、暫くは余韻に浸りたいので見たくないという思いも個人的にはある。

でも、そんな夢を見せてくれた中嶋と宮原の素晴らしさに、もう言葉は要らないのだと私は思う。
そして、プロレスファンが望めば夢が叶う可能性を見せてくれた当事者とプロレスに、改めて私は限りない希望を抱いた。
そんな1日になりました。

ありがとうございました!!


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