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Still Changing~2024.1.21『Good Looking Guys vs 清宮軍』~



はじめに

2024.1.2、東京・有明アリーナ


メインイベントの『丸藤正道vs飯伏幸太』が終わり、どこか重苦しく淀んだ空気が場内に立ち込める中、リング上に現れたのはジェイク・リーと清宮海斗だった。


「どれも素晴らしい試合だった。最後、メインを飾った2人には拍手を送りたい、なんて、どうだ、この野郎!。あんなウルトラヘビーみたいなリズムで試合やりやがって、このリズムで試合をやっていいのは、こういう俺みたいなデカイやつなんだよ。あんなウルトラヘビーみたいなリズムで試合やりやがって」


怒気を孕んだジェイクの声が場内に響き渡った瞬間、会場は大歓声に包まれる。

その歓声は「よくぞ指摘してくれた」という、観衆からのジェイクに対する敬意を感じ取れるものだった。


続く清宮もジェイクからバトンを受ける形でマイクを握ると、有明アリーナにはメイン前までのような歓声が戻っていた。


ノアを旗揚げ当初から支えてきた丸藤正道や現代プロレス界を牽引してきた飯伏幸太と、次代を担うジェイクや清宮が入れ替わっていく光景。
メインイベントで起こった【想定外】な結末は、時として、どんな世代交代劇よりも残酷な事実を提示するのだと私は思い知った…。



メインイベントが賛否まとめて話題を持っていった、有明アリーナ大会から11日後…。

2024.1.13プロレスリング・ノア後楽園ホール大会では、有明のメイン後に興行を締めたジェイクと清宮がリング上で対峙した。


リング上に清宮を呼びつけたジェイクの声は、メインイベントが終わったばかりの有明以上に怒気を孕むものとなった。

「清宮! オマエに一言物申す! 有明(1.2有明アリーナ)、あれだけ俺が素敵なバトンを渡したのに、なんだあのマイクは!」

「清宮海斗、認めるよ。オマエは素晴らしいレスラーだ。センスの塊だと思うよ。でも試合内容もその顔も、綺麗にまとまり過ぎなんだよ!オマエは何を伝えたい?オマエの生の感情をここにいる人たちは期待しているんだよ!
改めてオマエの口から、今なぜここでプロレスをやっているのか言え!」


有明ビッグマッチ同様にジェイクからマイクを渡された清宮の言葉も、有明の時とは比べ物にならないくらいの激しい感情が露わになっていた。

「俺のやることはノアを広めることだ。俺にとっての一番はこのノアなんだよ! もっともっとノアを広げていくためにこの中心に立つ! ジェイク・リー! オマエにも負けたままで終われねぇんだよ!」


この清宮のマイクを受けて、ジェイクが提案したのは『Good Looking Guys(以下:G.L.G.) vs清宮軍』の12人タッグマッチ。
1試合に詰め込むのも憚られそうなほどの豪華布陣による多人数タッグマッチは、60分3本勝負で実現することになった。


2024.1.17新宿FACE大会では、八王子での12人タッグマッチを数日後に控える状況で、清宮海斗が更なる感情を爆発させた。

「GLG。何がGLGだ、おい。てめえら、ホントにやってやるよ。ぶっ潰してやる、このヤロー!何がグッドルッキングだ?俺たちの方がグッドルッキングだろう?俺たちの方がカッコいいだろ?21日、八王子でぶっ潰す!」


「オマエの生の感情をここにいる人たちは期待している」

ジェイクの言葉が真であることを証明するかのように、普段見られなかった清宮のエゴイスティックな面がSNSやコメントで曝け出されたことにより、いつしか八王子大会のメインに期待を膨らませる私がいた。


かくして私は、たま未来メッセまで当日券チャレンジを試みることを決意した。

現地でライブ配信が行われないと発表されていた大会だったり(後にセミ・メインのみYouTubeライブ配信)、参戦選手全員からサインが貰えるノアの『大サイン会』が(恐らく)関東圏内初上陸だったりしたことも個人的には大きかった。

しかし何よりも、現在GHCタイトルを保持していない清宮とジェイクが、有明ビッグマッチ~2.4仙台ビッグマッチの間に対抗戦という形でテーマを紡ぐ様を自分の目で確かめてみたくなったのである…。


『ジェイク・リー&ジャック・モリス&アンソニー・グリーン&LJ・クリアリー&YO-HEY&タダスケvs清宮海斗&征矢学&マサ北宮&稲葉大樹&近藤修司&宮脇純太』

2024.1.21たま未来メッセ。


メインイベントで実現した『G.L.G. vs 清宮軍』の全面対抗戦は、両陣営のファンによる歓声で瞬く間に凄まじい盛り上がりを見せる事になった。


戦前から火花を散らしていたジェイク・リーと清宮も、場外乱闘までもつれる程のバトルを展開。
会場中の熱気と歓声が、より一層激しさを増していった。


戦前、清宮がジェイク・リーからの直接勝利を宣言していた3本勝負は、1本目を清宮、2本目をジェイクがそれぞれ制して、1-1で3本目に突入する。


最終の3本目は、2024.1.28エディオンアリーナ大阪第2競技場大会で行われるGHC Jrタッグ王座前哨戦の様相を見せつつ、12選手が代わる代わる活躍していくアップテンポな展開に。

多人数タッグマッチだと、得てして人数の増加に従って1人辺りの出番は限られがちだ。
しかし、この日はそんな懸念を感じさせないほどの試合が展開されたこともあり、いつしか周囲の盛り上がりに引っ張られていく私がいた。

 


そんな熱気渦巻く3本勝負に決着をつけたのは、ジェイクでも清宮でもなく、現GHC Jrタッグ王者のYO-HEYだった。
タッグパートナーであるタダスケとの好連携で強敵・近藤修司を退けた1勝は、『G.L.G.』の総合力の高さを象徴していた。


試合後にジェイクが握るマイクから溢れ出ていたのは、年始の有明や後楽園で発したような怒気や、普段の冷静沈着さを伴う口調ではない。
「俺すげぇ嬉しい!」と普段の冷静な口調を捨てて爆発させた、喜びの感情そのものであった。


前年秋にGHCヘビー級王座から陥落して以降、『G.L.G.』の活動に重きを置いていた感もあるジェイク・リーが、ハッキリとGHCヘビー級王座奪取を宣言したのも、個人的には非常に嬉しい出来事だった(後述)。

『G.L.G.』が制した八王子大会メインの3本勝負は、有明でジェイクが誓った「再び舵を取る」という決意表明を、改めて明確にする一戦だったと私は思う。


まとめ

年始の有明ビッグマッチで行われた『丸藤正道vs飯伏幸太』は、見た者に深く考えさせられるような試合内容で終わった。

ファンの端くれとしては、次の大会(1.13後楽園ホール)まで批判が続く状況は流石にしんどいと感じたこともある。


ただ、今ならば「有明のメインも悪くなかった」と、ほんの少しだけ思えるかもしれない。

私がそのように感じたのは、有明以降に行われたノアの主要大会において、現世代が活躍を見せる空間と会場内の明るい雰囲気が、有明メインの深い傷を癒し絶望感を(幾分か)払底してくれた事に他ならない。


プロレス界などで数多く訪れる、どんな世代交代劇よりも残酷で、観る者に悲劇的な現実を突きつけた『丸藤正道vs飯伏幸太』。


現世代に対する圧倒的支持率と、ノアのファン層の変化を浮き彫りにした『拳王vs潮崎豪』。


そして、たま未来メッセ大会のメインイベントが生んだ、現世代による熾烈な対抗戦と、それによって観衆が生み出す盛り上がりの数々…。


三沢光晴や小橋建太といった、ノアの象徴的世代とは縁遠く出自も違う12選手それぞれが今のノアを盛り上げていき、それに観衆も呼応していく関係性は、(コロナ5類もあって)2023年辺りからノアの会場で積極的に聞こえる声援や、客席のポジティブな雰囲気と決して無関係ではないように思う。


今回の6vs6全面対抗戦が決まった際、バルコニーから様子を眺めていた有明のメインイベンター・丸藤正道ではなく、有明大会のGHCヘビー級王座戦で素晴らしい試合を見せた征矢学が指名された事も、ノアにとっては非常に大きな一歩だった。


八王子大会の3本勝負は、ベテランの丸藤を起用して再起を図る道も、清宮の正パートナーである大岩陵平を起用して盛り上げる方向性に舵を切ることも出来たと思う。

だが、有明のタイトルマッチを盛り上げた征矢が対抗戦に入った事で、有明で生まれた征矢に対する高評価と、勢いを止めない団体の姿勢、何より「インパクトを残した選手が積極的に起用される」健全さを私自身強く感じたのだ。
その点でも、先々に繋がる意義深い一戦だったと思う。


そして何より私が一番嬉しかったのは、ジェイクがもう一度GHCヘビー級王座を目指すと宣言した事だ。


ジェイク・リーがNOAHに参戦した2023年初頭、全日本プロレス退団時に述べていた帰化申請及び海外マット挑戦の意向や、「俺はいつ、いなくなるか分からないよ」と語ったインタビュー記事などから、同年春にGHCヘビー級王座戴冠を果たしてからも「ノアには長くいないのではないか」という思いを抱えながら、私はジェイクの試合や一挙手一投足を見つめていた節がある。


前年秋にGHCヘビー級王座から陥落した事で、「身軽になったジェイクがノアからフェイドアウトしてしまうのではないか」という不安も(勝手ながら)私の中に芽生えていた。

しかし、今回ジェイクが発したGHC奪取宣言は、今後のNOAHの展開を(良い意味で)読めないものにする吉報と言って差し支えない。
個人的には、「GHCヘビー級王座をかけて清宮海斗と対戦する」構図や「連敗を喫している拳王にリベンジを果たす」未来にも期待が膨らんでしまう。


最後に、有明のマイクで今回の3本勝負が組まれる遠因を産み出した清宮海斗について、個人的な感想を記したい。

ファンからの「清宮のマイクは上手くない」という意見や指摘は少なくないし、清宮が弁の立つタイプだとは私も正直思っていない。

その一方で、現在タッグベルトを保持しているDRAGON GATEでは、アウェイの地でも堂々たる態度で澱みないマイクアピールを披露している清宮もいる訳で、そんな姿を見てしまうと「清宮はマイクが下手」という指摘や風潮の全てに肯首出来ない私がいる。


清宮が後楽園でジェイクにぶつけた「俺のやることはノアを広めることだ。俺にとっての一番はこのノアなんだよ!」という発言にしても、学生や女性ファンを実際に会場まで引っ張るほどの人気を高めた清宮だからこそ、説得力や一貫性のある発言だと私は感じた。


私はこう思うのだ。

清宮は「マイクが下手」というよりも、「真っ直ぐな男」なのだ、と。

鈴木軍侵攻期の2015年末にデビューして、周囲から多くの期待をかけられていた清宮だが、もしも清宮が何でも出来てしまい弁も立ちまくるようなタイプだったら、普段物販に行かないタイプの私がサイン会に複数回も足を運ぶことは無かっただろう。


気がつかないうちに、清宮の持つ【どこか不器用でも、真っ直ぐな気持ちや姿勢】に惹かれ、救われている私がいたのだ。


敢えて言うなら、今回の対抗戦を前に飛び出した「俺たちの方がグッドルッキングガイだろ?」といった荒々しい言葉や、DRAGON GATEのリング上で放ったようなコメントが、清宮の口からもっともっと聞きたい。


たとえ拙くとも、勇気を持ってチャレンジする清宮の姿勢に、私は結構勇気づけられているのだから。

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