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女子高生とアイスクリーム

先日、日帰りの予定の仕事が翌日まで続くことになった。

寝場所を探すと、駅前のビジネスホテルが約4000円と案外低価格であった。宿泊費は会社持ちなので、夕食は宿から少し離れた高級レストランで贅沢をした。ワインを片手に、華やかな店内でリブステーキを口へと運ぶ時間は、出張中とは思えない優雅な気持ちにさせてくれる。食事は宿泊より高くついたが、十分満足できた。

帰りにコンビニに立ち寄った。会社帰りのくたびれた表情の男性や、既にかなり酔った様子の学生グループなど、多くの客で賑やかである。その中で、少し異なる空気を醸す女子高校生の服装が目についた。重そうに膨らんだバッグと細長いなぎなた袋を肩に掛けている。首には暗い緑色のマフラーをぐるぐると巻き、少し小さめのコートをしっかりと着込む様子は、全身に冬をまとっているかのようにさえ見えた。膝が少し見える丈のスカートから伸びる細い脚の、透き通るほどに真っ白な肌も、寒さで少し紅潮しているようだった。

彼女はアイスクリームのショーケースを覗き込んでいた。小さな折り畳み財布の中を見て悩んでいるようである。予算との相談か、カロリーとの相談か。彼女の背後をすり抜けて、私は割高なウイスキーの小瓶と炭酸水をレジに運んだ。一方の彼女が少し遅れて隣のレジ台の上に差し出したのは、小さな栗羊羹一つであった。ショーケースの前で確認していたのは、予算などという大層なものではなく、ましてカロリーでもなく、財布の中身そのものだったのだと悟った。

空虚感を覚えた。

ホテル代は「会社持ち」。レストランは「宿泊より高く」なっても満足。手元には「割高なウイスキーの小瓶」。――知らぬ間に身の丈を超えた贅沢が日常になってはいないか。高校生と社会人という差はあれ、それだけでは説明のつかない大きな隔たりがある気がしてならない。私に彼女の10倍の手持ちがあっても、アイスの10倍の価格に彼女のような逡巡が生じるとは思えないのである。表面的な幸せを求めて奢侈に流れるほどに、本来の幸せは遠のいていたのかもしれない。

私がホテルに戻ろうと横断歩道で信号待ちをしていると、彼女が追いついてきた。すっとした指先に引っ掛けるようにぶら下げた小さな白いレジ袋には、更に小さな羊羹が入っているのだろう。ふと、優しそうな眼差しをしている彼女と目が合った。ホテルに入るのがやけに気恥ずかしくなって、遠回りして帰ることにした。

(文字数:1000字)

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