見出し画像

2cmの悲劇と-4mの軌跡

大学時代に、ある高校を訪れた。高校時代の先輩が勤務していた学校である。主目的は、専攻していた法学の魅力を説明するというものだったが、その際に授業時間を2コマ頂いたので、1コマは法学からは少し外れた「授業」をすることにした。そこでは、学校というグループ社会で生活する彼らの自由な意見を聞くために、こんな質問を生徒に投げかけた。

――童話『おおきなかぶ』での最大の功労者は誰ですか。

昨日の夜、北京五輪のスキージャンプ混合団体の試合を観た。これは、男女各2名が国別チームとなり、総合得点を競う競技である。経過の詳細は報道などに譲るが、一人目の高梨沙羅選手は、104mを飛んでその時点での最長不倒。しかしながら、スーツ規定違反で失格となった。太もも周りが2cm大きかったためだったという。ドイツやオーストリアでも同じく失格者が出た。

10チームのうち上位8チームが2回目のジャンプに進むことができる中で、他チームが4人の得点の合計で競うところ、日本は3人の得点で戦って8位で進出。そして再び高梨選手である。明らかに泣いた後の顔にヘルメットをかぶり、果敢に98.5mを記録した。その直後にしゃがみこむ姿に、胸が締め付けられるような感覚に襲われた。その後、日本の各選手が高梨選手を慰めるように大ジャンプを成功させ、彼女に声を掛け、また抱き寄せた。その結果、2回目だけで見れば全体の2位で、総合順位でも3位と8ポイント(距離換算で4m)差の4位となった。

高梨選手の心の内を思えば、生半可に論評することなどできまい。私自身は、競技スポーツの目的は勝つことだと思っている。大会出場に際して「楽しんできます」と話すスポーツ選手の言葉には違和感を覚えるほどである。今回の日本チームが4位で満足しているとは思わない。

ただ、それはある一面のみからの視点である。今回の一部始終を通して、何事も起きずに順当に表彰台にのぼる様子を見るのとは異なる、深い感動を覚えた。失意の高梨選手を支え、サポートしたチームワークは、スポーツの最高到達点だと思うのである。競技の枠組みを超えた、スポーツが持つ普遍的な価値を改めて実感した。

そんな昨晩の競技を観ていながら、冒頭の『おおきなかぶ』の発問を思い出した。

かぶはなぜ抜けたのか。日本はなぜここまでに羽ばたいたのか。

2cmの悲劇は、-4mの軌跡を描いた。それは次回大会への航跡につながると信じている。

(文字数:1000字)

有効に使わせていただきます!