Amor Calamō Foltior
2024年も明けたばかりの1月4日に、私にこんなLINEメッセージが届いた。
差出人は、私が大学時代にアルバイトしていた塾の元生徒だった。名前を伏せておくのも読みにくいので、ここからはAちゃんと呼ぶことにする。もう学生生活を終えようとしている彼女に「ちゃん」付けというのは、そぐわないのかもしれないが、講師時代からの呼び方なので、どうか許されたい。
取り急ぎ、Aちゃんからのメッセージには承諾の旨を伝えた。当時の講師たちも誘う、と聞いていたのだが、最終的には「誰も都合がつかないようです」とのことで、私だけが残ってしまった。一人だけ暇を持て余しているようで、少しきまりが悪かった。
何はともあれ、2月7日の夜に9年ぶりの再会を果たした。中学校の制服でしか見覚えのない彼女は、大学生らしい落ち着いた雰囲気をまとって、随分大人びて見えた。予約していた駅前の焼肉屋さんで、東京スカイツリーの見える個室に入って目を輝かせたAちゃんの横顔は、しかしあの頃のままの面影を残していた。
Aちゃんはお酒が強いらしく、私と変わらないペースで順調にグラスを空にしていく。そのアルコールに後押しされるように、口数も増えていった。高校時代の恋愛、大学で法学を専攻した苦労、そして就職活動の様子などを、とても楽しそうに語ってくれる。
店に入ってから1時間半ほどが経ったところで、彼女がバッグから1本のボールペンを取り出した。
「これ、見覚えありませんか?」
よく見てみると、側面に私の名前がアルファベットで綴られている。私が失くしたと思っていたペンだった。
「すみません、ある日私が筆箱を忘れたときに、先生が貸してくれたまま、ずっと持っちゃってました」
そうだったのか、と私が笑うと、
「先生が塾を辞めた後も、これを先生だと思って、ずっと使ってたんです。もう、インクは何度も買い替えちゃいました。……これからも使いたいんですけど、やっぱり返した方がいいですよね」
もちろん、ペンはAちゃんに持っていてもらうことにした。ペンよりも温かい思いと、返してもらうことよりも重い温かさを、私は確かに受け取ったのだ。
立春を過ぎても冷たい街の風が、帰り道は少し柔らかに感じた。
(文字数:1000字)
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