見出し画像

ユピテルは空に

先月6日の大地震により、トルコ・シリアで甚大な被害が出ています。関係するすべての方に、心からお見舞い申し上げます。

* * *

先日、高校時代の後輩から、一通のLINEメッセージが届いた。彼は教諭として私立小学校に勤務している。

本人の許可を得て掲載

このメッセージだけでは分からないことも多かったため、何通かのやり取りをして、全体像をつかんだ。要約すると、以下のような経緯であったらしい。

――彼は、自分の担当するクラスで東日本大震災について話した。彼は私と同じく仙台で地震に遭っており、その実体験を交えて地震への備えを心がけるよう伝えたかったという。しかし、最後に質問を受け付けたところ、「地面がそんなに動くって、ちょっと楽しかったですか」「周りで死んだ人はいますか」などと、笑顔で聞く児童が複数人いて、教室では笑いが起きて、話にならなかった。――

率直に言って、私は悲しさや寂しさよりも、虚しさを覚えた。

地震体験車を”楽しむ”子供たちは全国で見られる。恥を忍んで言えば、幼い頃の私もその一人だった。仙台市で運用されていた地震体験車『ぐらら』(昨年3月に運用終了)に乗って、一つでも強い揺れを望み、机の下に隠れるのを楽しんでいた。今になってみれば、なんと愚かだったかと思う。

東北地方は、地震大国と言われる日本の中でも、大きな地震が頻発している地帯に数えられる。2011年3月以前にも、震度6クラスの地震は数年に一度の頻度で発生しており、私も何度も経験している。それでも、私にとっては地震の怖さは漠然としていた。

そのことが、とにかく虚しい。

体験しなければ分からない恐怖と失望と困難が、”本当の大地震”にはある。体験者の言葉をいくら集めても、当時の映像をどれほど目にしても、それが一つの出来事として客観的に捉えられる限りは、相手方には伝わらない。だからといって、地震を軽く見ている人に、そのような地震を経験してほしいとは思わないのも確かだ。

小学校教諭の彼の気持ちは痛いほど分かる。しかし、「仕方ない」という最も避けたい言葉以外に、結論が出てこない。体験者の私たちは、伝わらないことを前提に、伝えていく努力をしていくしかない。分かってもらえない虚しさは、かつて分からなかった私たち自身の空しい感受性の裏返しでもあるのだ。

12年が経つ。これは木星の公転周期と一致する。英語名Jupiter。ローマ神話の最高神の名から頂いた名称だ。道徳倫理を司るとも言われるJupiterに祈るとすれば、これだろうか。

――せめて、子供たちが死を笑いの題材にしなくなりますように。

(本文文字数:1000字)

有効に使わせていただきます!