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51.怒り

私にはふたつ年の離れた兄がいる。
これまでの記事で何度か兄が出演した回もあるが
お分かりの通り兄には阿呆な一面がある。

兄にはよく口喧嘩でボロボロにやられて泣いていたが、意外と遊んでくれた。
だが時々その遊びが、男の子の男の子による男の子のための遊びすぎて
私にはついていくのが精一杯なことがあった。
だけど兄が遊びいく時、「レナもついてくる?」と聞いてくると、
年上の遊びに参加できることがとても嬉しくて、「行く。」と返事するのだった。

近所の公園には、大きな貨物コンテナの様なものがあって、緑のフェンスからその上によじ登り、登った者から順番にジャンプして飛び降りるという、
なんともTHE男の子な遊びに参加した日のことはよく覚えている。

あの大きなコンテナによじ登ったはいいが、
上から地面を見下ろした時(おりれない…)と思った。
手はだんだん冷えて、変な汗をかき、最後には泣きそうだった。
でも一度下に飛び降りた兄が、またよじ登ってきて、
「れな見てて!怖くないから真似してご覧!」と励ましてきた。
私はもうほぼ泣いていた。
それはよーすけが怖くないから怖くないんじゃん。

臆病な妹が、飛び降りるのにあまりにも時間が掛かっているうちに、兄は同じ歳の子達と別の遊びをし始める。
せっかく仲間に入れてもらったのに…早くここから降りたかった。
それにこんなところに登っていいはずがない。
もしかしたら近くの交番からお巡りさんが来て怒られるかもしれない。
いろいろな心配が次々に小さな心のスペースを埋め尽くしていく。
兄は時々近くまで来てまだ降りないの?と聞いてきた。
降りないんじゃなくて降りられないのに…。

妹は怒った。怒りの感情はすごい。人間を奮い立たせる感情の一つかもしれない。もうどうにでもなれと震える足をコンテナから勢いよく離した。
膝にはガンと衝撃が走り、手のひらがズキンと痛かった。

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