鳥居れな

はじめまして 曲を作って歌っています。 小さな記憶の欠片と、日々のつぶやきエッセイ。 …

鳥居れな

はじめまして 曲を作って歌っています。 小さな記憶の欠片と、日々のつぶやきエッセイ。 各SNSリンクはこちらからhttps://lit.link/renatorii

最近の記事

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44.鼓動

子供の頃、母の背中に耳をくっつけて 大人のよくわからない会話を聞くのが好きだった。 話を聞いていたというよりは、音。 母の体の中で鳴っている声を聞くのが好きだったのだと思う いつも聞いている声よりも、深く共鳴して聞こえる音と体温、かすかな鼓動とがセットになって、心地よいのであった。 私が5歳の時に両親は離婚した。 それから母は美容関係の店を開いた。 私にはふたつ年上の兄がいるので、当時2人の子供を抱えて店を立ち上げるなんて、相当の覚悟と裏の努力があったはず。 朝から夜遅く

    • 57.所在

      私は今どこにいるのかな。 ° ° 東京の片隅、一人暮らしの小さなアパート 1080×1920ピクセルの画面の中を泳ぐシーラカンス ディズニーランドに吹き荒れる台風の目の中 国分寺クウフクで旧友と舐めるラフロイグ 18:56 SL広場の木の下と折り畳み傘 北参道で白いコンバースの靴紐をちょうど結ぶところ 満開の桜の花びらに触れる霧雨は夢現 明け方4時のピアノと揺れるトルコランプ 慣れないワインと繰り返し光る江ノ島の灯台 ° ° 私は今どこにいるの ゜ ゜ きみこ

      • 56.長距離走

        ふたつ年上の兄は小学校4年生まで、ふっくらとしていた。 ところが5年生になった途端、母と私に決意表明かのように 「おれは今日から、お母さんとも、れなとも、もう風呂には入らない。」と断言し、みるみるうちにイケメンへと転身したのだ。 その頃のことは下記の記事をぜひ。 イケメンになってしまった兄は、妹とは違って運動神経がよかった。 幼馴染のたつやくんのお父さんが、空手の先生をしていたこともあり 兄は小さい時から空手教室に通っていた。 実は私も一瞬だけ空手を習いに行ったのだが、

        • 55.静寂との約束

          静寂には静寂の音がある。 静寂の音がうるさい日は心がひとりぼっちな時。 人間朝起きてから眠りにつくまで、ずっと考え事をしている 何をそんなに考えているのか思い返してみると、そんなに大した事ではないのか、大半覚えていない。 ただ選択をしていることも多いのだろう。 外側が静寂を貫いている間も、 内側の私は喋り続ける。 テーブルを拭きながら私が何を考えているか知らないでしょう? 階段を登りながら私が何を考えているか知らないでしょう? 踏切待ちの横顔がどんな感情なのか分からないで

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          54.肉まん

          子どもの時、毎週末 母方の祖父母の家に泊まりに行っていた頃がある。 母方の祖父母はガラス屋さんで、母の弟の哲也も後を継いで一緒に暮らしていた。 わたしは自分の叔父である哲也が、子供の頃から大好きだった。 ぽっちゃり……と言うよりは、ぶってん!と言った感じ。 怒らないでね。 大きなトラックの運転が上手だったり、 ぶてっと黒い手でありながらガラスに綺麗な線をピーと引いたり、 あんなに大きな体なのに声が低くて小さくてごにょごにょ。 笑うと肩が揺れて、髭がじょりじょりしていて、動き

          53.脱皮

          私は脱皮したかった。 あらゆる夜が怖くて。 孤独から逃げようとしていることに気付いた時 寄りかかっていたものからきっぱり離れることができる大人になりたい。 もう1人でも怖くなくなるように。 1度も振り返ったりせずに。 今年は梅雨に入ってからも晴れ間が多く、 例年のガックリ落ち込む遅延五月病も発症していない。 わたしは夏がすごく好き。 空が高くて、雲が真っ白で、野菜がきれいで 葉っぱが青くて、ノウゼンカズラが咲く。 日が長いからいつまででも夜更かしをしても良いような気持ちに

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          52.Dock

          ステージ上に身を乗せた自分は夢うつつ 自分に向けられたまなざしを食べる。 どこにだって行けるような気持ちにさせてくれる 色とりどりの照明を全身に浴びながら 大きく息を吸い込み背伸びをする。 音は海。 とめどなく寄せては返す波と、どこまでも深く潜っていける未知の場所 冷静ではいられない閑かな熱がそこに存在している。 音の輪郭を撫でながら、 かなしみの淵を歩いたり、おとぎの国の中でワルツを踊ったり 鳥にだって、魚にだって、砂漠の夜空に光る星にだってなれる。 きっと何者にでも

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          51.怒り

          私にはふたつ年の離れた兄がいる。 これまでの記事で何度か兄が出演した回もあるが お分かりの通り兄には阿呆な一面がある。 兄にはよく口喧嘩でボロボロにやられて泣いていたが、意外と遊んでくれた。 だが時々その遊びが、男の子の男の子による男の子のための遊びすぎて 私にはついていくのが精一杯なことがあった。 だけど兄が遊びいく時、「レナもついてくる?」と聞いてくると、 年上の遊びに参加できることがとても嬉しくて、「行く。」と返事するのだった。 近所の公園には、大きな貨物コンテナの

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          50.ささきのじいさん

          小学生のころ、通学路に交通安全のおじいさんがいた。 みどり色のキャップをかぶって 時々、登校時間だけでなく 学年によって下校時間もばらばらなのに 帰り道にも子どもたちを見守っている時があった。 幾人か見守り隊はいたけれど、 ランドセル時代のれなちゃんには 1人だけ仲良しのおじいさんがいた。 何度も聞いたし、呼んでいた あのおじいさんの名前を、 いま思い出せないのが悲しい。 思い返してみても本当に優しくて お茶目なユーモアがあって にんまりと笑う顔がかわいっくて、こちらもつ

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          49.ネロリ

          去年の冬、職場の方からクナイプのハンドクリームをいただいた。 オレンジ色の小さなチューブパッケージに青空とくまちゃんがにっこり。 「明日も笑って」の文字につい心がほんわかした、 なんだかもったいなくて、開けるまで時間がかかった いよいよ乾燥で手が痛くなって、シルバーのキャップを取る時が来た。 豆粒ほどをぷくっと左の手の甲に乗せて温めながら伸ばすと ふんわりと香る優しい香りに驚いた。 これはなんの匂いだろうとラベルを見ると(ネロリ)と書いてあった。 それまでネロリが一体なん

          48.Kaname

          2015年4月1日 鳥居れなのターニングポイント 放送日はエイプリルフールだった。 私はこの目でテレビに映っている自分を確かめるまで もしかしたら神様による大掛かりな嘘か、 たいへん長い夢かと疑っていたようだった。 例えばあの時、これはいい経験になったなあ。と、 人生の記念品で終わらせていたら。 もしもあの時、現実的じゃない。と、半分大人の脳で 尊い希望を見て見ぬふりしていたら。 例えばあの時、担任教師から配られた進路希望表に 国際関係学部。とだけ書いていたら。 もし

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          47.ロンド

          繰り返される朝に、 あなたは昨日と同じコーヒーを飲み 同じ服を着て 同じ靴で出かける。 繰り返される朝に、 わたしは昨日と違う朝食を摂り 違う服と靴を身にまとって 違う化粧で出かける。 ながい一日をこなしたあなたと 短い今日を寝かしつけるわたし 交わらないはずの2人がどうして手を繋いで どうして笑い合って どうして。 好きなものをみんな守りたい。 みんな何もかもが違う。 私達はみんな孤独の星 私達はみんな特別なひとり。 まわり続ける日々の中を上手に 泳いでいく。 本

          46.蛍光灯

          あれからずっと切れたままだった、キッチンの蛍光灯を 私はようやく昨日新しく取り付けた。 切れた蛍光灯の形を、捨てる時に写真に取っておいたが 本当にこれで大丈夫か不安で店員さんに声をかけた。 これのはずだけど、もし違かったらレシート持ってきてくださいね。と 優しく微笑む女性が神様のように見えた。 帰り際にお互いペコリとお辞儀をして、店を出た やっと買えた蛍光灯を四苦八苦しながら取り付け、 紐を引くとカチカチと音がなり、目の前がパッと眩しくなった その瞬間、ああ今なら何でも

          45.ボルボ

          新宿でよく会う。 待ち合わせはしていないから、本当に、 寄り道してみたら今日もいた。というくらいの関係。 最初はそうだった、 彼はいつも無表情でほとんど話さない。 というか声も聞いたことがないのだ。 ただ瞳の色が青白く とても綺麗で吸い込まれそうになる。 人は不思議な存在に惹かれたりするもので、 わたしはだんだん、今日はいるのかな…と気にするようになった。 ボルボはこれまで何人の人の気になる存在になってきたのだろう。 あの場所へ行けば、今のところは いつも必ずいるけれど、

          43.寂しがり屋怪獣

          酔った頭で思い出す人が、 どれだけ自分にとって大きな存在か… 私はお酒を飲んで電車に揺られると、脳貧血を起こすので 外でのお酒の席は、本当に大切にしたい関係の方々だけにしている。 いつもより素直に会話ができる時、 思い出される人間は本当に愛されている その場にいなくても話題になるのは、それがどんな内容であったとしても 結局は大切な人だし、可愛いからなのね。 愛され方が上手だとか、世渡り上手だものね。 なんて言われても別にそんなことはない。 前を歩いてくれる、 ありがた

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          42.ルイトモ

          んー、でもルイトモって感じぃ。 私の右手の薬指にサーモンピンクを塗って。 リーサさんはぽつんと言いながら、ちょっと嬉しそうだった。 東十条の商店街にある薬局の片隅、 色白で綺麗なお姉さんが、ジェルネイルをしている。 いつも自然体で、広い海をゆうゆう泳ぐ白いイルカみたいな人。 リーサさんの第一印象はそんな感じ。 ネイルをおまかせするようになったきっかけは、 高校時代のお友達である、あみからの紹介だった。 2人で約束をしてランチに出かけた日、あみの爪先がちゅるんと 可愛らしい

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