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19.始発

もう、くたくた に どろどろ に 
疲れ切って、前へやる自分の足の一歩一歩が
信じられないほど重たい時

ホームに滑り込んでくる救世主
人のいない、それにようやく乗り込んで
半ば落ち葉が枝から落ちるように
シートへと腰掛け、最寄りまでをただ揺られ待つ

人生で初めての始発は、少しの優越感と達成感
あとは、初めてピアスを開けた時のような
喪失のような悲しさがあった

帰るつもりでいたのに、逃した終電は
時計の針が進み、時たま我に返る度に恋しかった。

線路のない町に生まれて、
移動は徒歩、自転車、バス。がほとんどで
高校生になるまで電車に乗り慣れていなかった私は
電車に乗ることに対してずっと苦手意識があった。

上京したての頃は
毎日電車に乗っている自分を、本気で褒め称えた。

初めて終電を逃して、翌日初めて始発に
たった1人で揺られたあの日が
何だかもう、はるか昔のことのように感じる

始発電車にはいくつかの思い出があるのだが
そのどれも車窓からの景色は美しい

きっと始発に揺られる時の私は
『ショーシャンクの空に』でアンディ役を演じた
ティム・ロビンスが
刑務所の放送室から「フィガロの結婚」のレコードを
大音量で全館放送したシーンの時の表情に似ている、
と、思う。 …私はハンサムではないが。

長い1日の終わりに、自由を感じ、
心から満足しながら乗るからかもしれない

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