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42.ルイトモ

んー、でもルイトモって感じぃ。
私の右手の薬指にサーモンピンクを塗って。
リーサさんはぽつんと言いながら、ちょっと嬉しそうだった。

東十条の商店街にある薬局の片隅、
色白で綺麗なお姉さんが、ジェルネイルをしている。
いつも自然体で、広い海をゆうゆう泳ぐ白いイルカみたいな人。
リーサさんの第一印象はそんな感じ。

ネイルをおまかせするようになったきっかけは、
高校時代のお友達である、あみからの紹介だった。
2人で約束をしてランチに出かけた日、あみの爪先がちゅるんと
可愛らしい色で光っているのを見て「いいなぁ。」と言った。
あみは目をキラキラさせながら、「リーサさんっていうの!」と
Instagramのアカウントを教えてくれた。
あみは感性の人。綺麗だと思うものに触れた時に、
これが好きだと素直に表現できる所がとても好き。

ネイルはヘアサロンと違って、スマートフォンをいじったりできないし
オフも含めたら、それなりに時間が必要なので
人見知りだと結構ハードルが高いと思う。
私自身は小学生の時、通信簿に社交的だと評価された過去もあるが
それが今もそうなのかは分からない。
誰かといることは好きだし、
はじめて会う、これから時間を共にするであろう人には
色々な質問をしてみたりもする。
ただその時の自分のコンディションによって、
上手に会話ができない時がある。
大人になってからの人見知りは、努力不足だと思いながらも難しい。

でも、リーサさんの前ではそれがない。
不思議なオーラを持っている人だと思う。
そういえば、高校時代にあみと仲良くなったのは同じ部活に
ほとんど同じタイミングで入部したことがきっかけだった。

あの頃くだらない話しかしていなかったが、
打ち解けるのに時間はかからなかったし、人見知りもしなかった。

リーサさんとはまだ出会ったばかりだけれど、爪を可愛くしてもらう間は
近況報告から発展して、ものの捉え方なんかをお話する。
時たまお悩み相談会になりかけるが、
大体は共感することいっぱいだねえ。と着地する。
「やっぱりいろんなお客様がいらっしゃいますか?」と聞いた時に
「んー、でもルイトモって感じぃ」と言っていた。
なんだかお近づきになれた気がして嬉しかった。

目に見えないけど、たしかに存在する同じ空気感波動の人。
「人間だから仕方ない」って、いつか大人が言っていた
いわゆる相性が良くない人間のことを、
諦めるのが寂しいなと数年前までは思っていた。
けど、一緒にいて心が嬉しい人や、自分が無理をせず自然でいられる人たちと、同じ感性で、同じ好きなものを見ることに限りある時間を使うほうが
より色の濃い毎日を作っていける。

飾る必要はなくなったから、選んでもいいと思えたから。
自由は時に狂気的なものだけと、ブレない芯があり続ければ怖いことなんて無い。

誰かの箱にむりやり体を押し込めることなんてしなくて良い。
きっとあふれてしまうから。

わたしもこの広い海をいつか、ゆうゆうと泳いでみたい。
何にとらわれることなく、たった1つ大切なものがあれば
行く先が見えなくとも進んでいける白いイルカのように

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