1st AFKO National Open Full-Contact Championships & 2018 ShinKyokushinkai National Championships <その①>

今回は光栄にも上記空手大会にお声がけいただき、大紙に『空手』の二文字を書かせていただいた。

(不用意に長く特にオチもないので、やめとく人はここで)

武道の大会というのは気合が入っている人たちの集合であるからして、自ずと俺も気合が入る。日頃入れなれないので緊張してしまう。

まだ大書のデモンストレーションを見たことがないオージーたちは、白い道着の選手たちの中で一人だけ黒の作務衣を着た俺を「あのおっさん一体誰だ…」という怪しい者をみる目でみている。

会場の日本人の方々は「楽しみにしてます」「楽しみにしてます」「楽しみにしてます」「楽しみにしてます」「楽しみにしてます」「楽しみにしてます」ととんでもないプレッシャーをかけてくる。今考えるといじめだったかもしれない。5万の観衆が見守る中、気が小さい奴ならとっくに気絶している(※5万の観衆のなかには人間以外も含まれる)。

何しろ本番一発勝負である。書き直しはできない(できるわけがない。大勢のオーストラリア人の前で大声で「すみませ~ん、書き損じたんでもう一回お願いします。」と英語でスムーズに言わねばならないのだ。大声でRの発音が完璧にできるほどの実力はない)。

紙の幅は2m。そこに2文字。使う筆は2本。俺は日本人。2,2,2,に……これは、これは…………単なる偶然だ。まったく意味はない。

ここでちょっと言いたくなったから言うが、墨のついたでかい筆をただベチャっと紙面に落としてがーッと線を引いているわけではない。書家はもちろんそんなことはしていない。培った技術を駆使し、その姿を披露する。

どうやってぴったり文字をでかい紙に収めるかは、あえて言えば「勘」である。下書きを書いているわけではないから、鈍い勘では仕損じる。書き直しはできないのだ(「文字が全部入らなかったんでやり直ししまーす」などと言えるか?崩し字なんて皆読めないんだからそのまましれーっと終わっといたほうが無難である)。空間把握のセンスが必要なことは言うまでもない。

今回は「空手」の2文字ということで承ったのだが、何回か違う場面で「2文字で?」と八尋先生に確認?した。

紙サイズ1mx2mという最初の申し出を2mx4mにしたいと言ったのは他でもない俺である。それにもかかわらず、2文字に不安がよぎったのだ。

もうちょっと他に足す文言はないのかと心の中で先生に訴えかけていたのだが、先生はそんなことは歯牙にもかけない様子でなんとも冷たいものである。いや待てよ。知ってて敢えて俺のプロとしての自覚を促したのかもしれない。その可能性もないではないと言えるかもしれないと思える節がないということも言い切れない。うーん空手家は奥が深い。

2m四方に1文字を収めるには文字が結構でかくなる。圧の効いた強い線を長く引くにはホウキ筆をずるずる引きずるのとは違う体力がいる。大筆2本をさばく技術もいる。

また、文字がたくさんあれば、書いてしまった文字のサイズがイメージより大きかったり小さかったりしても、最終的にきちんと紙の中に収まるように他の文字で紙面調整できる。ただ2文字だとそうはいかない。だって最初に書く文字と、もう1文字しかないのだ。

最初の文字が大きすぎればスペースがなくなって下の文字が潰れるか小さくなるかするし、最初が小さすぎれば2文字目がでかくなるか長くなるかするし、文字サイズを同じにすると下に変な余白が空いてしまう。

書いているときに紙面全体が把握できるサイズなら何の問題もないことでも、このくらいの大きさのサイズになると背中にも目が必要である。

というわけで今回の「空手」、結果的には文字サイズも紙面配置もバッチリ決まった。

週6のボディコンバットとNBIの朝の体操のお陰で体の動きもすこぶるいい(当社比)から筆もようまく動いた。

最初は怪訝な眼差しを送ってきていたオージーたちも、このパフォーマンスを見た後は「マスター、一緒に写真を」なんつって来てくれたり、「マスター、素晴らしかった」とすれ違いざまに声をかけてくれたり。「マスター、コーヒー。ブラックで」とか。「マスター、ナポリタンまだ~?」とか。

とにかくしっかりとお務めを果たせたようで本当によかった。

②へつづく。

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