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東京証券取引所の記者会見から学ぶ危機管理広報について

どうも、かずちです!

10月1日 8時55分 信じられないニュースが世間を騒がせました。

「東証、障害に伴い全銘柄の売買停止、復旧は未定」

誰もが驚き、誰もが不安に思ったことでしょう。
10月1日という下期開始のタイミングでの歴史的大事件です。

それから時間が経ち、東京証券取引所は16時30分〜記者会見をすることを発表いたしました。
この記者会見がまた素晴らしすぎて記者会見=炎上するというここ最近の常識を覆してくれました。

PRに携わるものとしてこれは企業の誠心誠意さが伝わる記者会見(危機管理広報)の良い事例と思い、私の備忘録としてnoteにまとめました。
(読了時間:7分)

特に上場している企業なら危機管理広報は切っても切り離せない事象。
もちろん企業であればマニュアルなど作っていると思いますが、不祥事やシステムトラブルなどは正直起こりうるんです。起こらないために120%注意をする必要はありますが、起こったものはしょうがないのです。

そこから企業が何をするべきなのか

これが大事なのです。
今回の記者会見は本当に参考になる事例です。
少しでも多くの方に危機管理広報の大切さを理解してもらえたら幸いです。

上記のTwitterには東証の記者会見を良さをまとめているtogetterのリンクも貼ってますので気になった方は御覧ください。

0.今回の事象について

最初に今回の終日売買停止に至った背景と原因についてまとめました。
あくまで私の言葉を使っておりますので、詳細は実際に会見やメディアをご覧いただければと思います。

アローヘッド(注文売買系のサーバーのつながりと運用型のネットワークに分かれている)の運用系ネットワークの共有ディスク装置1号機のメモリー故障が発生しました。本来であれば2号機にフェイルオーバー(切り替わるはず)が正常に切り替えできませんでした。その結果情報発信ゲートウェイ(相場情報を相場ユーザーに配信するサーバー)の配信処理に異常発生、取引場側で売買鑑賞している売買簡易サーバ監視端末監視処理に処理異常が発生したのが一連の流れです。

簡単に言いますと、機器の故障(富士通製)とバックアップの切り替えができなかったことが原因です。機器の故障でいうと、情報配信ゲートウェイの配信処理の部分と売買監視サーバーに付随する監視処理の2箇所です。

難しいですよね、ただ記者会見を見ていただくともっと噛み砕かれているのでおそらく理解できると思います。

1.経営陣のシステムへの理解度

これはかなり話題になっていると思いますが、記者会見を見た人は「これってエンジニアが答えているんじゃないの」と疑ってしまうくらい経営陣がシステムについて理解をしています。特にCIOの横山氏が幾度も自分の口でシステムの構造や不具合があった原因について言及している点が多くの方から評価されております。

ここまで会社のシステムやサービスを理解している経営陣なら社員としてとても安心ですよね。事前の想定FAQを準備したとしても普段から理解していないとここまで丁寧にはできないと思います。横山氏がどれだけ仕事に真摯に向き合っているかうかがえる会見でした。

2.専門用語を避けた説明

システムに関してはなるべく専門用語を避けて丁寧に話していました。普通ではもっと難しく、もっと専門用語を使って説明したくなるところを、誰もが聞いてもわかりやすい表現を使ってました。正直、アローヘッドや情報発信ゲートウェイなんて言われてもわからないのですが、CIOの横山氏は絶対その後に噛み砕いた表現を入れてました。例えばアローヘッドだったら(注文売買系のサーバーのつながりと運用型のネットワークに分かれている)や情報発信ゲートウェイ(相場情報を相場ユーザーに配信するサーバー)のような感じで無知な私でも理解することができました。

システムへの理解ができていても相手に伝えるときに専門用語ばかりで記者やその関係者を置いてけぼりにしてしまうケースは多々あります。特にこういうシステム系の不具合は正直いつも何を言っているのかわかりません。広報は中立的な立場が大切なので、記者会見のときは受け答えする人に専門用語を使わないことを徹底するべきです。記者会見関係なく、プレスリリースやメディア向け企画書にも専門用語は避けたほうがいいです。経営陣はそういうことを理解できないない方も多いので、そのときに広報がバリューを発揮するのです。

こちらは知人の放送作家が投稿したTwitterですが、本当におっしゃるとおりで広報PR担当して専門用語を避けた表現方法を大事なスキルです。

コツとしては
1stステップは、修飾語を3つ変えて表現する
2ndステップは、動詞を変えて表現する
 
実は、動詞を変えた方が表現豊かに見えます。

今回のケースは広報がどこまで裏で動いていたかわかりませんが、CIOの横山氏の発言は見習うべきところだらけでした。

3.記者の質問への受け答え

記者会見は長時間に及び、1時間以上記者さんの質問に答えていました。記者さんも今回の一連の流れを理解するのが大変で重複する質問が多くありましたが、それでも経営陣は1つ1つの質問に真摯に向き合っていました。途中記者から「横文字を使わずに再度今回のシステムトラブルの原因について教えて下さい」と言われても、CIO横山氏は少し表現を変えて丁寧に伝わるように回答してました。

また、答えられない質問があった場合は「追ってご回答いたします」とすぐに広報が入ってました。広報の方もかなり長時間で疲れている中、集中力を切らさず記者さんに向き合っていたように思えます。記者さんの質問は本当に様々なので想定FAQでは補えないことが多々あります。そんなときも、経営陣は連携をとっており、話し合いながら誰が答えるのかどう答えるのかを話し合ってからなるべくすべての質問に答えようとしておりました。よくあるのは「そちらの件は現在原因を究明しております」や「お答えできかねます」などといった表現でその場を逃げ切ろうとする記者会見を多く見ますが、今回はそのような表現はほとんどなく全てに向き合っていました。もちろん根本の原因については原因究明中ですが、その背景や時系列をしっかりお話していたことで逃げている感じは一切ありませんでした。

4.責任転嫁をしない

これについてもかなり多くの方が評価しておりました。不祥事を起こした際はいつも「誰の責任ですか」や「経営責任はどう考えているんですか」という質問があります。何故か人は責任というものに非常にこだわっている感じもしますが、わからなくもありません。今回はシステムの不具合でそのシステム全体が富士通社のものでした。だから、記者さんからも「富士通社への賠償金の請求や今後について話し合っているんですか」と質問がありましたが、東証の宮原社長はこう答えました。

「富士通さんはあくまで機器を納品しているベンダーさんでいらっしゃいますので、市場運営者としての責任は私どもに全面的にあるというふうに考えております」

富士通さんの責任ではなくすべての責任は私たちにあるとはっきり言ったのです。今までの会見を覚えていますでしょうか。日大ラグビー部の井上コーチは「私からの指示ではない」、吉本興業の岡本社長は「お前らテープ回してないやろうなは冗談」と明らかに責任逃れをする発言をしていました。その中で今回の責任は私たちにあるといった東証の判断は間違ってないですし、素晴らしい決断だと思います。普通、経営陣は責任を逃れたいものです。しかし、本当に関わる全ての人のことを考えると何が正しいのかそれを考えていたら今回の宮原社長の発言になったのではないだろうかなと感じます。企業姿勢としても大きく評価できる点だと思います。

5.企業の誠心誠意

上記にも記載している通り、一連の記者会見を通じて感じたのは東証は素敵な企業でしっかり会社のことを考えてくれている経営陣が揃っているなでした。これを私に感じさせたってことはそう思った人も他にいるはずです。そう思った人が大勢いるのであれば今回の記者会見は大成功だったのではないでしょうか。

記者会見はその場を凌ぐパフォーマンスだと思われがちですが、記者会見とは説明責任を果たす場と私は認識しております。不祥事ならその原因とその後の対応について経営統合の発表ならその内容とその後会社はどう変わっていくかなどあらゆる事象について説明をしっかり関わる全ての人に伝える場と思います。今回の東証の記者会見をそれをしっかり成し遂げており、なおかつ企業の誠心誠意さも伝わった本当に良い事例ではないでしょうか。

8時54分にシステムを停止して、午前中は投資家さんや証券会社の皆様にヒアリングをしつつシステムトラブルの原因について究明。そして、16時30分〜記者会見を行うという短い間でここまでの記者会見をできる企業は本当に数少ないと思います。記者さんの中では「情報開示が遅いので」はとおっしゃっていた方もいると思いますが、私はここまでの準備のスピード感には驚かされました。また、「午後には取引開始できたのでは」と追求していた記者さんが何名もいましたが、その理由も「結局は円滑な取引ができず、安定的な市場運営ができないと考えられましたので市場参加者の大手証券会者さんや外資証券会社さん、ネット証券さん、ベンダーさんにヒアリングを行う上でどうしていったらいいかというと混乱性が生じるため終日停止という判断に至った」と理路整然かつ関わる全ての人のことをしっかり配慮した上での決断をしていることがわかります。ここまで進められたのはきっと裏で死ぬ気になって会社を守った広報の頑張りがあったからなのだと思います。そこをもっと世間に発信してほしいと心では思っていますが、これが今の広報の形なんだろうな。(広報会議さんぜひ取材してください。笑)

広報PRに関わる全ての人へ

広報という職種はかなり歴史のある仕事です。
今では、メディアから取材を取ってくる人と思われがちですが、それはあくまで広報という仕事のほんの一部に過ぎません。

スタートアップでは特に「メディアに掲載された」「資金調達した」という明るい話題を発信しているところが多いですが、本来は企業を守ってこそ広報なのです。守りを固めてこそ攻めができるのではないでしょうか。私は「攻めの広報」「守りの広報」という考え方があまり好きではないのですが、広報はいわゆる企業の守護神であり切り込み隊長である必要があると思います。経営陣が判断したことが本当に社会に受け入れてもらえるのかを中立的な判断で守りつつ、新しいサービスや経営統合をする際は積極的に発信をする必要があります。だから攻めと守りに分けるのではなく、どちらも兼ね備えて初めて企業広報だと言えると思います。

今回の東証の記者会見は何度見てもいいくらい最高の事例です。だから私もこうやって深夜3時なのにも関わらずnoteにまとめております。正直、危機管理広報って経験したくても機会はないいわば地震や台風みたいなものです。だからこそ、入念に対策をする必要があります。私もまだこの業界に入って日が浅く、正直これほどの大企業の記者会見は経験したことはありません。だからこそ今回の記者会見を見て心が震えました。

最後にはなりますが東証の経営陣の皆様と広報を始めとする社員の皆様、そして関わる全ての皆様本当にお疲れ様でした。今後無事に売買が続けられることを祈っております。

今回のnoteが少しでも多くの企業広報の参考になっていれば幸いです。
いつもはお調子者ですが今回はかなり真面目に綴りました。
引き続き今後ともよろしくお願いいたします。

かずち

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