甘酸っぱいとかそんな良いもんじゃなくて、

高校生。
夏祭り。
浴衣ではなかったけど、何というベタなシチュエーションだろうか。

付き合ってはいなかったけど、頑張って誘ってみたらOKを貰えた。
好きな人と行く初めての夏祭り。
特別な日になる、はずだったのに。
横にいたのは好きな人と、一つ年下の従妹だった。

「友達と行く約束してるから、一緒に行くだけ行っていい?」

その言葉を信じて、一緒に行った。
彼がどういう心境で受け入れてくれたのか、もちろん分からない。
元々人見知りで、男の子と話すことは特に苦手だった。
それでも勇気を出して誘った。なのに。

従妹と喋ることで、安心している自分もいた。
恥ずかしさと、何を話せばいいのか分からない気まずさを紛らわせていたような気がする。
でも今思えばそれは、あの時彼との会話やそれからの行動を頑張る機会を自ら放棄してしまっていたのだろう。

女の子慣れをしているような、そんな彼ではなかった。
彼は彼なりに、会話はもちろん食べ物を買ってきてくれたり、プリクラにも付き合ってくれたり、不器用に頑張ってくれていたはずなのに。
あの頃の私は、本当に馬鹿だったのだ。

結局従妹は、夏祭りが終わるその時まで、私の隣にずっといた。

従妹とは学校も違った。彼とももちろん初対面。
悪意をもって邪魔をするつもりは一切無かっただろう。
彼と出掛けられたことは嬉しくても、従妹に悪意が無いと分かっていても、せっかくの初めてのデートで私はどこかモヤモヤを抱えることになった。

高校生の甘酸っぱい思い出になるはずだった一日は、晴れることのない曇り空のように私の心に刻まれてしまった。

結局、彼には振られた。
悔いを残したくなくて卒業式の日に言ったけれど、案の定というやつ。
それでも、友達として仲良くしてくれた彼は本当に優しい人だった。
進学した短大の学園祭に誘ったら、快く来てくれた。
自分の家はそこから何十分か掛ければ帰れるのに、一時間以上かかる私の家まで送ってくれた。
彼の誕生日に連絡したりして、遊んだりもした。安物だったけど、ネックレスを買ってくれたり。

付き合っていないのに、まるで恋人のようなことをしてくれた。
やっぱり、まだどこかで好きだったのだと思った。
でも些細なことがきっかけで、もう脈が無いと判断して連絡をするのを止めた。
今どうしているのか、全く知らない。
私はいろいろ捻くれて拗らせてしまっているけれど、どうか彼は普通の、平凡な幸せを手にしていればいいなと、心から思う。

だって、「結婚するなら彼みたいな人がいい」って本気で思えた、最初で最後の人なんだから。
高校生だったのにね。それだけは、甘酸っぱい思い出かもしれない。


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