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「鉄瓶でコーヒーを淹れる時 沸騰させてはいけない」の謎

 ちょっと連載の時間が空いてしまいました。Reproのファームウェアやアプリのアップデート作業などでバタバタしてしまい…
なんて弁解してもダメですね。すいません。
前回、「次回からは料理の話に戻ります」なんて書きましたが、つい興味のままにまた変な実験をしてしまいました。
 最近ちまたでは、鉄瓶でコーヒーを淹れるのが流行っているようで。鉄瓶で淹れるコーヒーは鉄分が溶け出す作用なのか、「味がまろやかになる」と好評です。実際Repro開発チームでも試してみましたが、確かに味がまろやかになった気がしました。
Reproでは現在、及源鋳造さんなどの南部鉄器メーカーさんにもご協力いただいて、鉄瓶の鍋プロファイルを鋭意作成中なので、「鉄瓶でコーヒー」は気になるところ。

鉄瓶でお湯を沸かすと言えば、「いったん沸騰させてから…」

ところで、鉄瓶でお湯を沸かすと言えば、「いったん沸騰させてから…」って言うのがこれまでの常識。鉄瓶メーカーさんも「いったん沸騰させてください」と使い方を説明しています。ある程度ミネラル分を含んだ水を、いったん沸騰させ、使った後はきちんと乾かしていると、こんなかんじに水に含まれるカルシウムやマグネシウムが内部に結晶化して、さらに錆を防いでくれるようになります。

 ところが鉄瓶でコーヒーを淹れるプロたちは、口を揃えて「鉄瓶は沸騰させちゃダメですよ。」と。
「抽出温度」のことじゃないですよ。最終的には自分たちが狙っている最適温度に下げてドリップするんですが、それ以前にまず沸騰させること自体がNGだと。
彼らの言い分は、以下の通り。
鉄瓶を沸騰させるとコーヒーの酸味が削がれて、味のバランスが悪くなってしまう。
味がまろやかになるのはOKだけど、あるべき酸味が失われると間の抜けた味になってしまうと。
鉄瓶を沸騰させるといったい何が起きているのでしょうか?

と、ここで興味深い2003年の論文を発見しました。
南部鉄瓶および外国製鉄瓶による水道水の加熱と水質変化
広島国際大学の平塚広さんらの論文なのですが、簡単に内容を紹介すると、外国製鉄瓶をIHコンロで使うと「味がおかしくなる」という話があるけど、その原因は何か?を実験しています。
その際に、外国製の粗悪な鉄瓶とのリファレンスに及源鋳造さんの鉄瓶を使用しています。
実験方法はシンプルで、PH7の中性の水道水を外国製鉄瓶と及源鋳造さんの鉄瓶で30分間沸騰させて、PHと硬度の変化を見ています。
結果は、及源鋳造さんの鉄瓶がほとんど変わらないのに対し、外国製はPHが7.00から9.00へアルカリ化し、硬度も19.00mg/Lから53.00mg/Lと急激に変化しているというものです。
この原因について、この論文では日頃鉄瓶を洗っている水道水により表面に付着したカルシウムやマグネシウムなどのミネラル分が沸騰により再溶出してPHをアルカリ化し、硬度を上げているのではないか、推測しています。
ならなぜ及源鋳造さんの作りの良い鉄瓶は、どうしてそうならないのか?については明確な原因は分からず、
「なぜ、南部鉄瓶にこのような現象がみられないかは検討中であるが、経験的、伝統的に、 南部鉄瓶は良質素材の選択や鋳造技術の工夫により、鉄を含めて成分溶出が少ないよう(水アカが吸着しないよう)改善されているのではないか。」
う〜ん、ちょっとあいまいだなあ…
でもこの実験から、鉄瓶を沸騰させると付着したミネラル分が水に再溶出した結果アルカリ化が進み、コーヒーの酸性成分を中和させてしまっているのではないか?という推測は容易にできます。早速実験してみましょう。

東京都港区の水道水はPH7.58 ほぼ中性でした

東京都港区の水道水です。PHは7.58。ほぼ中性に近い弱アルカリ性。この水道水を使って、及源鋳造さんの鉄瓶で30分間沸騰させてみましょう。

及源鋳造さんの鉄瓶で東京の水道水を30分沸騰させる

さあ30分沸騰させたのち60℃以下に冷まして、PHをチェックしてみました。

ええ〜 PHが7.58から9.26へ弱アルカリ性になっちゃっているじゃあないですか! PHが1.68もアルカリ性に振れれば、コーヒーの酸味に影響するのも不思議じゃないかも…
鉄瓶おそるべし。
それじゃあコーヒーのプロたちのように沸騰させなかったら、このアルカリ化がどれだけ防げるのでしょう?
今度は、沸騰させないで最初から鉄瓶を90℃にして30分間保温してみましょう。

と、その前に、単純に加熱しなくても鉄瓶に水道水を入れた時点で、ミネラル分が溶け出してアルカリ性になってしまっているのではないか?という疑問が…
そこで鉄瓶に入れただけの水道水のPHを計ってみましたが、ご覧の通りPH7.28とほぼ中性。やっぱり鉄瓶に入れただけでは変化は起きないのですね。
それではいよいよ90℃で30分間加熱の実験を始めます。

びっくりしたなあ… 沸騰30分ほどではないけれど、PH8.28と元より1.0だけアルカリ性に振れています。
この実験でなんとなく分かったのは「鉄瓶でコーヒーを淹れるとまろやかになる」の原因に少なからずPH値がアルカリ性に変化することが関わっているのではないかと言うこと。
基本的にどんな鉄瓶でも、きちんとメンテナンスされているものはミネラル分の再溶出は起きているのではないか?
コーヒーの場合、それがPHにして2.0ぐらいアルカリ化すると「酸味が壊れる」と感じ、1.0ぐらいアルカリ性になると「まろやかになる」と感じているという仮説はどうでしょう?

これ以上の実験は「鉄瓶を使ってコーヒーを淹れるこだわり派」の皆さんにおまかせしたいところ。
ReproとPHメーターを手元に置いて、鉄瓶での加熱温度とPH値とコーヒーの美味しさの黄金比率をぜひ追求していただきたく。よろしくお願いします。

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