見出し画像

脱出経路

 「立つ鳥跡を濁さず」とか言う諺がある。

 とても美しい言葉だ。私も今いる場所を離れる時にはそうありたいと思う。

 まあしかし、その鳥のいる巣がTNT(トリニトロトルエン)製だとどうなってしまうか? 飛び立とうと脚に力を込めたその反作用だけでも爆発してしまうかもしれない。

 そんな心境だ。今いる場所がとても脆く感じる。薄氷の上にいる。

 私の職場はオールメンバー5人だが、一昨日でエース級の人間が抜けた。彼が飛び立とうとしたときにも色々バトルがあったらしいが、まあなんとか(少なくとも表向きは)円満に辞めていった。「この選択が自分の将来を広げられると思った、全く後悔がない」のだという。

 私もそうしたい。野心があるからだ。若干頭お花畑気味なやりたいことがある。夢見がちな目標だが、それに必要な金はある。つまりしばらくの衣食住は揃えられる。ないのは時間だけ。時間を手に入れる方法はシンプル、私も辞めればいいだけ。

 だから時間を獲得して実現したい。しかしそのためには巣をブチ壊しにしなくてはならない。特に恨みはないが台無しにして出ていく。先立った人間が、"黒ひげ危機一発"のナイフを豪快に刺していったから、崩壊する時は近い。広い視点で見れば私の存在などちっぽけではあるがミクロで見れば酷い裏切り。

 まあしかし、現実的にはそんな考えは杞憂に過ぎない。実際は人材なんて替えが効くからだ。私が決断を言い出したその前後では混乱をもたらすだろうが、すぐに元の形に収まると思う。でもその勇気がなかなか出ない。

 かといって気持ちは変わらない。自分のやりたいことよりも巣の方が大切な道理なんてない。恨みはないが盛大に砕け散っていただく。

 とりあえず今から一年くらいはその時々の心境をこの"脱出経路"シリーズとして残しておこうと思う。

 事が済んで後から振り返って「あの時はああだったなあ😌」と遠い目をして書くのと、先行きの見えない中で苦し紛れに書き残すのでは似た内容でも本質は異なる。もちろん後者の方が強いエネルギーを持っているはずだ。

 定期的にこのような日記(のような手記のような)を積み重ねていけば、最終的には自伝になるだろう。繋げるとクヨクヨしたり、調子付いたりとブレブレな内容になるはずだが、あらかじめ溜めや山場を用意された機能的な物語よりも価値がある。

 とはいえ所詮自己満足にすぎない。細切れで不恰好な、ディアゴスティーニ的作品が組み上がるだけだと思うが、同じような悩みを抱えるものに対してのガイドブックや、めいろ遊びの解答例のような存在になったら嬉しい。そう、ラビリンスで迷う冒険者にとっての先行者が置いていった小石やパン屑のような存在でありたい。これが俺にできる、迷える君への貢献。

 辿る経路は出口に繋がっていますように。


この記事が参加している募集

退職エントリ

仕事について話そう

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?