見出し画像

半年ぶりに4時間だけ働いてみた(日記)

たった4時間だけ、ある会社に出勤をして内職をした。
小物製品をただビニールの個包装につめるだけの単純作業だった。
しかも「動画や音楽を聴きながら作業してよい」とのこと。
最初は少し驚いたが、しばらくするとその理由が分かった。すぐ隣には会社での結構重要な仕事をしている風の人がおり、会社の内部情報について話し合っている人もいる。なるほどな。音楽を聴いてもらって、耳栓代わりにしてほしいのかもしれない。

ここ1週間ほど溜まっていたラジオの聞き逃し配信を消化したころ、作業を終えた。
たったの4時間。
世の中の人々が8時間以上は仕事をしているのに、たったの4時間。
なのに私は、いかにもたくさん仕事をしてきた人の顔をして電車に乗った。

家路を急ぐ人がぎゅうぎゅうに詰め込まれた社内で、膝にかっちりとした革製品のビジネスカバンが当たって痛い。それを一丁前に膝で押し返して、持ち主であり、いかにも会社の重役を務めていそうな男性に「当たっていますよ」と無言の合図をした。男性は嫌な顔をして次の停車駅で降りて行った。

たったの4時間。
普通の人の半分。しかも何も考えなくてよい仕事をしただけで、世の中の働いている多数派に属しているような勘違いを起こす。
初めて、ちゃんと働いて帰宅した我が家を見て、OLの一人暮らしの家をテレビの画面越しに見ているような気持ちになった。

いやいや、何勘違いしているんだ。
お前は無職でうつ病で何もできない社会的弱者だよ、と脳内で自分が、昨日までの自分に戻そうと腕を引っ張る。「そうだったそうだった、勘違いするところだった」と引っ張られる腕に体を預ける。ようやく我が家に目が慣れてきた。
あぁ、やっといつも通りだ。

とりあえず小遣い稼ぎにはなった。
流されるように生きていくんだ。

夕飯の準備をする。
今日は味噌汁で乾杯だ。
小鍋にほんの少しのごま油をたらし、小松菜をさっと炒め、水と豆腐と顆粒だしを入れて沸騰させる。火を止めて汁に味噌を溶かし、弱火にかけた。豆腐と小松菜の間を、砂漠の噴煙のように舞い上がる味噌を見ている時、ふと自分が過去にした嫌な仕事のことを思い出す。私が頑張れば頑張るほど、特定の人を不幸にする仕事だった。

今日のそれは、その時とは違う。
人を喜ばせる仕事だった。
少なくとも、私の数時間の雇い主は、作業が減って喜んでくれたはずだ。
それで十分だった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?