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被害者であり続けた方が、トクする社会。


怪我の功名、またの名を疾病利得。

 話題の原発処理水海洋放出に関して、9割の休業補償がSNS界隈で目立つ形となった。

 コロナ禍の飲食店の休業支援金でも、一律の対応だったことから、固定費が大きすぎて焼け石に水な大型店もある一方で、ボロ儲けでウハウハな小規模店の噂もメディアで流れた。後者に関しては、遊んでいても補償としてお金が貰える、オイシイ状態なのだから、いつまでも被害者であり続けた方がトクなのである。

 これらは心理学や、メンタルヘルスの分野で「疾病利得」と呼ばれている現象と、構造的には同じである。

 病気になることで、目の前の嫌な現実から逃れられ、気の毒な状況から周囲が優しくしてくれるだけでなく、行政の民主主義的弱者救済制度のもと、手厚い補償を受けられることが多いため、真っ当に社会復帰するよりも、病気を治さないでこのままの状態でダラダラ過ごした方が得だと、深層心理で思ってしまっている。

 それにより、建前では病気を治したいと公言しつつも、本音は治したくない矛盾が生じ、結果としていつまでも病気が治らない形で、便益を受け続けている状態を、疾病利得抵抗とも表現していて、メンタルヘルスの患者や、高齢で誰も相手にしてくれない状態で、突然入院した時などに起こりやすい。

 私も25歳で突然、病に倒れた際に、これまで明確な診断がなかったことから、原因不明の体調不良を誰にも信じて貰えず、悩まされていた原因が判明し、1ヶ月間の入院、手術に至ったことから、周囲にも一大事と受け止められ、それ以降、体調不良を「甘えているだけ」と面と向かって言ってくる人は居なくなった。

 それだけではない。保険適用前なら100万円相当、3割負担でも30万円は掛かる筈の医療費が、高額療養費制度と限度額適用認定証の合わせ技で、退院時の窓口負担は10万円程度で済んだ。

 しかも、労働組合のしがらみで加入させられていた全労災のセット共済から、手続きを踏むことで、入院費用の全額が保険金で給付されたし、健康保険組合の給付や、労働組合の見舞金も忘れた頃に受け取った。

 就業不能の期間は、病気休暇や病気休職、傷病手当金によって、最低でも基本給の2/3が支給される。ガチ疾病だったから、遊んでいてお金が貰える状態ではないにしても、働かずにお金が貰える疾病利得を、身を以て体験しているから、本音と建前で矛盾する気持ちはよく分かる。

正直者が馬鹿をみる。

 個人的に一番の利得は、フィジカルにもメンタルにも悪い業界から、足を洗う口実を得られて、すんなりと早期退職できた点だろう。

 典型的な体育会系ムラ社会型組織で、退職を仄めかそうものなら、あらゆる手段で横槍が入れられて、一筋縄ではいかない。

 しかし、20代半ばの若手社員が、命の危機に晒される程の大病を患い、本人が体調不安があることを、ことある毎に主張していたにも関わらず、ぶっ倒れるその時まで誰ひとり真剣に耳を傾けなかった。

 そんな組織の無能な上層部に、いくら辞めるとロクな死に方しないと脅されたところで、この組織に居続けた結果、現に死にかけたのだから、留まる方がロクな死に方しないと言い返せば、相手はぐうの音も出ない。

 こうして大病を患ったにも関わらず、働かずして手元のキャッシュは増え、苦労信仰を押し付けていた周囲からも、決して無理はするなと掌を返すほど態度が変化したのだから、内臓を失った代償は大きいものの、得られた利得もまた大きい。

 高額療養費制度、健康保険組合の独自給付、保険金、見舞金、休職手当、傷病手当、受け取ってきたこれらの疾病利得の原資となっているのは、世の中の税金や社会保険料、民間の保険料、組合費など、真っ当に勤めた現役世代が受け取る賃金の一部である。

 特に税金と社会保険料に関しては、ことある毎に国民負担率が引き合いに出される。算出方法に疑問は残るものの、限りなく50%に近い負担が現役世代に課せられている見方もできなくはない程度に、税負担が重いのは確かである。

 福島第一原発や、コロナ禍の休業補償然り、その原資を負担しているのは、他の誰でもなく、重税で苦しんでいる現役世代であり、せっせと働く正直者が馬鹿をみている状態に他ならない。

 私がガチ疾病で助かったように、これまで何の不自由もなく生きていたのに、運悪く損害を被り突然、弱者になってしまった者が、社会復帰する救済措置は必要だが、何でもかんでも補償すれば、税金が湯水の如く使われるのだから、一定程度の線引きはやむを得ないと考える。

 携帯キャリアはLTV(顧客生涯価値)をもとに、新規顧客を囲い込み、解約するまでのトータルで得られる利益の範囲内で、端末を割り引いたり、キャッシュバックでお得感を出す光景が、競争が激化する時期によく見られる。

 行政もそれを見習い、運悪く疾病を患った個人が、社会復帰するまでに要するであろう費用と、社会復帰することによって、生涯得られるであろう税収を天秤に掛けて、補償額の上限を定めるようなシビアさがあっても、それにより税負担が激減するなら、賛同する現役世代は決して少なくないだろう。

 被害者であり続けた方が得をする疾病利得社会では、それに気付いて実行者が増えれば増えるほど、ただでさえ少ない現役世代の負担が増し、一定の割合で潰れる者が出てきては、残された現役世代の負担が更に増す。

 現状の社会構造では、上記の負のループを繰り返すだけなのだから、採算を考えて線引きするか、いっそのこと、ベーシックインカムのような全員に一律給付する形で、別に被害者ヅラし続けても、大して得しない状態を、いかに創り出すかが重要ではないだろうか。


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