夢と個展とスケッチと
時が経つのは早いもので、今年もあと二ヶ月を切りました。
ふと気がつけば、街路樹の葉も色を変え、季節も秋から初冬へと。
かく言う僕もまた一つ、初老に足を踏み入れて、五十四歳になりました。
が、気持ちだけは二十歳の頃と変わりなく、今もなお、大きな夢を抱いています。
妻と一緒に松山の三津浜で、レトロ可愛いブックカフェをオープンするという、大きな夢を。
二人で買った店舗付きの古民家をリノベーションして、将来的にはお店をやりたいという、大きな夢を。
そう言えば、今からちょうど十年前も、大きな夢を叶えるために、僕は憧れのパリへ行き、クレパス画の個展を開催しました。
お陰さまで、パリの個展は盛況で、たくさんの方々にご来場いただき、画家になって十年目の節目に、大きな夢を叶えることが出来ました。
が、個展が終わって、日本に帰って少し経つと、僕の中で何かが足りないことに(あるいは、無くなっていることに)、ふと気がつきました。
それは、パッションなのか、モチベーションなのか、その時点では僕自身にもよくわからなかったのですが、とにかく描く気になれなくて…。
今思えば、あの時の僕は、長年の大きな夢を叶えたせいで、燃え尽きてしまい、いわゆる、燃え尽き症候群にかかっていたのかも知れません。
と同時に、絵を描くよりも、もっと他にやりたいこと(古物商の仕事)があったので、そんな症候群になる暇は、なかったような気もします。
いずれにしても、僕はクレパスと距離を置き、十年続けた画家を休んで、古い本や紙モノを扱う古物商の世界へ、再び足を踏み入れました。
と言っても、途中で何度かリクエストがあり、クレパス画を描いたこともありましたが、基本的には古物商として、生計を立てていたのです。
月に一度は業者市に行き、仕入れた商品を綺麗にして、お店で売るのはもちろんですが、ネットで販売することも、僕の仕事になりました。
それから後は、いろいろあってお店を閉店しましたが、今の妻や三匹の猫たちと出会い、今はこうして、あの頃よりも幸せに暮らしています。
もちろん、絵を描いていたあの頃も、幸せと言えば幸せでしたが、それにも増して、やっぱり孤独だったのは、いなめない事実でありまして。
そういう孤独が、僕にああいう絵を描かせ、僕をパリまで連れて行き、夢にまで見たパリの個展を、開催することが出来たのかも知れません。
そんな夢を、僕は叶えてしまったので、残りの余生は、高望みをせず、妻や猫たちと一緒に、のんびり穏やかに暮らすつもりだったのですが、
そんな僕が、あの頃のようにまた、今度は妻も道連れに、大きな夢を追いかけているのですから、人生とは全く、不思議と言うか何と言うか。
ある日突然、この物件に出会ってしまって、購入したのが運の尽き、と言うよりもむしろ、不思議なご縁が幸運を、運んでくれた気がします。
実際僕たちは、この物件を買ったお陰で、以前にも増して会話が弾み、楽しみが増え、日々の暮らしは生き生きと、気持ちも若くなりました。
しかもさらに不思議なことには、あの頃のようにまた、初心に戻って絵を描きたいと思っている、そんな自分も、どこかにいたりするわけで。
と言うよりも、すでにもう、新しい画材を購入して、今まで描いたことのないような、明るく可愛いパリの絵を、描いていたりもするのです。
以前のような孤独を感じる、黒をバックにした、暗闇に光が射す絵ではなく、温かく明るい日差しに包まれた、ノスタルジックなパリの絵を。
以前のようなクレパスを使い、細かい描写をするのではなく、今度は淡いパステルを使い、大胆かつ大らかに描く、レトロ可愛いパリの絵を。
おそらくは、パリの個展の期間中に、足を使っていろんな所へ行ったことが想い出となり、ワインのように熟成して、描きたい思いが沸々と。
あるいは、元々僕の中にあった、古き良きパリへの憧れが、僕の中で収まりきらずに、色や形を変えながら、溢れ出て来たのかも知れません。
そんな僕の新作も、こちらにUPしようかと、思ったりもしましたが、今はやっぱり時期尚早だと思うので、タイミングを見ていずれまた。
ところで、僕たちの夢であり、作品でもあるお店の制作状況は、現時点ではスケッチ(素描)か、エスキース(下書き)の段階でしょうか。
なので、それが終われば次はいよいよ、建物という名の大きなキャンバスに向かって、二人が夢見るブックカフェを描き始めるわけですが、
今はまだ、いろんなイメージを温めながら、心の中のスケッチブックに、とりとめもなく描くことを、子供のように楽しみたいと思います。
そして時には、スケッチブックを閉じたまま、妻と一緒にコーヒーでも飲みながら、ソファーに座ってまったりと、過ごしたいと思います^ ^
もしもサポートしていただければ、そのお金は、ブックカフェをオープンするための開業資金として、大切に使わせていただきます。