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アウトブレイクとエスケイプとステルベン⑥

今すぐ帰りたい〇〇さんを
何とか宥め横に居てもらい
朝の内服薬を各患者さんの朝食のお膳の上に置く

〇〇さんは病棟の流れが分かっているため
みんなの朝食がある、と説明すると渋々納得
悪い人では無いのだ

とにかく
私が配薬を済ませないと介護さんが配膳できない

その後〇〇さんと一緒に詰所前まで来る
息子に電話をして迎え来いと言え!
来なければ電車かタクシーで帰る!
と大声を出す

分かりました
今から電話をかけるので
ここで動かず待っていて下さいね

熱を測らせてねと非接触の体温計を
おでこにかざし、さっと測る
38.0℃
マスクはしているがズレており
鼻水が垂れているのが見える
鼻水を拭き取りしっかりマスクをつけてもらう

なんか…もう、今更感あるよね


〇〇さんの分の朝食もあるよ
と言っても
いらん!帰る!
の一点張り
相変わらず紙袋をしっかり抱え
絶対に帰るモード

仕方ない
夜勤明けと思われる息子さんに電話しよう

息子さんの携帯にかける
やはり夜勤明けで帰っている途中とのこと
もちろん迎えには行けない、と

日が登ってからの状態を伝え

これから来てもらうかもしれない
でも〇〇さんが発熱しているので
面会できるのかどうかは私の判断では分からない
また連絡すると思うと伝え電話を切った

息子さんは来れないと言っている
と伝えると
電車かタクシーで帰る!
と言い張って聞かない

わーん(꒦ິ⌑︎꒦ີ)
朝食介助どころじゃないよー


〇〇さんはウロストミーの患者さんで
尿路ストマがついている
つまり
尿が尿道口から出ず
膀胱から直接尿が出るように
簡単に言うと
お腹に穴を開け人工尿路が作られている
尿はそこから常に出てくるので
お腹にに貼り付ける袋(パウチ)を常時つけており
袋と管をつないで尿バッグに出てきた尿を溜めている


自宅で生活している時には
その尿路ストマとパウチ、尿バッグの管理を全て自分で行なっていた
なのでその日も帰るために
尿バッグをパウチから外し
荷物をまとめた袋に尿バッグをしまっていた

前の日も昼間からそうしていたので
夜ベッドに寝た時はパウチが尿でパンパンだった
一旦バッグをつけましょう
と私が袋から出してパウチとバッグを繋いだ

その時
持ち歩いてた袋の中に尿漏れてるよな…
一緒に入ってる荷物のあちこにちついてないか?
と不安になった
どうにも袋の中から尿臭がするのだ

朝が来てまた尿バッグを外した〇〇さんは
同じように袋の中にしまったようだった

帰る!そこをどけ!
我慢の限界の〇〇さん

ごめんなさい!どけません!
車椅子の前にしゃがみ車椅子を押さえる私

どかんか!
分からんやつだな!!
殴るぞ!

ごめんなさい
殴られるのは嫌だけど
どけません

と、わちゃわちゃしてる間に早番さんが来てくれた
私と〇〇さんの剣幕は
昨日の夕方の状況と何ら変わりなく映ったのだろう

昨夜からこのまんまなんですか?
と驚愕の表情

いや、さすがにそれはない
そんなだったら私今廊下に寝てるわ


なんとか昨夜はベッドに戻ってもらったんだけど
明るくなったら始まっちゃって…
と軽く説明し
私が全く入れていない朝食介助に入ってもらった


詰所とエレベーターの間で押し問答が続く
騒動を聞きつけた部長も来て
所属長も出勤してきた


どけって言っとるのが分からんのか!

尿バッグ(尿入り)の入った袋を振り上げて
私の頭をその袋で叩く

痛いのもあるけど
できればその袋で叩かないで欲しかった
叩いた拍子に袋が飛んでいく


ごめんだけどどけない

分からんやつだな!
どけ!どけ!
興奮して私のお腹を蹴る

所属長(男)が飛んできて
替わってくれるのかと思ったら
六花さん!フェイスシールドつけて!!
どこにあるの?持ってくるから
と言う

え?そこ?

そうこうしてる間に〇〇さんは荷物の中から
プラスチックのコップを出し振り上げた
ちょうど出勤してきた中年おばちゃんの介護士さんが
〇〇さん、それはダメ!!
と慌てて〇〇さんの手を掴む

所属長が私のフェイスシールドを持って走ってきた
…ありがとうございます
フェイスシールドをつける
ここそういう場面?

六花さんがうつっちゃったら困っちゃうから
と所属長は言った

はぁ…まぁそうっすね
夜勤やる人いなくなっちゃいますもんね

続々と出勤するスタッフに
周りを抑えられる〇〇さん
怒りもマックス

やば、エンゼルケアも入らなきゃ
葬儀屋さんいつ来るって言ってたっけ
9時半だったっけ
てか今何時?

廊下の掛け時計を確認すると
針は8時を少し回ったところだった




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