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【私の転職体験記】求人メディアの裏側を知って

アルバイト初日。緊張しながら編集部に向かうと早速指示が出された。
「今日はH社の新車発表会だから、レポートを書いてくれ。テキストはこのサイトにアップロードして、写真は〇〇さんのを使って。」

会場に着き、わからないなりに発表内容を記事にした。うちの会社から取材に来ていたのは私だけ。格好はスーツの人もいれば、色落ちしたキャップにジーパンもいる。左の席には色白細身の女性が座った。白髪頭の父親によく似た男性たちが私より前の2列を埋めていた。大手の新聞社から業界誌まで、さまざまなメディアから記者が集っていた。記事のアップロードを終えると相手を選ばずに記者同士で名刺交換をした。

編集部に帰り、会社が運営するメディアのトップページを開くと、早速自分の記事が公開されていた。公開作業をしたのは副編集長だった。デスクから立ち上り、副編集長がこう言った。
「今日はありがとう。りつさんの記事、今日のビュートップ(記事の閲覧数が一番多いこと)だよ」

Webメディアっていいな。なんか、清々しい。私はこの業界で生きていくことを心に決めたのだった。


どうして新卒でベンチャーに?

 

どうして新卒でベンチャーに?とよく聞かれるのだが、私の中ではベンチャーか大企業かいう選択の軸はそもそもなかった。会社の規模やフェーズより、Webメディアに関わることができれば、正直どこでもよかった。
 
2016年に大学を卒業した私は東京都港区にあるベンチャー企業に就職した。求人・採用広告を事業とする創業数年目のベンチャー企業で、当時の社員数は30名程度、売上は年間約6億円。前年比150%の売り上げ増を続ける、
まさに急成長中のベンチャー企業だった。
 
「求人・採用広告を事業とする」という点、イメージしづらい方にはリクナビやマイナビがわかりやすい例かもしれない。大学生や転職活動中の方向けに企業の紹介をして、募集中の求人案件を掲載する。私の会社は特に企業紹介に力を入れていて、まだ世の中に知られてはいない、無名だけどいい会社、将来伸びる可能性のある会社の魅力を伝えるところに注力していた。
 
私はその会社で営業・制作をしていて、企業で採用を担当する人事の方がお客さんだった。いろんな企業の人事と話し、クライアントの求める広告づくりに没頭した。

いい会社で、やりがいを感じられる仕事ができた3年間


三年足らずで転職してしまったが、私が新卒で入った会社は本当にいい会社だった。特に印象的だったのは、社員の声を聞くためのWebアンケートや面談の頻度だ。一年目の私が出した意見に対しても、時に迅速に対応してくれた。会社を、世の中をよくしたいという社員の純粋なパッションに溢れた会社だった。

Webメディアの制作は、成果がスピーディに数字に現れる。数字で成果が見えるとクライアントも喜んでくれる。感謝の言葉も時にいただける。ユーザーの反応もSNS等を通じてすぐに可視化される。他業界他業種の友人と話していても、自分の仕事は比較的やりがいを感じやすい仕事なのだと感じた。

なぜ、転職をしたのか?違和感を抱き始めたきっかけ


ではなぜ転職をしたのか。仕事に違和感を覚え始めたきっかけは、
あるクライアントからのメールだった。

求人広告を作る際、必ず確認することに
「御社はどういう人材を求めていますか?」
という質問がある。いわゆる “採用像の言語化” だ。

例えば、Edtech事業の会社であれば「教員を目指していたが、今の学校教育のあり方に問題意識を抱いた経緯がある学生はフィットしやすい」「ITツールを活用して教育のあり方を変えたいというパッションのある人がいい」といった感じで、どのようなことに関心や問題意識のある学生が欲しいのかのニーズがある。

しかしそのような中で、とあるベンチャー企業(以下、A社とする)から
「うちはまだ女子を雇う余裕がない。産休・育休を取られたら困るから男子学生を採用したい」という要望をいただくことがあった。Aは創業まもない。事情は理解できた。

一方で、単に会社のカルチャーにフィットするかどうかの観点から「うちはゴリゴリの体育会系企業だから、体育会に所属する男子学生を採用したい」という依頼を受けることもあった。

こういった場合、女子を雇う気はないが、求人広告にはそう書けないので、女子学生からエントリーが来たら面接はするのである。繰り返すが、採用する気はもちろんハナから無い。

無邪気に面接に挑む女子学生がかける時間・お金は無駄になる。徒労に終わり、学生の自信が喪失することを「わかってて見殺しにする」。差別はするのに、していないフリはする。言い方は悪いが、嘘つきに加担するようで私に
は罪悪感があった。

また、ある時は新規のクライアント(以下、S社とする)から、とある業務改善ツールの販売を行う営業職を新卒で10名程度採用したいというメールがあった。依頼内容としては、広告の掲載と、面談の代行だった(この場合S社の新卒採用の面談を、私の勤めていた会社が代わりに行い、一定数に人数を絞った段階でS社に候補者を紹介するという流れになる)。そのメールには「容姿端麗で艶かしい女性が良い」との記載があった。見た目の綺麗な女子学生を採用したいという要望だ。私は新卒2年目で、社会に出たばかりであったこともあり、非常にショックを受けた。綺麗な女性だったら良いのか?もしS社のツールの有用性・意義を誰よりもよく理解していて、それをぜひ売りたいのだと熱いパッションを抱く男子学生がいたら?男性だという理由で採用しないのだろうか?私は違和感がどうしても消えず、何度も頭の中で繰り返し問い直した。そして、S社の依頼を受けること自体に反対意見を出した。性別と容姿による差別をここまであからさまに行うのはおかしい、と。しかし、結局会社はS社との取引を開始。面接を代行した際のメモには、ビジュアルの良し悪しについての面接官の所感が記されていった。



差別をするなら、堂々とするべきではないか。差別をするとうちうちで明言しているにもかかわらず、公にはしないということに気持ち悪さを感じた。

例えばA社の場合、会社が創業まもなくて、資金的余裕がないという事情
は理解できる。妊娠・出産に関する会社のサポートができないのであれば、
そのように公言すればよかったのである。形だけ整えて、本質の方には異を唱える勇気のない小役人に周囲の人間が見えた。これが当時の私の憤りであり、正義感だった。

この1年後に当時のクライアント企業へ私は転職した。私が転職したところで、私が見聞きした差別は無くならないし、水面下で差別的待遇を施す企業はいまも変わらなくあるだろう。ただ一つ言えるのは、もし転職をしていなかったら、あの時感じた「おかしい」という感覚、正義感が私の中からも消えて無くなっていたかもしれないということだ。消えることは則ち「会社の環境に慣れる」ことであり、そちらの方が正解だという人もいるだろう。だけど、私は会社から距離を置いたことを今でも後悔していない。自分の正義感に素直に向き合ったとしても、生きる選択肢は見つけられるからだ。給料は下がった。前の会社の同期の方がずっとずっと偉くなっている。でも、これでいいのだ。私は今、他の道で社会のあるべき姿に向き合い、自分のするべきことをしている。


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