ハッピーエンドを待っている 〜転生したけど前世の記憶を思い出したい〜

7.一欠片でも、涙は溢れる

 城に入った俺達はそれはそれは豪華な部屋へ通された。

 メイド達が、母様を別室に連れて行った。

 そして残された俺も、メイド達が風呂に入れてくれて、丁寧に磨き上げられた。

 母と同じ銀髪の髪は、今までよりも一層輝いている。

 そんなにブラッシングしなきゃダメなの?

 犬になった気分なんだけど‥

 小さなバスローブから、
 真新しいシャツと複雑な刺繍入りのベスト。上着に合わせた子供らしいハーフパンツ。蝶ネクタイ。

 あぁ、入学式か‥?

 それにしちゃ目立つけどな‥

 蝶ネクタイが窮屈で、くいっと緩めた。

「テオドール!!」

 別室から母様が現れた。

「母様‥」

 慌てて飛び出してきた母様は、鮮やかな海の様なアクアブルーに波のように白いグラデーションが入った
 ドレスと、豪華な首飾りに、綺麗な銀髪をヘアアレンジされ、元々綺麗な顔に化粧を施され現れた。

 とても、美しかった。

 そんな着飾れられた母様は、ドレスなどお構いなしに
 俺をぎゅっと抱きしめた。

「母様‥‥」
「あぁ‥離れてしまって、不安で仕方なかったわ
 このまま離れ離れになってしまったらと‥」

「母様、僕を見て?僕も綺麗な格好にしてもらっちゃった。でも母様、とても綺麗だよ。お姫様みたいだ。」

「テオドール‥」

 不安げな目を隠せない母様、だから俺は何も知らないように、綺麗にされた事を素直に受け入れたふりをした。

 母様を守らないと‥怯んでなんか居られないんだ。

「マーガレット様、テオドール様、どうぞこちらへ‥」

 部屋のドアに立っていた、鎧姿で立っていた騎士。

 硬ってぇんだろうな‥‥頭にはなんにも被ってないから、面一本なら、時間稼ぎ出来るかな‥

 騎士に連れられ、長い赤いカーペットのひたすら歩いた。

 進んだ先に、一際大きく煌びやかな扉。

 そんな高いドアいるの?

 ドアの隅には、これまた美形の従者がいた。

 にこりと笑ったそのイケメン。

 外人だから、イケメンなの?
 基準高いの?

「皇帝陛下、マーガレット様、御子息のテオドール様がいらっしゃいました。」

 扉の向こうで「通してくれ」と低く渋い声が聞こえた。

 豪華な扉が開かれて、俺は驚いた。

 皇帝陛下は、最奥に玉座に座っていた。

 えっ、声聞こえたの?

 扉開く前だったよな?

 心の声は、アレクシスしか読めない。

 どんな事を思っていたって自由だろ。

 純粋な疑問だよ。

 母様は部屋に一歩入ると、ドレスの裾を持ちカーテシーをした。

「近うよれ」

 母様の手は少し震えていた。

 俺は母様の手にそっと触れた。

「母様‥」

 そして、母様の手を握りしめた。

 そんな俺に後押しされたのか、母様は深呼吸し、
 俺を連れ皇帝陛下のそばへ歩みを進めた。

 再度、玉座の前でカーテシーをする母様。

 そんな母様を見て、俺も片手を胸に当て、腰を折った。

 皇帝陛下は、黒髪に暁色の瞳。厳しそうな面持ちではあったが、なんだか、俺達を見る目が生暖かい。

「突然呼び出され、さぞ驚いたであろう。」

「お目にかかれて光栄に存じます。陛下‥」

「マーガレット嬢、苦労はなかったか?
 1人で子供を育てるのは大変であっただろう‥」

「この子は私の宝で御座います。苦労などとんでございません。何より‥」

「あぁ‥わかっておる。オリヴァーが、そなたを待っていた。」

「約束の時はきた。テオドールはこの事は知らぬのだろう?」

「‥‥‥はい‥‥‥」

 なに?

 約束?

 え、なに?

 俺は母様と皇帝陛下をオロオロと見た。

「はははっ‥髪以外はオリヴァーにそっくりであるな。
 私の孫よ。よく来てくれた。」

 優しく笑う‥皇帝陛下。

 えっと、ちょっと待って、違う。
 想像と違う。

 なんで歓迎されてんだ?婚外子だろ?

「すまなかった。そなたとオリヴァーは想いあっていたのに、オリヴァーの地位が不安定であった為だが、
 つらい想いをさせてしまったな‥」

「とんでもございません。私の想いは今も変わりません。オリヴァー様の為ならば、この身を削ってでも構わぬ覚悟で御座いました。オリヴァー様のお役に立てたのならば、私は幸せで御座います。

 それに私はオリヴァー様から、宝物を頂きました。」

 母様は先程震えを忘れさせる程、堂々と話していた。

「オリヴァーが待っておる。会いに行くが良い‥」
「はい、ありがとう御座います。」
「下がるが良い。またゆっくりと話そう‥」

 最後にまた綺麗なカーテシーをして、俺を連れて
 部屋を出た。

 そして、次に通された部屋。

 そこには

「マーガレット‥」

 執務室の窓際、差し込む光に照らされた。
 皇帝陛下と同じ黒髪に、俺と同じ暁色の瞳。

 あ、髪の色は違うけど‥‥俺と似てる‥‥

「オリヴァー‥様‥‥」

 目に涙をいっぱいに溜めて、感極まった母様は
 皇太子である俺の父親に駆け寄り抱きついた。

 そんな母様を抱き止める父。

「あぁ‥マーガレット‥‥会いたかった‥」

 息子置き去りのロマンス劇場が目の前で繰り広げられる。

 ちょっと待って、全然分かんない。

 皇帝陛下もそうだし、皇太子‥いや、父様?

 勝手にクズ認定してたけど、父親を初めて見た。

 なんなんだ?何が起きてる?

 皇太子は結婚してんだろ?母様と抱き合ってる場合じゃなくね?

 なにこれ、俺何を見せられてるの?

 抱き合った皇太子は、ふと顔上げて、目の前にいる俺に目を移した。

 そして、優しい目をして、笑み浮かべた。

「テオドール‥‥おいで‥‥」

 母様を抱きしめていた片手を俺に向けて差し出した。

 ちょっと待ってよ、ロマンス劇場に引き込むなよ‥

「テオドール、お父様よ?こちらへいっらっしゃい」

 涙を流しながら、笑みを浮かべた母様に呼ばれて、
 俺は少しずつ2人に近付いた。

 父親から初めて差し伸べられる大きな手。

 それは母様よりもずっと大きくて、なんて言うか、
 すべてから守られそうな強さを感じた。

 そして、触れ合った手を握り、父は俺の目線に合わせる様に膝を突き、俺を見つめた。

「あぁ‥‥綺麗な髪だな。マーガレットと同じだ。
 瞳は私と同じで‥‥私の幼い頃の顔にそっくりじゃないか‥。どんなに会いたかったか‥‥
 産まれてからずっと会わなかった私を恨むであろう‥。
 だが、私はいつも2人のことを思っていたよ。
 2人が幸せに暮らせる様に、この城から見守る事しか出来なかった父を許してくれ‥
 お前達を守るにはこうするしかなかったのだ‥。テオドール、とても会いたかった‥」

 うっすらと涙目の父は、俺の両手を包み込んだ。

 混乱はしている。けれど、父の言葉は嘘には聞こえない。

「‥‥恨んでないよ‥母様と一緒に居たから、
 全然寂しくなかったし‥幸せだった。」

 それは本心。母様が俺を大事にしてくれたから、
 俺は幸せだった。会ったこともない父を恨むより、
 俺は母の愛情で胸がいっぱいだったのだから‥‥

「そうか‥そうか‥‥‥これからは、私も一緒にお前と母を近くで守ろう。もう離れる事はない。」

 グッと目に力を込めて、涙を流すまいとする父。

 ただ、俺は分からない事だらけなんだ。

 なぜ、この人達は離れ離れに暮らすことになっていたのか。そして、今なぜ一緒に暮らす事になるのか。

 俺から手を離した父は再び母様の肩を抱き寄せ、
 頬を寄せ合って幸せそうに笑っていた。

「・・・・・・・」

 あぁ‥なんか分かんないけど、幸せそうだな‥

 この光景は眩しかった。

 あんな綺麗な光が差し込む窓際で、まるで祝福されたように並ぶ2人。

 それを見ていた俺の目から、何故か涙が一筋溢れた。

 俺も、こんな風に誰かと頬寄せて笑った事がある‥

 あれはまだ幼い頃、俺の隣にいた‥

 そう、あれは‥‥

 試合に負けて慰めてくれて、泣き止んだ俺に
 頬を寄せて

 《‥‥‥強くなって私を守ってくれるのね?

 じゃあ、私はずっと、暁が強くなる様に、

 神様に毎日お祈りするね。

 だからずっと、私と一緒にいてね!‥‥‥》

 《うん!!約束だ!!!絶対、守ってあげるよ!》

 あぁ‥‥‥‥記憶が‥‥‥

 俺の目から涙が、思いが溢れ出してくる。

 これは、幼い頃の約束。

 あんな風に、頬を寄せ合った。

 あの約束をする前に、思ってたんだ。

 俺は、お前を守りたくて‥‥

 必死に‥‥

 あの頃から、俺達は‥‥‥‥

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