ハッピーエンドを待っている 〜転生したけど前世の記憶を思い出したい〜

8.権力とは

 意図せず寄り添う両親を目の当たりにして、思い出した記憶のかけら。

 あれは7歳だった暁の記憶。

 その約束をした女の子の顔は見えなかった。それどころか、姿形もぼやけていた。
 眩い光に隠されたようだった。

 でもようやく、1つ‥思い出す事ができた。

 死んだ時、俺の人生の中には、あんな場面はなかった。

 アレクシスが言っていた事はやはり事実だった。

 俺は残されていた。

 俺の中には無かったものだった。

 映画を見るような‥涙は出るのに、その場面と言葉しかわからない。

「テオドール、どうしたの?何故泣いているの?
 あ、お父様に会えて嬉しくて泣いてるのね?
 これからは、もう大丈夫よ?私達3人で幸せに暮らせるわ!」

 俺を抱きしめ、母様はとても嬉しそうに言った。
 本当に心の底から幸せそうだった。

「そうだよ?もう心配しなくていい。」

 涙を拭った。俺にはまだ疑問はちゃんとあるんだ。

「皇太子様、あ‥いや、お父様?」
「ははっ、今は父様と呼んでくれ、母様と同様に‥」
 優しい父様は俺を抱きしめようと手を伸ばしてくれた。

「まっ‥待って下さい父様!」

 ぎゅっと身を縮めて、声を張った。

 ぴくりと動きを止めた父様は、吃驚した表情を浮かべていた。

「あ、あの‥‥と、父様には、お妃様が‥
 なのに、母様と僕と一緒にとは‥一体どういう事なのですか?!」

 気を遣ったつもりだ。

 真実を知るまでは、気を緩めてはならない。

 グッと、父様を見上げた。

 そんな俺を見下ろした父様は優しく俺の肩に手を置いた。

「話せば長くなるんだ。お茶を用意させるから、
 座ってゆっくり話そう。な?テオドール。心配するな」

 隣に目をやれば、母様も微笑んでいる。

 これは死活問題なんだよ!
 皇太子妃にひょっとしたら俺ぶっ殺されるルートだってあるだろ?
 母様だって無事ですまないかも知れない。

 程なくして、メイド達が紅茶とお菓子を用意して部屋を出ていった。

 向かい合って座った父は、顎に手を当てて少し考え込んでいた。

「テオドールは、母様がどんな人か知っているか?」
「美人です!」

「ははっ‥そうだな、私の生涯でも、マーガレットより美しい人は見た事がないよ。」

「まぁ、オリヴァー様ったら‥恥ずかしいわ。」

 ふいっとそっぽを向いた母様。
 
 いや、今はそんな事はいい。

「母様がどんな人かとは‥母様は平民なのではないのですか?それ故、父様とは結婚なさらなかったのでしょう?」

 少し前のめりに疑わなかった事を述べた。

「テオドール、母様は立派な貴族だよ。
 マーガレット・グランディール、グランディール伯爵家の一人娘だった。
 
 私達に、結婚できない理由はなかった。
 私はマーガレットを心から愛していたし、私もマーガレットの愛を疑った事はない。」

「では‥‥なぜ?」

「私には、2つ下の弟がいてね‥私は皇太子として小さな頃から教育を受けて育ってきた。弟のデビッドは側室の子なのだ‥皇太子の地位を欲して、私を殺そうと企んでいた。」

「はぁ‥‥‥それで、母様と結婚出来ないと‥?」

「デビッドの母は側室でも、野心の強い方だった。侯爵家の出身で、私はもちろん警戒していた。そんな中デビッドは、侯爵家の息のかかった伯爵家の令嬢と婚約すると言い出したのだ。伯爵令嬢は、デビッドの事をひどく嫌がっていてね‥。助けてくれと、頼まれたのだ。

 ‥侯爵家からの支援が無ければ、デビッドの勢力は強くない‥。皇后陛下は公爵家の出身だしね。要は、デビッドは伯爵令嬢を利用しようとしていた。それが、今の皇太子妃、アリアナだ‥。

 デビッドとアリアナが結婚し、アリアナを操り、侯爵家と共に私の首を切る計画をうまく進めたかったのだろう。皇后陛下も害そうとしていた。自分が皇后になる為だ‥‥。
 私に何度も暗殺者を向けた‥。
 そして、私達は話し合って、アリアナと私が婚約し、侯爵家の悪事を隅々まで明かせるまで泳がせておく事にした。アリアナと協力し、側室と、侯爵家の謀反計画を探っていた。皇帝陛下も心を痛めたが、これ以上は庇えない切れないほど、デビッドとその母、侯爵家は悪事に手を染めていた。だが、なかなかうまくいかなくてね‥こんなに時間が過ぎてしまった。

 アリアナの恋人であるロイドも今は私の従者だ。元々は伯爵家の騎士だったのだがな‥。アリアナと共に城へ上がったのだ。いつも一緒にいる‥。
 アリアナとは白い結婚だ。謀反を突き止め、奴らを捕らえるまで、私達が離れ離れになってる間はアリアナとロイドにも子ができぬ様約束した。
 皇太子妃に子が出来てしまっては、第一皇子になってしまうからな‥

 ‥まぁ、しばしの別れを惜しむ最中、お前が出来てしまったのだがな。はははっ」

 悪びれる事なく父様は笑って済ませた。

「デビッド‥皇子は、母様の事は知らなかったのですか?」

「ふっ‥‥私は好きなものはこっそり1人で愛でるのが好きでね。婚約発表をするまでは、隠し通していたかったのだ。私の婚約者となれば、危険が及ぶ。大事な宝物を晒すものか‥とな?」

「‥‥そ、それから?」

「アリアナからの話は、私とマーガレットが婚約を発表する前だったから、うまく事が進んだのだ。私達が婚約発表してしまえば、当然この計画は台無しになってしまう。それで、マーガレットが、伯爵家を出て、平民として姿を隠し、お前を産み育ててくれていたのだ。グランディール伯爵家はマーガレットが失踪したと思っている。マーガレットは私が信頼する騎士団に護衛させていた。」

「見たこと‥ないですね‥」

「見事であろう?城にいる魔術師が、毎度護衛達が私の息がかかった者だとバレぬ様、容姿を変えて一日中護衛させていた。平民に扮してな。お前達が住んでいた家の一帯は、殆どが騎士団が交代で店屋をしていたし、まぁ、権力って、素晴らしいんだ。」

 ニコリと笑う父様。

 魔術師、魔術がどんなものかわからないが
 7年間も‥虫の息じゃねーのかな‥
 魔術師から謀反起こされなくて良かったな‥

「でも、母様を知ってる貴族達だって居たでしょう?よくバレませんでしたね」

「実はな‥他の人々に、お前達の容姿が別人に見える様、魔術をかけておいたのだ。」

 いや、ウィンクしてる場合かよ。

 魔術師すげー働いてんじゃん。

「じゃあ‥‥迎えに来てくれたのは」

「そう、デビッドと側室を謀反の罪で捕らえ、侯爵家も潰してやった。
 だが、一度皇太子妃となったアリアナと私が離婚をするのは、民達に示しが悪いだろう?だからアリアナは数年前から不治の病にかかった事になり、もちろん子も出来ない身体であった事になっている。
 私はそれを看取った事とし、彼らを国外に逃してやる事になっている。アリアナ達もそれを望んでいる。

 そして、マーガレットとお前を皇太子妃と、第一王子として城に迎えるのだ。民達は喜ぶであろう。後継者ができたのだ。もちろん、神殿で親子である事を証明する必要がある。

 まぁ、そんな事をせずとも親子に変わりはないがな。

 この計画を知っているのは皇帝陛下と皇后陛下、魔術師と皇太子の騎士団、アリアナとロイド‥

 私は、必ずお前達を迎えられる様に、最善を尽くした。貴族から平民に扮し、これまで生活してくれたマーガレットの苦労が心苦しいが、マーガレットの協力がなければ、
 お前達がデビッドや側室に捕まってしまっただろう‥。お前達は私の心臓なのだ‥。

 お前達が捕まってしまったら、皇太子が代わっていたかもしれないな‥
 私は、この首を喜んで差し出しただろう‥」

「‥父様‥」

 なんか‥‥思ってたのと違うなぁ。

「伯爵家の母様が姿を消してしまってグランディール家の方々は‥」

「あぁ、知らない。」
「‥‥
「グランディール家には申し訳なく思っているが、マーガレットを、守る為だ。」

「‥‥魔術ってあるんですね。」

「あぁ!皇帝陛下と、その後継者の皇太子にしか権限がないのだ。皇后陛下も知っては居るがな。
 だからデビッドには伝えられていない。」

 それ、俺、知ってよかったの‥?

 あ、いずれ俺はこのまま行けば皇太子になるのか‥?
 父様が皇帝陛下になったら‥

 まぁ、魔術師なくして、成り立たなかったんだな。

 魔術師がパーティについてる時点で、
 デビッドは詰んでたんじゃないのか?

 でも、俺!

「でも、父様‥これだけ大芝居をして‥突然私が現れたら、貴族や民達は動揺するのでは?
 皇太子妃のアリアナ様と結婚したのに、母様と父様の仲は誰も知らず‥」

「あぁ、アリアナの死とロイドの事以外は、謀反を起こしたデビッド達の事を世間に公表してしまえば良い。明日デビッド達は公開処刑となる。ロイドは元々平民の騎士だったし、この地を離れれば問題なかろう。何かあれば、その時考えよう。私が婚前に令嬢との間に子を成した事も、デビッド達の悪事が世間に知らされればお前を隠していた事も納得してくれるであろう。むしろ、私のために後継者のお前を隠し育てたマーガレットは賞賛されるであろうな。なにせ、皇太子妃との間には子が出来なかった。世の中は後継者の存在を喜ぶであろう。グランディール家も・・・。」

「そー‥言うものですかね‥」

 なんだか、不安だけど大丈夫か?

 不安な顔が隠せなかったが、
 そんな俺を見た父様はニヤッと笑った。

「あぁ、そう言うものにしてしまうのだ。」

 ドヤってらぁ‥‥

「‥‥まぁ‥‥父様がそうおっしゃるのでしたら‥。」

「安心しなさい。反論などさせない。
 なにかあれば私は、暴君と化してやろう。」

 だからドヤるなって‥

 ふぅ‥と肩の力を抜いた。

 まぁこの計画は俺が産まれる前から実行されていたのだ。

 父様、母様、皇帝陛下、皇后陛下、
 そして、アリアナ皇太子妃、恋人のロイド。
 騎士団‥

 そして、偉大な魔術師‥‥

 やっぱ、パーティにはマジシャン職必須だよな‥‥

 なんだ‥俺、すげー守られてたじゃん。

 母様と父様は利用されそうになっていたアリアナとロイドとの恋を庇い、悪を潰す為に離れる事を選択した。

 だからあんなに、母様は父様の事を褒めていたのか‥

 愛を疑わず、7年間離れる事になっても、ずっと‥‥

「さぁ‥とりあえず、事情は理解できたか?幼いお前には難しかっただろうか?本当に、離れて暮らしていたこの父を、恨んではいないか?」

 眉を下げて心配そうに父は尋ねた。

「‥‥僕は、父様を恨んでなんかいません。むしろ‥離れていても、こんなに僕達の事を想っていて‥
 悪者をやっつけて、僕達を迎えに来てくれました。
 それに、父様に会えて、僕は嬉しいです。
 母様がたくさん笑ってくれるので‥」

「「テオドールぅーーー」」

 目をうるうるさせた両親は息を合わせて俺を抱きしめた。

 2人から頬擦りされる。泣きながらも笑顔の母様と、満足気な笑顔の父様。

 そんな2人に挟まれた俺は、
 やはり、幸せだった‥

 アレクシスの言ったようなシナリオは訪れなかった。

 こんなにたくさんの愛と権力と
 ‥‥魔術師に守られていた。

 俺はこれから、第一王子として、
 この世界を生きる事になる。

 産まれる前から、守られていた。

 すべてを知った俺はこれからどう生きるのか。

 両親の笑顔は、眩しかった。

 愛し合っていれば

 生きていてくれれば

 また結ばれる時がくる‥

 俺もいつか、番(つがい)と共に

 笑い会える日がくると、

 そう思える気がした。

 生きていれば、幸せな時は訪れる。

 そう、生きていれば、すべてが‥

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